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だから剣聖は救われない  作者: ココア
第2章
34/37

幸せの時間は瞬きのように短くて

本日もよろしくお願いします。


「ヨグお前、意外と大胆なところがあるんだな」


「言わないでよ!!僕だって恥ずかしかったんだから」


 丘からの帰り道。僕らは来た時とは全く違う雰囲気で歩いていた。その時はセリアの背中を見ながらだったけれど、今度は彼女の隣を歩きながら帰っている。今までより少しだけ特別な関係になって。


「そう言えばセリア」


「なんだ?」


「いつ頃から僕のことを好きになったの?」


「なっ!?」


 簡単な仕返しのつもりで訪ねてみると、セリアは顔をリンゴのように真っ赤にして慌てだした。


「な、何でお前はそういうことを易々と聞くことが出来るんだ。いつ好きになったからなんて……」


 何とか冷静を装うと言葉を並べるが、心なしか早口になっていて最後の方は声も小さくなっていた。クールで表情が変わりにくいと思っていたけど、本当はこんなにも可愛い顔が沢山あったんだ。まだ僕の知らない彼女の顔があると思うとどこか嬉しくて、無意識に顔が緩んでしまう。


「……お前、何を笑っているんだ?」


「いや可愛いって思っていただけだよ」


 僕の顔を見たセリアが不服そうに言ってきたので、思ったことを正直に伝える。すると、また恥ずかしそうに顔を赤らめる。そして黙って僕の背中を強く叩いてきた。


「いたっ!?い、いきなり何するんだよ!」


「う、うるさい!お前少しは『恥ずかしい』ということを知ったらどうなんだ」


「別に……セリアが可愛いって言っただけじゃないか」


「だからそういうところだと言ってるんだ!!」


「いたっ!?だからって叩くこと無いでしょ」


 正直なことを言っているだけなのに、また背中を叩かれてしまった。少しの痛みが背中から全身に伝わる。……よく分からないけど、上手く言葉にできないけど僕はこの痛みがどこか心地よかった。


 痛みが心地良いというよりは、セリアに叩かれたということが。出会った時は警戒心丸出しで、殺気も含んだ瞳をしていたのに今はこうして笑いながら隣にいてくれる。僕のことを好きでいてくれる。


「みんなにどうやって説明すればいいのかな?」


「それなら心配ない。恐らくティアラの奴が村中に広めているから、戻ったころにはみんな知ってるだろう」


「ええ……それはそれで複雑だね。っていうより、セリアは広められて大丈夫なの?なんかそういうの嫌がりそうだけど」


「私も冷やかしで広げられるのは嫌だが、村の皆が冷やかすとは思えない。それに……」


 一度で言い切るのではなく、セリアは溜めるようにして言葉を一度切った。そして……


「祝われるなら、多くの人に祝われたいからな」


 夜空に囁くように少し上を向きながら言った。その言葉は僕の胸にゆっくりと響き渡って、優しい熱が包み込むようだった。


――村に戻ると、直ぐにティアラがやってきてセリアを連れて行ってしまった。僕は先にセリアの家に戻って、セリアの帰りを待っていた。そして、何となく何も残っていない手のひらを覗く。


「……」


 正直、この手でセリアのことを幸せにできるとはまだ思っていない。彼女を幸せにするには、僕の手はやはり汚れすぎている。


「だから僕は……一秒でも早く、この手で彼女を幸せにする」


 強く手を握りしめ、静かにそう誓った。



◆◆◆







――それからの日々は毎日が本当に幸せだった。隣にセリアが、自分のことが好きでいてくれる人がいるだけで、人はこんなにも幸せになることが出来るんだと知ることが出来た。

 村の人もみんなが祝福してくれて、僕とセリアは本当に幸せの日々を過ごしていた。


「さてと……」


 今は獲物を捕るために森に来ている。基本エルフは肉弾戦を得意とはせず、弓や魔法を使って獲物を追い詰める。しかしそれでは捕まえる獲物が偏ってくるんので、僕に白羽の矢が立ったのだ。


「……」


 気配を消しながら森を進む。野生の魔物は警戒心が強く、ほんの些細な殺気でさえ感じ取って逃げてしまう。逆にその殺気につられてやってくる魔物もいるけれど、一人で倒すのは少々面倒なのでなるべく殺気は出さないようにしている。


「見つけた」


 草木の茂みに身を潜めながらジッと待っていると、針のような毛皮を覆っている猪が現れた。歯というよりも牙のようなものが口元から零れており、空腹なのか鼻をヒクヒクさせながら涎を垂らしている。

 全長2メートルほど。最高時速は40キロは出ることだろう。あの巨体で突進なんてされたら無事では済まない。


「……」


 俺は気づかれないよう音を出さずに短剣を構え、気配と音を消しながらゆっくりと近づいていく。自分の存在全てを自然の空気に溶かすイメージで。


 そして、十分に距離を縮めたその瞬間に高い跳躍をした。空気の流れが変わり、草木が少しだけ撓ったこともあって猪が若干警戒をするように辺りを見渡す。けれど、猪が何かを探している視界には僕の姿はない。

 さっきの跳躍で太い木の枝に飛び乗り、既に猪の後ろに回っている。


「さてと……」


 一度深呼吸をして心を落ち着かせる。この魔物を倒すのは難しいことではないが、倒し方を間違えると面倒なことになる。この短い短剣で攻撃をするとなると、硬くて長い体毛を貫通するのも至難の業だ。

 けど、あるポイント……急所と言える場所さえ見つけることが出来れば簡単に倒すことが出来る。


「……」


 短剣を構え、猪に飛び乗るようにして跳躍する。そして、頭と胴体の間……首の関節部分に短剣を当て、思い切り掻っ切る。


「~~~!!?」


 声帯も一緒に掻き切ったため、存分に叫ぶことすらできない。それでも苦痛を現すために文字通り喉を殺した声で断末魔の叫び声をあげる。


 なるべく苦しみの時間は続かないよう、僕はとどめを刺すようにして短剣を胸部の辺りに強く突き刺す。すると猪は一瞬で静かになり、やがて身体の動きが止まった。


「よし。じゃあ解体しようかな」


 息の根が完全に止まったことを確認し、僕は事前に持ってきていた解体用のナイフを取り出す。殺して直ぐに解体しないと血が固まり、肉が固くなってしまうので解体作業はなるべく迅速に行った方がいい。


 硬い毛をかき分け、ナイフを入れようとした瞬間、まるで凍土が襲い掛かってきたように背中が凍り付いた。


「こ、この気配は……っ」


 手足の震えが止まらない。今まで幾度となく味わったことのある感覚。これは……これは――


「くそっ!!」


 僕は急いで村に戻った。もう気配を消すとか、足音を無くすとかそんなことを考えている余裕はなかった。せっかく捕らえた猪も放って一心不乱に森を駆け抜けていく。


「頼む無事でいてくれ!!」


 そう強く言葉にしながら。


――あの時。凍り付くような寒気を感じたあの時、僕の頭に何かが響いた気がした。何かが壊れる、壊される音が。

 それも壮大な音ではなく、まるで紙を丸める程度で出る『クシャ』という音だった。これまでも何度か、あんな音は聞いたことがある。


「あれは……あの音は」


――“幸せが壊れる音”だった。

読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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