亡命
どうもココアです。
前回のお話でお伝え忘れてましたが、今回から新章に突入でございます!
今後ともよろしくお願いいたします!
「こ、ここは……」
目が覚めたアレンが目にした光景は真っ白な砂浜だった。
青い空に浮かぶ太陽の日差しを必死に受け止めるように大きく成長した木々、そして自分同じような体勢で倒れている少女。
「レムリア!!」
それを見た瞬間、アレンは直ぐに立ち上がってレムリアの元へ駆け寄る。全身を駆け巡る痛みをグッとこらえ、朧気の記憶を思い出しながらレムリアのことを優しく抱き上げる。
「しっかりしろ!レムリア!レムリア!」
「うっ……うう。アレン様……?」
数回身体を揺すりながら名前を呼び掛けると、ゆっくりと閉じていた瞼を開いたレムリア。
「こ、ここはどこでしょうか……。私たち、どうしてこんなところに」
ゆっくりと立ち上がり、当たりを見渡すレムリア。視線の先には白い砂浜と太陽の日差しに反射する海しか映らない。
「俺も記憶が曖昧だけど、メルド王国を出ていって大海に出た時突然の嵐がやってきて舵をとれなかったよな?」
「あっ……」
その話を聞いたレムリアも、何があって自分がここにいるのかを理解したみたいだった。
ーー二人が船に乗り込み、メルド王国を出港した後、それは突然やってきたのだ。
無数の星が夜空を光らせ、金色の月が目立つ空に現れた黒い雲。それらは一瞬で夜空を埋めつくと、二人に怒りをぶつけるようにして雨を降らせた。
雨で重くなり、段々と沈んでいく船。大雨と強く吹き荒れる風によって作られる大波に呑まれる。
「絶対に手を離すなよレムリア!」
「は、はい!」
そんな中、二人はお互いの右手を力強く握りしめていた。例え流されても、この嵐に呑み込まれてしまったとしても離さない、と言いきるように握りしめていた。
人に追われ、国を追われ、そして自然にまで牙を向けられた二人はこの島の砂浜に打ち上げられたのだった。
「船がないってことは……どこかで流されたんだな」
「そのようですね。そんなことより、アレン様がご無事で何よりです」
そう言いながらレムリアは優しく微笑む。心の底からそう思っているからこそ、アレンは罪悪感を覚える。
そして、ゆっくりとレムリアに近づいて服の袖を半ば強引にまくる。
「……この傷でそんなこと言わないでくれよ。俺のことより自分の体を大切にしてくれ」
服で隠されていた腕には、15歳の少女には受け止められないであろうほどの傷が刻まれていた。
切り傷、内出血、皮が剥がれているのは当然で、鈍器かなにがで殴られたような痕も残っている。
「まだ痛むか……いや、痛むに決まってるよな。本当にすまない」
アレンは、心の底からこみ上げてくる切なさを声色に乗せるように言った。すると、レムリアもそれを感じ取ったのか、今まで我慢し続けてきたせいなのか、アレンの胸に顔をうずめながら言う。
「痛いです……。本当に、今も泣きたいくらい痛いです」
“泣きたい”と言ったレムリアだが、顔をうずめたアレンの胸を少しずつしめらせる。
「ああ……」
こんな時、どんな言葉をかければいいのか分からないアレンは、ただレムリアのことを優しく抱き締めていた。
決して力はこめず、まるで包み込むようにして優しく抱き締める。
ーーそして、レムリアの耳元で掠れてしまうほど小さな声で囁く。
「本当にすまなかった。でも、生きてくれていてありがとう」
とても、とてもとても小さなアレンの声は風に吹かれるように直ぐに消えてしまうが、唯一レムリアの耳には残っていた。
「アレン様のことを独りにしないって言いましたからね。だから私はいつまでも一緒にいますよ」
溢れる波だをグッとこらえ、強気な笑顔で言ったレムリア。その表情からは辛さや、苦しさといった感情は全く感じられない。
どんな言葉をかければ正解なのか、どんな言葉をかけたら不正解なのかと悩んでいたアレンであったが、レムリアの笑顔を見た瞬間にそんな小さな悩みはどこかに消えていた。
◆◆◆
「よっと」
「……あ、あのアレン様。さすがにこの状態で進むのは厳しいというか、少し恥ずかしいのですが……」
「そんな傷で歩かない方がいい。それより俺はレムリアに助けられてばかりなんだから、たまには俺にも何かさせてくれよ」
傷だらけのレムリアを背中におぶり、島か大陸かを進むアレン。最初は赤くなった顔を隠すようにしていたレムリアだったが、安心しきってしまったのかいつしか気持ち良さそうに寝息をたてていた。
「それにしても、この島の木々はちょっと成長しすぎじゃねえか?」
