僕はこの村に来なければ
どうもココアです。
本日もよろしくお願いします。
「セリア!!」
村について無意識に僕はセリアの名前を叫んでいた。そしてさらに速度を増して今度はセリアの家へ、
セリアの元へ走っていた。
今の僕はこれまでにないほど追い詰められていた。それは、あの時感じた寒気……。あの寒気と似たようなものは過去にも感じたことがあるけれど、今回はいつもと違う気がした。それはきっと、今がとても幸せだからだ。
今がとても幸せだからこそ、辛いことや悲しいことがより強調されて浮き出てしまう。
「どうして、どうして今なんだよ……っ!!」
結局こうなる運命にあるとするなら、どうして僕に少しでも『幸せ』を与えたのか。どうして僕に『人の温かさ』を教えたのか。
「結局失うかもしれないなら知りたくなかった……」
何も知らなければそれがどんなに尊くて、儚いものなのかも知らなかった。それがどれだけ心を満たすのかも知らないままだった。知らないままの方が幸せだったかもしれないのに……。
襲い掛かってきた張り裂けそうな胸の痛みに堪えながら、僕はセリアの元に向かった。そして、彼女の肩を震えた手でに握りながら叫ぶ。
「セリア!!こ、ここから逃げよう!早く逃げないと……」
何があったのか。どうしてそういう結論に至ったのか、それすらも説明できないほど僕は追い詰められていた。
当然状況が理解できていないセリアは口を開けたまま呆けている。
「よ、ヨグ?どうしたんだ急に?何かあったのか?」
まるで赤子をあやすように僕の背中をポンポンと叩くセリア。僕はそれで少しだけ正気を取り戻すことができて、自分の胸に手を当てながら荒くなっていた呼吸を整える。
「ごめんセリア……。実はさっき森の中である気配を感じたんだ」
「気配?」
「うん。あの気配は僕が元いた国に感じた気配で……」
思い出したくもない記憶を蘇らせながら口を動かすが、僕の話は途中で途切れることとなった。それとうのも、外から巨大な爆発でも起きたような衝撃と爆音が僕らを包み込んだからだ。
「な、なにが起こった!?」
血相を変えたセリアが急いで表へ飛び出す。それに続いて僕も表へ出て辺りを見渡すと、村の入口の方から真っ黒な煙が上がっているのが見えた。よく見ると煙の下からは赤い炎が湧き上がるようにして燃えている。
「む、村が……。みんなは!!?」
煙を確認したセリアが急いで村の入口へと走る。僕もセリアの背中を追うようにして入口へと向かう。
「僕のせいだ……。僕がここに来たからこんなことに……」
この村で唯一、あの煙が誰の仕業か分かっていた。あの煙も、あの気配も僕は分かっていた。
――僕は元々ある任務に失敗してこの島に、そして村にたどり着いた。
上の奴等は僕が任務に失敗したことを知って、僕を探していたんだ。死んでいたならそれで良し、生きていれば任務失敗の罰として殺される。
だから今この村に奇襲をかけてきた奴等は僕のことを殺しにやってきたんだ。僕がここに来たから皆を巻き込んだんだ。僕が……僕が……。
「僕がこの島に来なければこんなことにはならなかった」
改めて自覚する。自分が生きていることの罪の重さを。やっぱり僕は生きていてはいけないのだと。それと同時に僕は自分自身に誓っていた。
たとえ僕が死んだとしても、この村とセリアのことは絶対に守ると。
◆◆◆
――村の入口。
魔物対策で囲われた策は炎で焼かれ、さっきまで見えていた青い空は炎の先から巻き上がる黒い煙に覆われていた。
村のエルフ達が逃げる暇もなく入口は炎の海に包まれてしまい、ただ茫然と炎で焼かれる村を見ていた。
「これはとんだ儲けもんだぜ」
そんな中、炎に覆われてる入口から一人の男がゆっくり歩いてきた。不気味な笑みを浮かべながらエルフ達に近づくその男は、胸から足まで思い甲冑で覆われており腰には大剣が下げられていた。
エルフ達は近づいてくる男に警戒しながら距離を取る。数秒の沈黙後、ティアラがエルフ達をかき分けて前に出て男に問いかける。
「この炎はあなたの仕業なの?だとしたらどうしてこんなことをしたの?」
問いかけられた男は明らかに面倒な顔をしながら、首をぽきぽきと鳴らしながらため息をこぼすようにして答えた。
「俺たちはヨグって言う奴を探すためにここに来ただけだ。ぶっちゃけお前らの村を燃やしたのも、ヨグを探すのに手っ取り早いと思っただけだ」
「ヨグを……?」
「でもまあ、予定が変わった。本当ならヨグを見つけて殺すだけだったが、まさかエルフに会えるとは思えなかったぜ」
