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だから剣聖は救われない  作者: ココア
第2章
33/37

君に伝える

どうもココアです。


ものすごーく久しぶりの更新でございます。申し訳ございません。

これからまた更新していきますので、よろしくお願いします。


「ヨグ、話があるけどいいか?」


「えっ?」


 仕事から帰って、夕食を食べ終えたところでセリアは突然言い出した。いつになく真剣な面持ちで、緊張感がこちらにも伝わってくるようだ。


「……いいよ」


 その緊張感に気圧されたのか、僕の声はいつもより小さくてとて弱々しい気がした。黙ってセリアの後ろを歩いていたら、いつの間にか村の中心から離れた場所にいることに気が付いた。腰にまで伸びている草木たちをかき分けながらどんどん進むセリアを僕は静かに見つめていた。


 段々と道が広くなってきて、草木たちの背も低くなってきた。


「着いたぞ」


「ここは……?」


 そう言いながらセリアが足を止めた。しかし、ここまで歩いた割には大したことのない広い丘のような場所だった。空を見上げればセリアの家よりは美しい星空が見えるが、このぐらいなら別の場所でも見ることができる。


 いったい何故こんなところに連れてきたのかと疑問に思っていると、丘の先に立っているセリアが手を振りながら僕のことを呼んできた。


「ヨグー!こっちだ。こっちに来ーい」


「ちょっと待っててー」


 手を振るセリアはどこか嬉しそうで、そして何よりとても楽しそうだった。見ているだけで胸が暖かくなりそうな笑顔の元へ、僕はいつもより早歩きになって駆け寄る。


 セリアの近くに行くごとに、目がチカチカしてくる。そして、オレンジ色のような赤色のような光が僕の視界を埋め尽くしていく。


「これは――」


 一言で表すとするなら、とても神秘的だった。


 燃えるように輝いているのに、いつまでも見ていられる赤色の光。それらは星々を目指すように段々と空へ上がっていき、光りながらゆっくりと儚く消えていく。試しに手を伸ばして触れてみるが、熱も触った感覚も伝わってこない。


 確かにそこに見えているのに、触れることがこの赤い光の正体はいったい何なのだろうか。


「セリア、これはいったい?」


「これは精霊だ」


「精霊?」


 聞きなれない響きに、思わず聞き返してしまう。もちろん、精霊というものを知らないわけではない。万物に宿ると言われている精霊は、特別な力を持っているという。その精霊の力を使える者はほんの僅かしか存在せず、一人一人で使える力も変わってくる。


 ただの言い伝えだと思っていたけど、その精霊はなぜこの場所で見ることができるんだ?


「どうしてここに精霊が?」


「精霊は私たちエルフと共存の関係にある。これを知っている者は人間では極僅かだが、エルフたちにとっては常識になっている。万物に宿り、特別な力を宿している精霊は魔力を得ることでその力を発揮することができる」


「精霊とエルフは共存……。そんな話があったんだね。じゃあ、今こうして宙に浮いている精霊は?」


「私たちの魔力同様、精霊も力を無限に使えるわけじゃない。力が無くなってきた精霊は天に帰って、また力を宿して地上にやってくる」


「じゃあこの精霊たちは力を溜めようとしている途中ってことなんだね」


 本当に存在していたことにも驚いたけれど、まさか精霊がエルフと共存の関係にあるとは思わなかった。この儚くも美しい景色を、僕は絶対に忘れることはないだろう。


「これを見せてくれるために僕をここまで連れてきてくれたんだね。ありがとうセリア」


 これまでの僕の人生では想像することもできなかっただろう。こんなにも美して、こんなにも神秘的な景色が見れるなんて。


「違う……」


「えっ?」


「お前をここに呼んだのは、この景色を見せるためだけじゃない」


 少しの間口を閉じていたセリアが、首を振りながらボソッと呟いた。そして、何か言いたそうに口を震わせながら僕の目をジッと見つめる。


「セリア……?」


 見たこともない彼女の表情に、僕の頭に“心配”という言葉がよぎった。何かを伝えようと口を震わせているのにどこか怯えているようにも見えるその顔、は僕の胸を強く高鳴らせる。彼女のことを見れば見るほど体は熱くなっていき、鼓動が早くなっていく。


 さっきまでは精霊たちに目を奪われていたのに、今度は彼女の翡翠ひすい色の瞳に引き込まれていた。


「ヨグ……私は――」


 そして、今にも泣きだしてしまいそうな震えた声で再び声を出した。


「私は……お前のことが好きだ」


――続いた言葉は想像もしていなかったものだった。


 か細くてとても弱々しい声は、僕の頭だけでなく全身に響き渡るように聞こえた。


 気持ちを伝えた彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、僕がどんな答えを返すか気になっているようで恐る恐るこちらに目を向ける。