明らかに今まで見てきた木々とは幹の太さも、高さも違う。少なくとも、メルド地方にはこれほど大きな木は一本もないだろう。
それらが無数に並んでいる森のなかは、昼間であっても夜のように暗く少し肌寒かった。
進むのですら一苦労で、背中にレムリアがいることを考えても強引に進むのは得策ではない。それが分かっているアレンは進むペースを落とすしかなかった。
「もうちょっとだけ我慢してくれよレムリア」
「ん……ううん」
レムリアの心配が堪えないアレンであったが、「我慢」という言葉は例外なくアレンにも適応される言葉であった。レムリアほどではないが、身体に大きな負担がかかっているのは事実で、一刻も早く休める場所を見つける必要があった。
小さな村でも、集落でも何とか体を休めることができればそれでよかった。
しかし、どれだけ森を進んでもその影すら掴むことができない。歩いても歩いても、同じ景色が続く。まるで本当に同じ場所を歩いているかのように感じる森は、アレンの方向感覚を確かに狂わせていた。
「くっそ!何なんだよこの森は!」
段々と苛立ちを覚え始めるアレンは、怒りをぶつけるように強く地面を踏みつける。
「えっ、ああぁぁぁぁぁぁ!!」
アレンが踏みつけたところの地盤がたまたま緩くなっていたのか、そのままズルズルと土の斜面を下っていく。
「ーーレムリア!」
背中にいたレムリアを、今度は強く抱き締めて落下の衝撃から守る。
「う、うう……。何なんだ一体」
土の斜面を落ちてきたので、服は見るまでもなく泥だらけになっていた。レムリアも同じように泥だらけであったが、アレンがしっかりと守っていたので新たな傷などはなさそうだった。
そして、二人が斜面を下っていった先にはーー
「な、何だこれ……?」
この森にあったものより一回りも、二回りも巨大な一本の木。
どこか神々しいオーラを感じさせ、一つ一つの葉がピンク色なのが特徴の巨大な一本の木であった。
「こ、これは一体」
改めてレムリアのことをおぶり、引き寄せられるようにその木に一歩近づく。
その瞬間、アレンの足元に一本の弓矢が刺さった。それはアレンを狙って外したわけではなく、威嚇射撃のようなものであった。
ーー“それ以上近づくな”と、何者かがアレンに言ったのだ。
「お前たち、こんなところで何をしている?」
その弓矢を放った張本人と思われる人物が、どこからかともなく姿を現せアレンに問いかける。
冷徹な態度に、鋭い目付きでアレンのことを睨む女性。背が高く、スラッとした体型はまさにモデル体型とでも言うのだろう。
顔のパーツも整っていて、緑色の瞳に金色の髪。そして、人間にはない長くて先の尖った耳。
「その姿……もしかしてエルフ!?」
アレンの驚愕的な態度にも合点はいく。エルフという種族はそもそも数が少なく、別名『森の民』とも呼ばれ、遭遇することすら稀なことである。
魔法を得意とし、長寿であるエルフの知識や技術を利用しようとする連中も少なくないと言うが、その強さは人間の想像を軽く越えると言われている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺たちは別に怪しい者じゃない!たまたま、本当にたまたま通りかかっただけなんだ」
「普通の人間がこの島にたどり着くことなどできん!そんな言い訳が通用すると思うな!」
さすがに分が悪いと判断したアレンが、早々に敵対心がないことを打ち明けるがエルフが素直に言葉を鵜呑みにすることはなかった。
むしろ逆上させてしまったかのように弓を構え、矢を放つ。
剣聖であるアレンは、『剣』で体を傷つけられることはないが弓矢などといったものは例外なく傷を負わされる。
「頼む!頼むから待ってくれ、その弓を抑えてこの子だけでも助けくれ!」
「……助けろだと?」
「事情は後で話す。何から怪しいと思った瞬間に弓を放っても構わない。それでも、この子だけは助けてくれ」
何よりも真剣な眼差しで、心の底から懇願するような物言いで話すアレン。そんなアレンのことを信じたのか、エルフは一度構えた弓を下ろしてアレンの影に隠れるレムリアに近づく。
「……なるほど。確かにとんでもない怪我だ。今すぐ治療した方がいい」
「治療をしてくれるのか?」
「一先ずお前の口車に乗ってやろう。だが、怪しいと思ったら容赦なく弓を引かせてもらう」
「ああ。その覚悟はできている」
返事を返しながら強く首を縦に振ると、エルフが「集落に案内する」と言い、アレンはレムリアを抱えながらその後ろをついていった。




