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5章(5) 奮闘

 鋭斗は、なんとか魔物に飛び乗って、一息ついた。まだまだ魔物が残っているが、空飛ぶ魔物は既に倒したので、少しは休憩できる。

(リミッターは、外せないか……)

 ガンガン痛む頭のせいで、動きが鈍って回復魔法が必要になる。そんな悪循環に陥っていた。

 短剣のまとう炎をぼんやりと眺める。炎色反応は起きないんだな、などと、どうでもいいことが思い浮かんだ。

(そういえば、炎色反応の実験でガスバーナー使っ……)

 不意に、考えがよぎった。

 ガスバーナーのように、出来ないだろうか。

 あの、炎が見えなくなるような……火が点いていると分からないほど薄い色に。そうすれば、威力が上がるはずだ。

 鋭斗は魔法付与に関してはド素人である。見様見真似で一応できたが、本来のそれとは比較にならないほど威力が弱く、一種類しか使えない。

 ガスバーナーの思い付きは、その弱い威力を補うのに丁度良い気がした。

 やってみよう。どうせ、これ以上魔法を使うのはキツい。剣でより良く戦えるなら、その方が良い。

 魔力制御には随分慣れて、自然に出来るようになったが、それまではガスバーナーをイメージしていた。だから、今からすることは、初心に帰るだけだ。

 炎が揺れ動く。

 まとう魔力の量を調節していくと、スッと色が消えた。イメージ通りだ。

 魔物から飛び降りざま斬り伏せる。その一撃で、倒せた。やはり威力が上がっている。

 これなら、魔法を使わずとも。

(……熱い)

 威力を上げたせいか、長時間使っているせいか分からないが、汗がぼたぼたと流れる。冬の寒さが嘘のようだ。

 早く魔物を倒しきらねば、精神的にも体力的にも限界が来そうだった。

 いや、既に限界だ。今、鋭斗の体を動かしているのは、万能感と、それに伴う意地。高校生の時に捨ててしまったはずの、意地。

 楽するために消し去った意地が、今ここに、返り咲いていた。




 剣と鉤爪がぶつかり合う。何度も、何度も。音速に近い速さで。

「くそがっ! 何故防げる⁉」

「……教える訳、無ぇだろ!」

 ニクスは防戦一方に追い込まれていた。鉤爪による連撃は止まる気配が無い。だが、単調だ。これだけ長く受けていれば、容易に読める。

 フォスティーエルは、隙を生むために焦ったふりをしたが、ニクスはそれを見破っている。

 剣と鉤爪がぶつかったまま動きを止めた。互いに押し合い、拮抗している。

「く、うっ……」

 ニクスが呻く。呪具から放たれた矢に、肩を抉られていた。

「ちぃっ」

 フォスティーエルは大きく舌打ちした。ニクスの力が弱まらない。

 もう、矢は使えない。身の安全を考えれば、これ以上魔力を消費できないのだ。

 ギシギシと擦り合う、剣と鉤爪。

「はあっ」

 剣が鉤爪を弾いた。やむなく距離を取ったフォスティーエルは、肩をすくめる。

「納得いかないな」

「俺がまだ動けるのが、か?」

 息を整えながら、ニクスは話に応じた。視界が少し霞んでいる。

 フォスティーエルは、ニクスの話を聞くふりをして、一気にニクスへ接近。鉤爪を突き立てた。

 ギィンッ

 剣と鉤爪が激しくぶつかる。

「そんな手に引っかかるかよ」

 呆れたようなニクスの声。

 フォスティーエルは歯噛みした。圧倒的に自分が有利なはずなのに、接戦のようになっている。気に食わない。

「ちっ……こうなったら!」

 魔物を呼び寄せてやる。外で待機しているはずの、使役済みの魔物。既に侵入者を始末しているであろう、大量の魔物たちを、ここへ。

「…………? 何故だ、何故来ない!」

 フォスティーエルの戸惑った声に、ニクスはニヤリと笑う。

「魔物でも呼ぼうとしたか? 無駄だぜ。エイトは、倒しきるって言ってたからな」

「馬鹿な⁉ 魔術で複製して、地中の異空間に忍ばせたのも入れれば……200体はくだらないぞ⁉ そんな数を、倒しきれるものか!」

 それを聞き、ニクスは絶句した。そこまで多いとは思っていなかった。

 一方、フォスティーエルは、自分の発した言葉に呆れた。喚いたところで、魔物を呼んでも来ないという事実は変わらない。

「……どうやら、俺様は貴様らを舐めすぎていたようだな。本気を出していたつもりだったが、出しきれていなかったようだ」

 ゆっくりと、フォスティーエルは言った。まとう雰囲気が変わる。生ぬるい風が、熱風になったような、変化。

 瞬間、フォスティーエルは姿を消し、鉤爪を繰り出した。

 ニクスは難なく反応し、剣で受け止める。また防戦一方になりそうだ。

 集中力はどんどん高まっている。魔術による身体強化も続いている。だから、フォスティーエルが姿を消そうと、壁を透過しようと、どんなに速く動こうと、関係無い。

 ニクスが全く魔法や魔術で攻撃しないのを、フォスティーエルは怪訝に思った。こうやって武器をぶつけ合っている間こそ、好機であるはずなのだ。

「ほらほらどうした! 攻撃するならしてこいよ!」

 その隙に、仕留めてやる。それがフォスティーエルの目論見だった。

 しかし、ニクスの肩から血が流れ続けているのを見て、察する。もう魔法を使えないのだろう、と。

「……」

 ニクスは無言で返す。

 金属音だけが響き続けた。無言の応酬。

 急所を狙って攻撃していたフォスティーエルだが、ふと気付く。もう魔法を使えないのなら……回復できないのなら、どこを狙っても殺せるのではないか、と。



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