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後日談(2)

 数十分後、ニクスは再び鋭斗の部屋を訪れた。風呂と着替えを済ませてきたのだ。

「行こうぜ」

 廊下を歩き、エレベーターで下り、寮を出る。向かっているのは宮殿だ。

「美恵莉はまた缶詰めらしいけど」

「抜け出せるだろ」

 ニクスは軽く言った。鋭斗は目を瞬かせる。

「スパイルが手を回してるに違いねぇ」

「なるほど……」

 宮殿に入ってすぐ、中央広場で美恵莉とメルシャが喋っているのが見えた。そこへニクスが割って入る。

「メルシャ。ミエリに説明したか?」

「まだだよ。これからお父さんの家に行くってことだけは話したけれど」

「じゃあ、電車の中で話すぜ」

 4人は駅へと歩く。誰も先週のこと——赤毛の男との戦いのことには触れない。その話はしない、という暗黙の了解があった。

 他愛のない話をしながら駅に着き、電車に乗る。他に人の乗っていない車両を選んで、横ならびに座った。

「ざっくり言うと年越しパーティーだな」

 ニクスが説明を始めた。

「A国の宗教行事なんだ。今晩が聖夜で、日付が変わるまでワイワイやって、新年を祝う」

「聖夜について詳しく」

 鋭斗が要求すると、ニクスは楽しそうに語る。

「神が地上に降臨してから初めての朝が元旦ってことになってるんだ。で、神はその前夜に既に降臨していたとされてる。だから元日の前夜……つまり年末の夜が聖夜だ」

 年末という言葉は、12月下旬などではなく、「12月28日」を指すらしい。

「部屋を飾りつけたり、聖夜の定番料理を食べたり、トランプで遊んだりして、家族で過ごす。あと、元日は家族でのんびり過ごす。そういうA国の風習を踏襲して、毎年やってるんだ」

「家族……それ、俺と美恵莉がお邪魔して良いのか?」

「お前らだってスパイルファミリーの一員だろ? 俺もこっちに来てすぐから参加してるし、人数多い方が楽しいしな」

「スパイルファミリー……」

 まるでマフィアかのようだ。呆れたように復唱しながらも、鋭斗は内心「何それカッコイイ。俺も入ってるとか最高かよ」などと喜んでいた。

「うん、メルシャも人数が多い方が良いと思うよ。お母さんは参加してくれないから、いつも3人だったの」

「え、何で? 実の家族なのに?」

 美恵莉が尋ねると、メルシャは苦笑した。

「研究の方が良いって」

「あー……」

 納得したような呆れたような声を出した美恵莉。メルシャは慌てて補足する。

「お母さんは凄い研究者なんだよ? たとえば、ラトゥール剣を出す魔法。あれはね、お母さんが、お父さんのために作ったの。ラトゥール杭の魔法を元にしたから簡単に作れたって言っていたけれど、普通はそんなに簡単に作れるものじゃないんだ。だからね、お母さんは別に、家族に冷たいとかじゃなくてね、研究熱心なだけなんだよ」

 その話を聞いて、鋭斗はふと疑問に思った。

「そういえば。魔法付与って、何で剣なんだ?」

「剣の形状が魔力をまといやすいからだ」

 ニクスは答えた後、説明を付け加える。

「魔物を倒すには、魔力をまとった武器か、魔力によって形成された力が必要だから、普通の武器……たとえば斧とかをそのまま使ったんじゃ倒せねぇ。E国みてぇに魔力で強化しねぇとな。ところが剣だけは自然と魔力をまとうから、そのまま使っても魔物に効くんだ。魔法付与できるのが剣だけなのは、このことが関係してるらしいぜ」

「なるほど。……じゃあ、島国の科学兵器じゃ魔物は倒せないってことか」

 拳銃も爆弾も、魔物には効かないのだ。だからこそ、B国の魔道具——魔銃などが重宝されるのだろう。

「剣にもいろんな形があるんじゃないの?」

 美恵莉が珍しく鋭い指摘をした。それに対し、ニクスは考えながら答える。

「条件は、真っ直ぐで先端が尖ってるってところだな。長さや太さは割と何でも良いが、小さすぎたり細すぎたりすると駄目だ」

「それだと槍でもいけそうだけど」

 鋭斗が言うと、ニクスは頷いた。

「そうなんだよ。モノによっては、槍も魔力をまとうらしいんだ。それが知られたのは割と最近らしい。以前は剣であることが重要視されてたが、槍の件で、形が重要だと分かったらしいぜ」

