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だから剣聖は救われない  作者: ココア
第2章
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偶然ではなく必然

どうもココアです。


少し間が空きましたが、本日更新でございます!

皆さんどうかよろしくお願い致します。


「ーーさん!」


……誰かが名前を呼んでいる。

 呼ばれているのは決して自分ではないことは分かっていた。しかし、何故だか涙が溢れてしまうほど悲しくなってしまう。


「父さん、早く俺に剣を教えてくれよ!もっともっと強くなりたいんだから」


 渋る父親の手を引っ張る元気いっぱいの男の子。それはもはや、改めて確認するまでもなかった。


 幼い頃の俺だ。


ーーああ……そうか。夢だ。


 一瞬でそう気づいた。あの穏やかで優しい日々、昼間は父から剣を教えられ、泥だらけになった姿で帰宅し母に優しく叱られながら晩御飯を食べる。

 時々任務で魔物の討伐や反乱軍の牽制などを頼まれると、父と母の強さを目に焼き付けていた。


 あの頃は……きっと、二人が殺されることなんて考えたことすらなかった。


「アレンは将来、どんなことをしたいの?」


 夢の中で母が幼い俺に問いかける。


 すると、幼い俺は腰に下げていた子供用の剣を掲げ、目をキラキラと耀かせながら言った。


「もちろん、父さんと母さんのように強くなることだよ!二人より強くなって、もっともっと沢山の人を助けるんだ」


「アレンならきっと出来るわ。だって、私とお父さんの子供だから」


「そうだぞアレン。お前ならきっと、世界中の人々を救える」


 二人から祝福されるように頭を撫でられる俺。その光景は、昨夜見たセリアとニーナのようだった。


ーーそっか。久しぶりにこの夢を見たと思ったら、あんなのを見たからなのか。


 自分で思っていた以上に、あの光景が心に残ってしまっていたようだった。だからこそ鮮明に、夢で父さんと母さん(ふたり)が出てきたのだろう。


「任せてよ!絶対に父さんと母さんより強くなって皆を笑顔にするから」


 自信満々に俺が答える。


 夢や希望を抱き、これから起こる悲劇何か想像もしていない純粋な俺がそこにはいた。

ーーそう言えばそんなことを考えていた頃もあったんだ。


 あの時はそれができると確信していたはずなのに、絶対に成し遂げるという強い自信があったはずなのに、今の俺には欠片も残っていなかった。


 皆を笑顔にする?その逆に、皆から忌み嫌われ、恨まれている。

 世界中の人々を救う?自分が死ねば喜ぶ人は多い。

 父さんと母さんより強くなる?結局、二人が生きていなければ意味がない。


ーーダメだ。もう、ダメなんだ。

 そして俺は、夢の中でも目を瞑った。


「……」


 夢で目を瞑ったアキレスは、現実で目を覚ました。両目に溜まった涙が頬を伝い、下に敷いていた布が一部だけ濡れている。誤魔化すように手で涙を拭き取ると、まだ優しい寝息を立てながら寝ているレムリアの寝顔を見つめる。


 特に触れることも、何か言葉をかける訳でも無くただ寝顔を見つめるアキレス。


 夢で傷んだ心を癒やしているようにも見えるこの状況は、仮に誰か入ってきても邪魔をすることは出来なかった。


「……」


 少しの間レムリアの寝顔を見続けたアキレスは、壁に立てかけておいた剣を手に取り小屋から出ようとする。そして、あと一歩で外に出るというタイミングで後ろから声をかけられる。


「どこに行くつもりだ?なるべく外に出るなと言ったはずだが」


 声をかけてアキレスの足を止めたのはこの小屋の主であるセリアだった。アキレスがレムリアの寝顔を見ている時は口を挟まなかったセリアだが、外に出ようとした行動については口を挟んだ。


