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後日談(1)

 赤毛の男との戦いから1週間経った。

 この間、鋭斗は燃え尽きたようにダラダラと過ごしていた。とりあえず図書館に行っては、何もせずに帰り、ショッピングモールをぶらぶら歩いたりゲーセンでひたすらメダルゲームをしていたり……そんな毎日だ。

 本当は長時間寝ていたかったが、悪夢を見て目が覚めてしまうので、起きざるを得なかった。そのせいか、まだ疲れが取れない。

 図書館に行っていたのは、自分への言い訳だった。「遊んでばかりという訳じゃない」という、言い訳。もっとも、図書館で何もしていないので、結局は遊んでばかりなのだが。

 12月27日。今日も鋭斗は図書館に行き、何もせぬまま帰ろうとしていた。

 図書館を出て中央広場を通った時、

「お、エイト」

 声をかけられた。

 スパイルだ。

 どうしてここに、と思っていると、スパイルは答える。

「本部に用事があったんだ。ボーナス多いと税金のこととか色々あってなぁ。……どうしたんだ?」

 何か言いたげに見つめてくる鋭斗の、ぼんやりした表情を見て、スパイルは心配になった。普段なら、「色々って何だ」と言うような顔をしそうなものである。だが、今の鋭斗はやけに反応が悪い。精根尽き果てたかのようだ。

「……」

 無言で返す鋭斗。スパイルは目を瞬かせた。

「ここじゃ話せねぇことか?」

「……」

 鋭斗はゆっくりと頷いた。

「俺の部屋で……」

「よし分かった」

 スパイルは鋭斗の背中を押して歩く。鋭斗はようやくいつものペースで歩き始めた。

 寮に着き、エレベーターで上がり、部屋の前に来る。鋭斗は鍵を回し、そこで動きを止めた。

「……あの。見ても驚かないでくださ……じゃない、驚くなかれ……じゃない、えっと」

 要するに、驚くかもしれない何かがある、ということだ。スパイルは気にせず、鋭斗の後ろから手を伸ばしてドアを開けた。

「……⁉」

 不覚にも驚いた。背筋が冷たくなった。よろめくようにソファーに……ソファーに横たえられているニクスのもとに寄る。

 ニクスの顔は蒼白で、生気を感じられない。一見すると、死んでいるようにしか見えなかった。

 だが、かすかに息をしている。弱いが脈もある。

 スパイルは大きく溜息を吐いた。

 驚いてしまったのは、気配を感じなかったからだ。

 人がいるなら、気配を感じる。体温や息づかい等が、大気中の魔力を通して気配として伝わってくるのだ。

 気配の感じ取り方は人によって違うが、少なくともスパイルは、そうやって気配を察知している。

 それが伝わってこなかったのだから、まさかと思ってしまうのも仕方がない。

 スパイルは鋭斗を振り返った。鋭斗は「だから言ったのに」というような顔をしていた。

「1週間、そんな状態で」

 鋭斗は途方に暮れたように言った。

 そう、1週間、ニクスの状態は変わっていない。全く良くなっていないのだ。寝れば治るはずなのに。幸い、悪くもなっていないが。

「多分、魔力量が本当にギリギリで……魔力量が多ければ治るの速いからその逆で……死に近づくのと治るのと、同じ速さになってるのかなって……」

 鋭斗はたどたどしく自分の見解を述べた。

 スパイルは難しそうな顔をする。

「オスク洞窟に連れて行って最上級回復魔法使えば一発なんだがなぁ。連れて行けねぇよな……」

「え……」

「目立ちすぎる。見る人が見れば……こんな状態で生きてるのはおかしい! 異世界人だ! ってなるぜ」

「ええぇ……」

 何とも言えない表情で、鋭斗は声を漏らした。疲れで頭の働きが鈍いおかげか、恐れや不安や良くない想像が排除されている。だから平常心を保っていられるのだ。

 スパイルは一つ溜息を吐き、鋭斗の肩をぽんと叩いた。そしてニヤリと笑う。

「大丈夫、オレが何とかしてやるぜ。明日また来るから、のんびり待ってろ」





 翌日。スパイルは昼過ぎに鋭斗の部屋へやって来た。

 鋭斗に招き入れられるなり、スパイルはポケットからビー玉のような物を取り出す。それを床に置いていった。

 10個以上あった。

 鋭斗は目を瞬かせる。ただのビー玉であるはずが無い。何だろう。魔道具だろうか。

 その疑問に答えるように、スパイルは説明を始めた。

「これ、B国の国立研究所から取り寄せた、魔力吸収機の試作品なんだ」

 昨日、鋭斗の部屋から出た後、コネを使って頼んだのだ。大量のカネも積んだ。

 おかげで、今朝、他の輸入品と共にC国に運び込まれ、スパイルの手に渡った。

「魔王の魔力吸収スキルを参考に、バーチャル戦闘に使われてる技術を流用して作ったらしいぜ。吸収できる量はまだまだ少ねぇけど、めっちゃ早ぇよな。……スイッチ入れると魔力の濃い所から優先的に吸収して、限界まで吸収すると停止するんだ。で、吸収した魔力は勝手に少しずつ放出されていく。この試作品だと、全部放出するのに1日かかるんだと」

 話に聞き入っていた鋭斗は、目を輝かせた。

「……! じゃあ、魔力を吸収してからあまり時間が経ってなければ、その魔力吸収機の中には魔力が貯まってる……! それを使うと!」

「そういうこった!」

 スパイルは笑顔で答え、呪文を唱えた。最上級回復魔法。

 全てのビー玉もとい魔力吸収機の試作品から、魔力が吸い出されていく。内側から割れ、砕けながら。

 そして光が部屋に満ちた。

 床には粉々のガラス片のようなものが散乱している。魔力吸収機の試作品の成れの果てだ。「こんな使い方は想定されてない」と不満を主張するかのように、破片は鋭利に尖っていた。

「……これはニクスに掃除させよう」

 スパイルはそう呟いて、まだ寝ているニクスの手をつねった。

「っ! え、……スパイル? 何で」

「ここで水ぶっかける訳にはいかねぇからな。お前の部屋なら遠慮なく水ぶちまけてたけど」

「いやそれも困る! ってかここどこだ」

「俺の部屋」

 口を挟んだ鋭斗。ニクスはますます困惑した。

「どうやって?」

「教主が転移してくれた。あそこ拠点にするから俺たちが邪魔だったらしい。……そういえば、何で俺の部屋なんだろう」

 鋭斗は首を傾げた。その横まで歩き、スパイルは言う。

「それよりニクス、もう年末だぞ」

「マジか!」

 ニクスは慌てたようにソファーから降りようとして、床に散らばった鋭利な破片に気付く。

「何だこれ危ねぇな」

「掃除しとけよ。オレは先に帰って準備しとくからな」

「エイトとミエリも参加で良いか?」

「もちろんだ」

 その会話の意味は、鋭斗には分からなかった。何の準備なのか。何に参加なのか。

「スパティウムンドゥス・アルマリウム」

 ニクスが呪文を唱えると、破片が異空間に吸い込まれていく。大きめのものから粉になっているものまで、全てだ。掃除機も顔負けの吸引力である。

「それ、掃除にも使えるんだ……」

「まあな」

 ついでに剣も異空間にしまい、ニクスは息を吐いた。頭が少しくらくらする。

「さっきの話、何?」

 鋭斗が尋ねると、ニクスは

「スパイルの家に集まるんだ。ミエリとメルシャも一緒にな」

 と答えながら部屋を出て行った。




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