「へえぇ……。……前から思ってたけど、ニクスは生き字引だなぁ」

「書店で立ち読みしまくってたからな」

 ニクスは笑って言った。

「え、追い出されたりしなかったのか?」

「スパイルが金払ってくれてたらしい。1日あたり数千ニールとかで」

「そんなシステムが」

「買っても置き場所に困るからな」


 鋭斗とニクスが話している一方で、美恵莉はメルシャに問題を出されては答えを間違えていた。

 そうしている間に、電車は終点に到着。

 4人はスパイルの家に入った。


 リビングの天井から、数多の細い葉がついた蔓が垂れている。作り物だ。

 その蔓に、リボンやモールや光沢を放つ小さな玉が飾られている。まるで、クリスマスツリーのように。

 スパイルは蔓に電飾を巻いている途中だった。

「はよ準備せんと間に合わねぇぞ」

 その言葉を受けて、ニクスはキッチンに直行する。

 鋭斗と美恵莉は「何をすれば?」という顔で突っ立っていた。


 冷蔵庫を開けて中を見たニクスは、呆れたように言う。

「日持ちする物くらい買っとけよ!」

「プディングの材料は買ってあるだろ!」

 言い返すスパイル。ニクスは嘆息し、

「買い出し頼めるか?」

 と鋭斗に言った。

「何を?」

「テリーヌ、栗きんとん、フライドチキン、ゴマ団子」

「……」


 鋭斗は呆気にとられた。正月っぽいものと、日本風クリスマスで食べるようなものと、……ゴマ団子? 何だかよく分からない取り合わせだ。

「メルシャも一緒に買いに行くよ」

「……よし行こう」

 それがA国の聖夜の定番料理ということだろう。


 そうして、鋭斗とメルシャはショッピングセンターに行くことになった。

 蔓の飾り付けを終えたスパイルは、ニクスと一緒にプディングを作り始める。美恵莉はそれを少し手伝った。



 18時。

 リビングのテーブルに、ずらりと料理が並んでいる。鋭斗とメルシャが買ってきたものだ。

 中心には切り分けられたプディングが置いてある。5等分されており、ギリギリ1口で食べられそうな大きさだ。

「間に合った!」

 溜息を吐きながらスパイルは言った。不思議そうな顔をする鋭斗に、ニクスが補足する。

「聖夜は6時からって決まってるからな」

 5人は勢いよく料理を食べ、すぐに完食。プディングを食べる番になった。

「誰から選ぶ?」

 にやにやして言うスパイルを見て、ニクスは渋面を浮かべた。

「変なモン入れてねぇだろうな」

「入れてるに決まってるだろ」

 そんな会話を聞いて、鋭斗と美恵莉は顔を見合わせた。一体、何が入っているというのだろう。

「美恵莉は手伝ってたんだろ? 見てないのか?」

「うん。何か入れてる風には見えなかったけど……」

 そこにメルシャが口を挟む。

「危ないものじゃないんだけれどね。お父さんは、毎年、プディングに変な物を入れるの。ほとんど毎回、ニクスお兄ちゃんが被害に遭っているんだよ。食べる時は気を付けてね」

 具体的に何が入っているのかは分からずじまいだ。食べてみるしかない。

「じゃ、私から!」

 美恵莉は最も自分に近い位置のプディングを取り、一気に口に入れた。

「……? 普通のフルーツケーキだよ?」

「じゃあ俺も」

 鋭斗もプディングを取り、口に突っ込む。恐る恐る口を動かすと、プディングの味が広がった。スーパーのパン売り場に売っている洋酒の効いたフルーツケーキとそっくりな味だ。「変な物」が入っている様子は無い。

「次はニクスな」

 スパイルの指名に、ニクスは

「今年こそは……!」

 と言いながらプディングを取った。無造作に口に入れ、噛み砕く。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!」

 口を押えて膝から崩れ落ちた。それを見たスパイルが爆笑する。

「今年もか……! 今年もなのか、ニクス……!」

 テーブルを叩きながら、げらげら笑っている。

「くっそ、何で俺ばっかり……!」

 ニクスは涙目で、スパイルを恨めしそうに見上げた。メルシャは苦笑しながらニクスに水を渡す。

 鋭斗と美恵莉は、唖然とした。

「……え、本当、何が入ってたんだ? ニクスがこんなになるとか絶対ヤバそう」

「…………刺激物」

 水を飲み干したニクスが、ぽつりとそれだけ言った。




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