「俺の日課なんだ……。毎日剣を振らないといけない。一日剣を振らないと、感覚を取り戻すのに時間がかかる」


「ここがエルフの暮らす村だと忘れているのか?仮にその状態で外に出たとしても、敵として認識されるだけだ。お前が私たちに敵意が無いとしても、敵意があると認識される」


「そうか。じゃあ仕方ないな」


 肩を落としながら言ったアキレスは握っている剣を再び壁に立て掛け、レムリアが眠るベッド近くの椅子に腰かける。


 何かを思い返すように空っぽの手のひらを見つめ、大きなため息を吐き出した。


「剣聖何て、剣を持ってないとただの人じゃねえか」


 アキレスが毎日剣を振る理由。それは決して感覚が鈍るだけではない。“剣聖”という存在は、自身が剣を握ることで光輝くものなのである。

 簡単に言ってしまえば、剣を持っていないと何もできないのである。戦うことも、誰かを守ることすらできない。


ーー剣聖は強くても、アキレス自身が弱い。


 だだそれだけだった。


「何故剣を振る?お前がそこまで執着する理由があるのか?」


 静寂な空気の中にセリアの声が響く。そしてアキレスは、背中を向けたままその質問に答えた。


「俺は(それ)しか能がないからだ。魔物と戦うことも、レムリアを守ることも剣がないとできない」


「……レムリアのために剣を振るのか」


「ああ」


 力強い声色で答えたアキレス。それを答える時だけは、鋭い眼差しでセリアの顔を見つめながら。

 もはや確認するまでもない真実。アキレスが虚言を申していないことは、誰が見ても明らかだった。


 そして、その答えを聞いたセリアが壁に立て掛けてあったアキレスの剣を持つとそれをアキレスに渡す。


「やはりお前はそこらの人間とは違う。仕方がないから私が見張りをしている場所で剣を振るといい。そこなら誰も来ないし、見つかることはない」


 それだけ言ってセリアは小屋を出て行った。少しの間呆然と立ち止まっていたアキレスだったが、セリアの姿が見えなくなったところで急いでその背中を追いかける。


「お前達がこの村に来る前に通った道があるだろ?」


「あの植物のツルで出来たトンネルか」


「そうだ。あそこは本来、村の入り口じゃない。隠し通路のようなものなんだ。だからあの道を知っている者は少ない」


「そうだったのか。むしろ俺とレムリアが辿り着いたのが裏口で助かったってことだな。正規の入り口だったら、それこそ殺されかねない」


 裏口の方だからこそ警備がセリア一人だけだったのだと、そう解釈したアキレスは一人で納得をしていた。


 しかし、その考えは次のセリアの言葉によぅて全て崩される。


「少し違う。本来、外から裏口に辿り着くことはできないはすだ。地盤が脆くなっていたとお前は言っていたが、そもそもそんなことはありえない。

 だからお前たちがここに辿り着けたのは、偶然ではなく必然だったということだ」


「偶然じゃなく必然?」


 アキレスが聞き返すが、それ以上セリアがが答えてくれることはなかった。


 それからは静寂な時間が流れたが、気まずいとお互いに感じることがない程度の時間でツルのトンネルを抜けた。


 トンネルを抜けた先に視界を埋め尽くしたのは、巨大な一本の木。神々しいと表すのが正しいと思わせるほどの圧倒的存在感。その巨大な木に引き寄せられるようにアキレスは近づく。


「その木な触れるな。それだけは絶対にさせるわけにはいかない」


「……分かった。だから矢を下ろしてくれ」


 完全に無意識だった。


 条件反射と言うのが自然なのか。美味しそうな料理を見たときに涎を垂らすように、アキレスは目の前の巨木に引き寄せられていた。


「私はこの辺りで見張りをしている。お前は適当な時間になったら来た道を戻れ」


 それだけ告げてセリアは姿を消した。気配も完全に消し、アキレスでも見つけるのは困難なほどだった。


「……エルフは隠密にたけてたか?」


 そう呟きながら腰に下げていた剣を構え、一心不乱に振る。風圧で風を切る音が響き、地面の草がなびく。


「……」


 ただ無言で剣を振り続ける。時に早く、時に力強く。一定のリズムの保つことはなく、あえて緩急をつけて振り続ける。


 夢の中でのアキレスは笑顔で剣を振っていたが、今のアキレスは機械のように剣を振り続けた。

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