この村で育ったエルフ達は外の島や国にはいかない。この村で生まれ、この村で育ち、そしてこの村で死んでいく。だから自分達が人間の間で伝説的な扱いを受けているということも知らなかった。
「取引をしてやる。大人しく捕まるなら特に何もしねえ。だが、少しでも抵抗するなら殺してから連れていくかここで焼死体になるかのどっちかだ。さあ、どっちにする?」
「あなた何を言って――」
反抗しようとティアラが一歩踏み込んだ瞬間、彼女の右横に大剣が振り落とされた。あまりに一瞬の出来事に誰一人として反応できなかった。
瞬きするよりも短い時間。男がいつ剣を抜いたのかも、いつここまでティアラに近づいてきたのかも誰一人として気づくことができなかった。
「うるせえなあ……。余計なことは言わないでさっさと決めればいいんだよ。簡単な話だろ?俺たちに服従するか死ぬかの二択なだけだ」
「あ……え……?」
当たっていないとはいえ、誰よりも近くで男の強さを味わったティアラはまともに言葉を返すことすらできなくなっていた。振り落とされた大剣でできている地面のへこみ、その瞬間に横から飛んできた風圧。
まさにティアラは足がすくんで動けなくなっていた。
「っち。こいつは殆ど気絶してやがる。おいシェルム!」
答えることも動くこともできなくなったティアラに呆れた男は、炎で覆われている入口に向かって叫んだ。すると少年くらいの体格の男が炎の中からやってきた。恐らくこれがシェルムという男なのだろう。
「どうしたのマソン。君が僕のことを呼ぶなんて珍しいじゃないか」
「御託はいいからさっさと船で待機させてる奴等全員呼んで来い。それでこの村のエルフ全員連れていく」
「へえ、エルフなんていたんだね。それは僕もすごく興味深いなあ。色々と実験するのが楽しみだよ……」
少年のように無邪気な笑顔を見せるシェルムだが、会話を聞いていた者からは少年の皮をかぶっているだけの化物と思ったことだろう。このシェルムの笑顔がエルフ達をより一層恐怖に陥れ、もはや抵抗する気力すらもなくさせていた。
――そしてシェルムが援軍を呼びに再び炎の中へ向かったところで、村の奥から二人の人物が走ってきた。
「みんな!!」
そう。セリアとヨグだった。セリアは着いて早々村の皆のことを気にかけ、今のところ誰一人として死んでいないことに心底安心している様子だった。
ヨグは軽く下を向いたままゆっくりとマソンと呼ばれていた男に近づいていき、ティアラの肩をポンと叩いて小さく囁く。
「ごめん……こうなったのは僕のせいなんだ」
ティアラの耳元でそう囁いたヨグは、そのまま彼女を抱えて後ろに控えているエルフ達の元まで運んだ。そして再び、マソンの方面に振り向く。今までマソンはティアラが一歩足を動かしただけで大剣を振り落とし、力を見せつけるような行為をしてきたがヨグがティアラを抱えて安全な場まで運ぶことに関しては特に手を出したりはしなかった。
ただ、誰もが寒気立つほど気味の悪い笑みを浮かべる以外は。
「久しぶりだねマソン……」
睨みつけるようにしてマソンに視線を向け、小さな声で簡単に挨拶する。旧知の仲で感動の再開とはお世辞にも言うことができない、圧力を感じる独特な緊張感が漂っていた。
「ようヨグ。どこでくたばっているのかと思えば、まさかまだ生きているとは思わなかったぜ。おかげで俺たちの仕事が増えちまった」
「そうか……」
お互い軽口を叩きながらも警戒を怠っておらず、絶妙な距離をとっていた。お互いに後の先を狙っているようにも思えたが、次の瞬間、マソンがいきなり大剣を振り落とした。
何の前触れもない強力な斬撃。さっきその斬撃を見たエルフ達は、マソンの大剣でヨグが殺される姿を想像していた。
「がは……っ!!」
――しかし、大剣が地面に振り落とされたと同時にマソンの首がヨグの短剣によって切り裂かれていた。
どす黒い血が緑の草を覆い、一瞬にして水たまりのようになる。
「てめえ……!!」
声帯も同時に切られたマソンは、もうまともに声を出すことすらできなくなっていた。やがてマソンは膝をつき、そのまま倒れこんでしまった。
「ヨグ……?」
この村にいるエルフ達の誰も見たことが無いヨグの圧倒的な強さ。さっきまで誰もがヨグが殺される未来を想像していたというのに、その想像はほんの一呼吸の間にかき消されてしまった。
エルフ達はそのヨグの強さに安心すると同時に、恐怖の感情も抱いていたのだった。
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