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だから剣聖は救われない  作者: ココア
第1章
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国王の野望

どうもココアです。

 大分お久しぶりですかね?


お待たせ致しました!



「ーー何故、父さんと母さんを殺した!」


 僅かな殺気を乗せた声は玉座の間に続く廊下に響き渡る。


「……」


 自分自身に殺意を抱くアレンに対して憤りを覚えそうであったが、ツラナークの表情から読み取れるのはむしろ“憐れみ”といったものだった。


 そして、ツラナークの口がゆっくりと動き出す。


「……だったのだ」


「はあ?」


「邪魔だったのだ。剣聖という存在が」


 まるでため息を吐き出すように発せられた言葉に、アレンは怒りを覚えることすらできなかった。


 あまりにも利己的、あまりにも理不尽な現実を突き付けられたアレンが感じた初めの感情は自分自身でも理解できるものではなかった。


「ただ人より剣が使える程度で、あそこまで国民に愛されるなど不愉快極まります。全ての国民が愛するのはこの私だけで十分であると言うのに」


「……それが、父さんと母さんを殺した理由か?」


「ああ。これだけではいけないのか?」


「ーーーーっ!!!」


 この時、初めて怒りを覚えたアレンは、なりふり構わず剣先を国王の首に突き刺そうとした。


 怒りという感情がアレンの血を昂らせ、今まで以上の力を発揮させる。


「お前は……!!そんな下らない理由で父さんと母さんを殺したのか!」


 首筋からツラナークの血が垂れる。本来なら直ぐにでも剣で首を掻ききってしまいたかったアレンだが、心の隅の隅に残る優しさがその衝動を必死に食い止めていた。


「やれやれ、何度も説明させるのでない。そうだと言っているではないか」


 自分の首に剣先が触れていても全く動揺を見せないツラナークは、呆れるような物言いで話す。


「~~~!!」


 もう理性で怒りを抑えることができなかったアレンは、その言葉で本当の限界へと達し、ツラナークの首に突き刺さる剣に力を込める。


 誰もがアレンの剣がツラナークの首を貫通すると未来が見えていたが、ここに来て止める者は居なかった。


「ああああああああ!!!!」


 狂った獣ように泣き叫び、ツラナークの首に剣を突き刺す。


ーーーー赤い絨毯よりも黒みを帯びた血が吹き出し、銀色に光るアレンの髪もどす黒い血で染められた。


「……」


 そして、ゆっくりと剣を抜き取る。アレンの剣によって支えられていたツラナークだったが、その支えがなくなると重力に従って床に倒れる。


「終わった。終わったよ父さん、母さん……」


 髪も顔も剣も、そして手も赤い血で染め上げたアレンは嗤っていた。大粒の涙を流しながら嗤った。


「ハハハ!ハハハ!これでもう、終わり……。俺の目的はーーーー」


 言葉を続けようとした瞬間、アレンの頭にある言葉が蘇る。


ーー“あなたが背負う無実の罪を消し去りたい”


