星をつかまえた
話終わると、何故かパパが涙をボロボロ流して泣いていた。更にたっくんまで、ハンカチで顔を抑えていた。
「いや、もう終わった事だし…そんなに、泣かれても、それにしても、あたしは、内緒って言っといたのに、何で智史にバレたの?」
「そりゃ、あんた」
ママは、くすくす笑った。
「あの子達、大親友なのよ」
「へっ?」
「雅也君は、いざ公園で遊ぼうって思っても、ほら、それなりにグループとかルールとか子供達同士であるでしょ?」
「うん、まあ」
「それでね、雅也君は、それが分からないから、智史に仲間に入れて欲しいと頼んで来たんだって、それで、無事に雅也君は、公園デビューをし、智史は智史で、ちゃっかり、勉強を雅也君に教えてもらったりして、すっかり仲良くなってしまったの。つまり、遊びでは智史。勉強では雅也君みたいな関係ね」
「あー釣りバカ日誌みたいな?」
「まあ、そうって言えば、そうかも。それ以来、ずっと親友なのよ。ウチに来た事も何度もあるし」
「えっ、全然知らなかった」
「そりゃ、あんた、就職だの、揉め事だの、引きこもりだので、周りと離れていたじゃない」
「あーまあ…でも、ここんとこは、普通にしてるじゃん」
「雅也君はね、今、外国に留学中なのよ。約束通り、独学で頑張って、私立中学も合格。バリバリのエリート路線よ。それでも、智史には、電話してくるみたいで、たまに、大きな声でゲラゲラ笑いながら、喋ってるわ」
「あーなるほど、それで…」
「そう、それで、あんたが竹本の家に殴り込んだ話がバレない訳がないわよね」
「殴り込んだって、ちょっと!」
「まあまあ、そんなもんじゃない」
「まあ、いいわ…」
「だいぶ、お喋りして遅くなっちゃったわね。拓也さん、夕食を食べて行く?」
「あ…いいんですか?」
「もちろんよ。すぐ出来るように準備してあるし、未来ほど料理上手じゃないけどね」
「いえ、ありがとうございます。ご馳走になります」
たっくんは、頭をペコリと下げた。
「すぐ、支度をするわ」
ママは、キッチンへと向かった。
支度を終えて、食卓に着いた。
「あら、智史は?」
「さっき、出かけたじゃん」
「でも、帰ってるでしょ?玄関の音がしたわ。さとし!さとしー!」
暫くして、降りてきた智史
「遅いわね。何してたのよ。ご飯よ」
「へいへい」
智史は、席に座った。
「あっ、雅也に、姉ちゃんが結婚する事を電話で報告しといたから」
「へ?何で?」
「何でって、心配してたからだよ。あいつ、姉ちゃんを神だと思ってるからな」
(おー神かー。あたしは、ひとりの少年の未来を救ったんだな)
気分上々なとこに
「姉ちゃんが「神」って、ププッ!便所の紙と違うかな?」
(ムッ!調子に乗りやがって)
「あー!そう言えば智史」
「ああ?」
「るなちゃんは、元気?」
「なっ!」
「あら、智史にも彼女が出来たの?やだわー!ママにも教えてよー」
「ちょっ、ちがっ!姉ちゃん!」
顔を真っ赤にして、アタフタする智史。
(ウヒヒ、何が便所の紙よ。あたしに勝とうなんざ百年早い!)
「とにかく、俺は、飯を食う!」
「ふーん」
ママは、つまらなさそうに答えた。
「まあ、いいわ後で聞くから」
ビクッとして、ご飯を掻き込む智史だった。
そして、食事を終えた。疲れきって腹天で爆睡しているテンを肩に担ぐ、たっくんを玄関先まで見送る両親。
「おさがわせで、ごめんなさいね。未来の事をよろしくお願いします」
「気は強いけど、可愛い一人娘だ。僕からもお願いするよ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
たっくんは、深くお辞儀をして挨拶をすると外に出た。外はすっかり暗くなっていた。あたしは、玄関を出て、門扉まで着いて行った。
(このまま、一緒に行きたい…)
寂しい。でも、それも、あと少し
「たっくん。今日は、ありがとう」
「うん、未来ちゃんの家族は、未来ちゃんみたいで、楽しかったよ。ありがとう」
「そんな…」
(あいつらと同じかよ)
「あっ、そうそう…」
たっくんが、ゴソゴソとポケットを探り、何かを出した。
「あの…これ…」
手渡された物は、ピンクの包装紙、赤いリボンでラッピングされた小箱。
(こ、これは!もしや)
驚いて口を開けたまま、箱を見つめる、あたしに
「あの…僕、あまり、こういうタイミングに疎くて、その…受けっとって欲しい」
「あっ、はい。ありがとうございます。あの…開けてもいい?」
「うん、もちろんだよ」
丁寧にラッピングを剥がして開けると、中からキラキラ光るダイヤの指輪が出てきた。そう、いわゆる婚約指輪だ。
「あの、サイズとかは、分からないから、店員さんが大体のサイズで作ってくれて、後は、また彼女さんを、連れて調整に来てくださいって言ってくれたから…」
通販ばかりで滅多に買い物になんかに出かけない、ましてや、人と喋る所なんて、絶対に行かないたっくん。
(わざわざ、買いにいってくれたのね)
それだけでも感動で泣きそうだ。
「はめてくれる?」
「うん」
たっくんは、目が覚めたテンを下に置いた。両手で、あたしの手を取る。
「それ、右」
「え?あっ?ごめん。左手だったね?」
焦りまくるたっくん
「そうだよ」
あたしは、クスクス笑いながら照れ隠しした。今度は左手の薬指に、指輪をはめてもらった少しゆるいけど、問題なく指に入った。キラキラ光るダイヤのリング。あたしは、空にかざして見た。月明かりに反射する、あたしの婚約指輪。
「あたし…」
凄く嬉しかった。
「うん?」
「星をつかまえたんだね」
空にかざした左手を胸にあて、ギュッと握りしめ、右手で覆った。大切な、あたしの星。
「えっ?あっ、いや、そんなに凄いもんでも無いよ…」
「ううん、たっくんと言う星を捕まえたの」
柄にも無く、センチなセリフを言ってしまった。その時だった。たっくんが、かがんで、不意に、あたしに、そっとキスをした。
(!!)
ほんの短いキスだった。
「じゃ、じゃあ、僕は行くから。ありがとう!」
顔を真っ赤にして、テンを連れて、つっ走って去ってしまった。
(キス…初めてのキス)
暫く、ぼぉっとするあたし
「未来ー、どうしたのー」
中から、ママの呼ぶ声に、ハッとして家に戻る。
「あまり、遅いから拓也さんの家に行ったのかと思ったわ。まあ、恋人同士…。いや、婚約者同士の別れだものね~。何か、顔が赤いし、やーねー、もー!私も若い頃はねー…」
喋りまくるママをガン無視して、通り過ぎ二階の自分の部屋に向かった。
(キス、キス、初めてのキス)
ほんの一瞬だった。あたしが、智史に無理矢理してたチュウとは違う。優しくて、暖かいキス。部屋に戻り椅子に座ると、唇がまだ、ジンジンする。動悸が半端なくしてきた。
“ドキドキドキドキドキドキ“
キスの余韻に浸りながら、指に光るリングを見ていると、階下から
「ちょっと、さとしー!るなちゃんって、誰なのー!あー、パパ、カビ掃除はいいから、戻ってきなさいよー!もう、怒ってないからー!」
ママの騒がしい声が聞こえてきた。嬉しさ反面
(結婚したら、この家もでるんだ…)
寂しさを感じた。




