再来のメルド王国
――まるで一種の化け物のように荒れ狂う川は雨がやんでも、暫くそのままだった。
懐かしさを感じる日差しを感じながら洞窟を抜け出した二人は、通常の何十倍の水量を感じさせる川を越える方法を考えていた。
「……この川を越えればメルド王国は直ぐに着くんだけどな」
頭をかきながら口を開いたアレンは、どこか諦めを感じさせるような言い方だった。しかし、それはこの目の前の状況を見たら当然と言っていいものである。
「やっぱり待つしかないですかね?」
「うーん……何か良い方法がありそうな気がするんだけどな」
小さく唸り声をあげながら辺りを見渡すが、岩や木があるだけで川を越えるのに使えそうなものは何一つ落ちていなかった。
それでも、いつまでも立ち止まっていられないアレンがさらに下流の方へと向かうと、直ぐにその背中を追いかけるレムリア。
大小様々な大きさの石が転がる地面を歩きながら進むこと30分、今にも壊れそうだが何とか耐えている橋を見つける。
「おっ、橋があるじゃねえか」
「で、でも……大丈夫でしょうか?あの橋、今にも壊れてしまいそうですけど」
不安そうに口を開くが、まるで聞こえていないかのように橋に向かって行くと
恐る恐る足を踏み入れる。
ギシギシと悲鳴をあげるように鈍い音が響くが、アレンが完全に乗ってもそこが抜けてしまうことはなかった。
この氾濫している川であっても水が当たることはなく、そこが抜けない限りは流されないで済みそうであった。
「ちょっと二人一緒は危なそうだ。俺が先に行くからその後に来てくれ」
「えっ、ちょ……アレン様!?」
咄嗟に引き留めようとするが、軽い足取りでどんどん先に進んでしまったアレンに声が届くことはない。
気づけば既に橋を渡りきり、川を越えてしまっていた。
「………」
無事に渡りきったアレンは笑顔で手を振りながら、大丈夫ということを叫んでいるが、レムリアにはまだ恐怖の感情が大きく残っていた。
自分が乗ったことでギリギリで耐えていた橋が壊れてしまったら?
渡っている途中で濁流が流れてきてしまったら?
このまま、化け物ような川に飲み込まれてしまったら?
――そんな考えが、レムリアの恐怖をさらに大きくしていた。
「………!!」
それでも、そうであっても、手摺となっているロープを掴みながらゆっくり……ゆっくりと橋の上を進んでいった。
一歩進んでいくことに恐怖はましていくが、今さら戻ることはできない。
体を震わせながら丁度橋の真ん中に足を踏み入れた瞬間、
―――バキッ!!
底が抜け、まるで川に吸い込まれるようにして落ちていった。
「きゃあぁぁぁ!!!」
「レムリア!!」
急いで駆け寄ったアレンが滑り込むようにしてレムリアの手を、川に飲み込まれる寸前で掴んだ。
急いで引き上げ、少しだけ安心していると歩いてきた方向から再び鈍い音が響く。
「ア、アレン様。もしかしてこれは……」
「ああ……多分、レムリアが想像してることと全く同じだ」
中心の底が抜けたことを引き金として、渡ってきた方の端から順番に底が抜けて行く。
やがてロープを切れ、角度がどんどん右上がりになっていく。
「うおぉぉぉぉ!!!」
咄嗟にレムリアを抱えながら重力に逆らうようにして走る。全力で、今までで一番強く地面を踏み込むが、それでも……段々と重力に逆らえなくなっていく。
「くっそがぁぁぁ!!」
そのまま川に飲み込まれるのではなく、力強く跳躍をして落ちてくる端の部品を足場にして何とか這い上がる。
「はあ……!はあ……!さすがに死ぬかと思った」
「い、今のは危なかったですね」
危機一髪という状況を抜け出した二人は、今までとは違うような疲れを感じていた。心臓の鼓動がいつもより早く、まるで叫ぶように大きく揺れる。
しかし、これで川を越えることができた二人。目的のメルド王国はもう、目と鼻の先であった。
◆◆◆
―――メルド王国王宮。
玉座の間の奥の一際目立つ椅子に腰かける男。
鋭い眼光で目の前で跪く兵士を睨み付けながら立ち上がり、野太い声で口を開いた。
「剣聖が現れただと!?」
大きな動揺を見せる10代目国王――ツラナーク・メルド。10年前、二人の剣聖に罪を被せた張本人である。
剣聖が現れたことを伝えたのは、昨日兵士長と騎士団長に伝えた兵士と同じで国王の行動や言動一つ一つに体を震わせていた。
10年前の事件に荷担している兵士も、当然ながら真実を知っている。
だからこそ国王には逆らうことができない。権力を振りかざして、利己的に暴威を見せつけるこの国王には誰にも逆らえなかった。
「け、剣聖は2週間前ほど前にリーセントの町に現れたとのことです!さらにその後、デボラ山の方に向かったという情報があります」
「デボラ山?では、メルドに来るのも時間の問題ではないか!」
杖を床に強く叩きつける。それに体を怯ませた兵士が、少し歪む視界で国王の姿を瞳に映す。
「全く……まさか剣聖が生きていたとは!!」
兵士に背中を向けながらそう呟く国王の表情は、誰にも見ることはできなかった。しかし……その口調でどんな表情をしているかはこの場にいる誰でも想像ができた。
必死で喜びを隠そうとしているが、それでも溢れるばかりの感情は隠しきれないでいた。
「ふっ、楽しみなことだな」
誰にも聞こえないように小さく不気味に笑うと、今度は正面を向いて大きな声で嗤う。
「ふっふっふっ………ハハハハハハ!!!」
国王――ツラナーク・メルドを知る者は影でこう呼ぶ。
―――狂乱の王と。
そして、玉座の間に国王の高笑いが響くのはアレンとレムリアがメルド王国にたどり着いたのと同じであった。
「……10年ぶりか」
明らかになにかを企んでいる国王と、全ての罪を無くしたい剣聖。
一体、どちらの目論見が現実となるのだろうか―――