 それはレムリアに、自分自身を探す理由を聞いた時に返ってきた言葉だった。


「俺の目的は……こんなことだったのか?」


 その言葉が蘇るのと同時に心を殺しながら嗤うのを止め、改めて血で汚れた自分の両手を見つめる。


「ハハハ。何やってるんだ俺」


 背負わされた無実を晴らすのがレムリアの目的。だが、アレンの無実はツラナークを殺したことで真実になってしまった。


 無実を語るには、手が汚れすぎてしまった。


「ゼーロスさん。俺のことを殺さないのか?」


「坊っちゃん……」


「国王を殺したんだぞ?さっさと殺した方がいいだろ」


 剣を手から離し、両腕を広げて無防備に自分の体をさらす。全てを諦め、無気力のように話すアレンとは異なり、ゼーロスは何かを伝えようとするように体を震わせる。


「坊っちゃん。今からでも遅くはありません、お逃げください」


「えっ?」


「国王は……ツラナーク国王はまだ、死んでおりません!!」


 ゼーロスの野太い声が響き渡る。力強く、空気を揺らすようにして響き渡る。


「な、何を言ってるんだゼーロスさん。国王は俺が殺して……」


 明らかな動揺を見せるアレンは無意識に視線を国王の死体があったその場所に向けるが、そこにあったはずの死体は無くなっていた。


 黒みがかった血が赤い絨毯を汚していただけで、国王の死体は無くなっていた。


「死体が無くなった!?」


 そう叫んだ瞬間、今まで棒立ちしていた周りの兵士や騎士がアレンのことを取り押さえる。血で汚れた絨毯に叩きつけられ、芋虫のように地に押し付けられる。

 力を込めて振りほどこうとするが、数の暴力に抵抗するだけ無駄であった。


「離せ!!」


 どんなに声を上げても兵士がその言葉に従ってくれることはない。


 それでもアレンは叫び続けた。無駄な抵抗であることが分かりきっていたとしても、心は折れていないということを伝えるために。


「騒がしいな。貴様の両親はもっと静かに殺されていたぞ」


 そして、数分前アレンに殺されたはずのツラナークが、自ら血で汚れた顔のままゆっくりと近づく。

 まるで死神のように近づき、ツラナークは悪魔よりも悪魔らしく嗤いだす。


「フハハハ!!!どうした剣聖の息子よ。もっともっと騒いでくれ、それで絶望してくれ。この私が貴様を招くために考えた催し物なのだから」


「催し物……?」


「その通りだ。私の目的は最初からアレン、貴様だ」


 汚血に包まれたツラナークが、アレンに人差し指を向けて言う。


「10年前、純粋な笑顔を見せる貴様の顔を絶望に染めてやりたかったのだ。絶望の縁に叩き落としたかったのだ」


「……それが、父さんと母さんを殺した本当の理由か?」


 肯定するように、ツラナークは高笑いをする。不気味で、邪悪な声が廊下中に響き渡る。

 しかし、アレンにはその声は届いていなかった。ツラナークが言った真実だけが、今も頭の中を駆け巡っていたからだ。


「俺のために父さんと母さんを……。じゃあ、俺が居たから、父さんと母さんは」


「フハハハ!良いぞ!その顔だ。その顔が私は見たかったのだ」


 歓喜に震えるツラナークが、さらに大きな声で嗤う。耳を塞ぎたくなるほど不気味で、体が恐怖するような声で。


「素晴らしい余興でしたよ。では、もう要らないので死んでもらって結構です」


「……」


 壊れた玩具には興味がないと言わんばかりに、ツラナークは吐き捨てるように言った。兵士たちが、心が既に壊れかけているアレンの体を無理やり起こすと、一人が槍を構える。


「待て」


「どういたしました?」


 槍を構えてアレンの心臓を貫こうとしたところで、ツラナークが口を挟む。兵士は槍を納めて、こ首をかしげながらツラナークに問いかける。


「剣聖の子供を殺すのはゼーロス、お前がやるのだ」


「何故です!!?」


 突然の言い付けに、明らかな動揺を見せるゼーロス。


 そう、ゼーロスはアレンが殺される姿を見ようとはしなかった。それだけでなく、対峙したときでさえ致命傷を避けて攻撃をしていた。


「お前はさっき私が死んでいないことを漏らしただろう?」


「それは……」


 ツラナークは、ゼーロスがアレンのことを殺したくないということを知っている。だからこそ、ゼーロスに指示を出したのだ。


「どうした?出来ないのか?」


「……」


 心の中で必死に葛藤する。殺したく気持ちと、ツラナークに逆らえないという気持ちが激しく暴れだす。


 しかし、それでもゼーロスはゆっくりと槍を構え始めた。抵抗を見せるように手を震わせ、歯を強く食い縛る。


「坊っちゃん……許してください」


「……」


 朧気な瞳でゼーロスを映すアレンに言い、やっとの思いで震えを止める。沈黙が廊下を包むなか、ツラナークだけが顔に笑みを浮かべていた。


「ああああああ!!!」


 歯を強く食い縛り、アレンの心臓に狙いをすませて槍を振るう。


「……ゼーロスさん?」


 朧気な意識のなか、アレンが最後の最後にそう呟く。


「ーーーー坊っちゃん」


 その刹那、10年前アレンと過ごしてきた日々が激流のように流れ込んできていた。あの日の喜びも、悲しみも、楽しさも全て蘇るように。


「ああああああ!!」


ーーーーそして、ゼーロスが振るった槍は、アレンの心臓から大きく狙いを変えて壁を深く突き刺していた。


「……出来ません。例え、国王の命令出会ったとしても、私は!アレン坊っちゃんを殺すことは出来ません!!」


「そうか。なら、二人まとめて処刑すればいいだけだ」


 国王が応援を呼ぼうと、息を大きく吸い込んだとき、もう一人の救世主が現れる。


「ーーーーアレン様!!」


 甲高い声が廊下に響き渡る。一瞬で全員の意識と視線を集めたその声の先には、鮮血を身体と髪に浴びた一人の少女が立っていた。

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