「……」


 セリアに告白をされた。それと同時に、僕の胸に残り続けている血生臭い過去が鮮明に蘇ってきた。現在いまが楽しくて、美しく輝くからこそ過去の出来事がより強調されて蘇ってくる。


 僕は彼女の告白を受け入れる資格があるのだろうか。僕は、幸せになる資格があるのだろうか。


「セリア……」


 覚悟を決めて、いざ言葉を返そうとする。


「――――」


 でも、声が出なかった。言葉はもう喉まで出かかっているというのに、それを声に出して伝えることができなかった。まるでさっきまでのセリアがうつってしまったかのように唇が震え、声が出なくなってしまった。


 彼女の想いに応えたい。彼女の言葉を受け入れたい。そう強く思えば思うほど、血みどろな記憶が脳裏に映る。今まで数えきれないほどの人々を葬ってきたこの手で、彼女のことを幸せにできるのだろうか。


「――無理だ」


 無意識にそう声に出していた。そよ風にもかき消されてしまいそうなほど小さな声だったけれど、セリアの耳には届いてしまったのだろう。目を大きく見開きながら茫然と立ち尽くしている。


「僕は……僕には、君を好きになる資格がない」


 言葉にすればするほど胸が痛くなり、呼吸すらままならなくなるというのに僕の口は止まらなかった。胸の内に秘めている本当の言葉とは違う、建前で隠した上っ面だけの言葉で自分の気持ちを隠していた。


「セリアは僕がどんな人間か分かるかい? もちろん僕も君の全てを知っているわけではないけれど、君が見ている僕の姿はほんの一部だけだ。

本当の僕は……今まで君が見たことのない僕は、残酷で冷酷で何人もの人を葬ってきた」


「……」


「ここに迷い込んでセリアに助けられて、人の温かさを思い出すことができたんだ。セリアには感謝しても足りないくらいだよ。でも、だからこそ僕は君の告白を受け入れることができない。

この人の命で汚れてしまった手で、君を幸せにすることも君に触れることさえも罪深いものだから」


 ようやく口が止まった。心臓が破裂してしまうほど鼓動が早くなり、胸の痛みが身体を熱くして脳みそが蒸発してしまいそうだった。


 これでいい。これでいいんだと静かに自分に言い聞かせていると、今までずっと黙っていたセリアが僕の方に近づいてきた。


「ヨグ……」


 触れるほど近づき、小さく僕の名前を呼んだその瞬間――


「――!!?」


 セリアの薄いピンク色の唇が僕の唇に重なった。今までに感じたことのない柔らかな感触と、少し甘くて温かい唇から伝わる。


 突然のセリアからのキスは瞬きをする時のように一瞬で。それでも、僕の記憶に強く刻むには十分すぎる時間だった。唇を話したセリアが、今度は僕の肩を強く握りながら口を開く。泣きそうな顔で、それでいて怒っているような顔で。


「私はヨグが傍にいるから幸せになれるんだ。たとえお前の手がどんなに汚れていようと、それは私には関係ない。どんな手で触れられようと、それはヨグの手には変わらない」


「セリア……」


 セリアの潤んだ瞳が僕の瞳と重なる。僕は、そんな彼女の瞳と強くしびれる言葉に心を奪われていた。


「ヨグがこれまで何をしてきたか私には知る由もない。けど、ここに来てからのヨグのことは誰よりも知っているつもりだ。私は過去のお前の見ているわけじゃなく、今のヨグを見ているんだ」


 力強い言葉が胸の痛みを癒していく。身体の熱を冷ましていく。黒く染まっていた僕の心に灯をともすように。


「だからお前も過去の自分に囚われているんじゃなく、今の気持ちを伝えてほしい」


 そう言いながらセリアの右手が僕の頬に触れる。そこから優しさが伝わってくるようで、不思議と僕に前を向くための勇気をくれた。


 ここまでしてくれたセリアに、僕は本当の気持ちを伝えなければならない。


「僕も……セリアが好きだ。好きだ。好きだ……大好きだ」


 今度は喉で言葉が詰まることはなかった。しっかりと自分の言葉で、自分の気持ちを伝えることができた。僕の言葉を聞いたセリアは安心するように微笑みながら、小さく頷いた。


――でも、まだだ。これだけじゃ足りない。言葉だけでは足りない。


 そう思った僕は――


「ヨグ――」


 セリアが少し動揺するくらいにまで顔を近付け、静かに彼女の唇を奪った。

読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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