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だから剣聖は救われない  作者: ココア
第1章
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剣気


 たった一日でリーセントの町を後にした二人はメルド王国を目指してさらに先を進むことにした。


 アレンだけではなく、レムリアも指名手配となってしまっては長く町に滞在することはできない。それがメルド全土に広がる前に、一刻も早く王国へ向かうしかなかった。


「えっと……この先の山と渓谷を抜ければメルド王国は直ぐか……」


「この先の山は魔物が多く生息すると聞きますが……」


「人間より魔物の方がよっぽどましだ」


 レムリアの心配をよそに、アレンはさっさと歩き進める。

 

 そんな二人が目指しているのはデボラ山と言われる場所だった。レムリアの言う通り普通の山よりも魔物が多く生息する場所であり、何人もの人間が命を落としている危険地帯の一つであった。そんな場所に一切ひるむことなく進むアレンは、やはり自分の実力によほど自身があるということなのか、足取りはいつもより軽そうに見える。


 早朝に出発した二人は、太陽が最も天高く上がる時間に山に入ることができたのだった。


 その無気味さ、深さはリーセント近くの森とは雲泥の差であり、近づくものの足を一度止める。遠くからでもその大きさは目に映っていたが、ふもとから見上げるとその大きさをより強く感じられた。


「こ、この山を越えるのですか?」


「それしか道がないからな。けど、この山は結構深いから休憩をとりながら進むぞ」


「深いから?」


 既に登ったことのなるような言い方に反応するが、言葉を返してくれることはなかった。そして二人はその深い深い山の中へと進んでいった。


 しかし、意外にも山道は整備がされていて草木をかき分けて道を作る必要はなかった。


「想像していたよりも道は通りやすいのですね」


「まだ浅いところは弱い魔物しか出ないからな。冒険者かなんかが入りまくって道になったんだろ」


「冒険者ですか……。あの、そもそも冒険者というのは何者なのですか?」


 国や町を守る兵士・騎士とはまた違う職業である冒険者。レムリアの認識は『ギルドという機関が管理している職業』ということだけであり、具体的な仕事内容やどんな人が多いのかは認識の外だったのだ。


「冒険者か……」


 心なしか、いくつか声のトーンを落として背中を向けたまま質問に答える。


「俺もそこまでは詳しくない。けど、兵士や騎士とは違う立場として町や国を守るらしい。時々起こる魔物大量発生時や森の調査、国がギルドに依頼してギルドが冒険者に依頼する。

 安定はしないから名前だけのやつが多いって話だな。仕事を貰えたもの勝ちだから、基本的にガラの悪い連中も多い」


「そうなの……ですね」


 そんなところに行かせるな、という表情をしながら不服そうに言葉を返す。


「どうしたレムリア?」


「何でもありません!」


 声のトーンに違和感を覚えたアレンが問いかけるが、顔を合わせようともせずそっぽを向かれてしまっていた。扱いに困ったアレンがめんどくさそうに手で髪をかき上げると、時間が全て解決してくれることを願うようにして先を急ぐ。


 方向指示器もなければ、持っているはずの地図を見ることなく最短ルートで山を進む。


 山を進むこと数時間、レムリアがある違和感を覚える。


「魔物が全然現れないですね。多く生息しているという噂が嘘だったのでしょうか?」


「いや、魔物自体はこの山にありえないほど生息してる。けど……そんなに強くない魔物は俺の“剣気”に当てられているんだろう」


 聞きなれない言葉に小首をかしげる。それはレムリアが生きてきた15年間で一度も聞いたことのない言葉であった。


「剣気というのは実力者から出る闘気と同じようなものだ。人間に限らず、殆どの生物からあふれている強さと言ったほうが分かりやすいか。俺はそれを剣を持つことで出すことができる。

 もちろん、剣気や闘気を感じ取れるのも経験や実力が伴ってくるけど、魔物なんかは“野生の勘”でそれらを感じ取っている」


 つまり、魔物が襲い掛かって来ないのは魔物がアレンから溢れる剣気に怯え、遠ざかろうとするからである。


「でもな……この剣気ってのはめんどくさいところもあったりするんだよ」


「めんどくさいところ?」


「力の弱い魔物とかは怯えて近づいてこないけど、それなりに強い魔物は剣気に当てられると狂暴化する可能性があるんだ」


 ため息をつきながら見事がフラグを立てると、それを素早く回収するように目の前の木々をなぎ倒しながら熊型の魔物が向かってきていた。


「ガアァァァァァ!!!」


 力強い雄たけびを上げ、地面を踏み込む度に大きな穴を開ける。そんな魔物が馬車にも勝るような勢いの早さで二人目掛けて突進していく。


「やっぱりこうなったか……」


 肩を落としながら軽くため息をつき、腰に下げている剣を抜いて静かに構える。


 ただ剣を抜いて構えた、レムリアの瞳にはそうとしか思えない景色を映していた。だが、現実は全く違う世界を映し出していた。


「ガァ……グルゥゥゥゥ」


 アレンが剣を構えた瞬間、数秒前まで殺気立っていたはずの熊が突然怯え出し、突進する足を止める。

 その光景は、町で冒険者の男を相手にしていた状況と酷似していた。


 そう。これが、これこそ剣気である。何もしなくとも弱い魔物が逃げだすほどの剣気を放出することができるが、剣を構えた時、本当の剣気量が放出される。


 その量は、達人の域を軽く越えていた。


 強者の中の強者の中の強者―――――――――それはまさに『最強』と称するに相応しかった。


 まだまだ底知れぬ強さが、剣聖であるアレンには眠っているのだった。

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