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4章(5) 行方不明事件

「……寮までは届かねぇな。スパイルの家に転移して、電車で帰るか」

 魔術での転移が可能な距離を考えて呟いたニクスに、鋭斗は頷く。

 ニクスは呪文を唱えた。

 一瞬後にはスパイルの家のリビングにいる。人気は無い。平日の日中だから、仕事中なのだろう。

 2人は淡々と駅に向かって電車に乗り、首都へと帰った。



 魔導師協会本部前の駅から出ると、寮の前で人が話しているのが見えた。鋭斗は目を凝らして誰だか確認する。美恵莉と、見覚えのある警官――テールだ。

 テールは鋭斗とニクスに気付き、急かすように手を振る。美恵莉も「早く」と口を動かした。

「どうした?」

「何があった」

 鋭斗とニクスは走って寮の前に来て、美恵莉とテールにそれぞれ尋ねる。先に話し始めたのはテールだ。

「連続行方不明事件だ。昨日から今日にかけて、10代前半の子供が、首都で何人も行方不明になってる。全く手がかりが掴めないんで、ニクスに依頼しようと思って来たんだ」

「それでね、今朝、メルシャが1人で買い物に行ったんだけど、戻ってこないの! 事件に巻き込まれかも!」

 焦れて口を挟んだ美恵莉の言葉に、ニクスが息を呑む。鋭斗も瞠目し、

「何で一緒に行かなかったんだ」

 と、つい責める口調になった。

「だって、勉強してるよう言われたから……こんなことになるなんて思ってなかったし」

 美恵莉は言い訳したが、その表情には後悔が滲み出ている。

 ニクスは一度深呼吸してから、テールを見た。

「本当に、何の手がかりも無いんだな?」

「あるなら話してる。どこで行方不明になったのかすら分からないんだ」

「そうか」

 そう言ってから、美恵莉に視線を向ける。

「メルシャはどこへ買い物に行った?」

「ショッピングモール」

「分かった。……メルシャは並の犯罪者相手なら自力で抵抗できる。ミエリが責任感じる必要は無ぇからな?」

 励ますように言ってから、ニクスは鋭斗を見た。

「行方不明者の救出が最優先だ」

 そう言って歩き出したニクスに、鋭斗はついて行く。ゲーセンで情報収集するのだと、容易に予想できた。



 ゲーセンでの聞き込みの結果、行方不明になった場所がバラけていると分かった。公園であったり、商店街であったり、住宅街であったり。共通しているのは、「そばに大人がいない状態の子供が、突然消えた」という目撃情報だ。

「犯人は、姿を消して移動してるのかもな」

 ニクスは呟いた。ショッピングモールの喫茶店で遅めの昼食を摂りながら、得た情報を整理していく。

「教団のやつなら、普通に有り得る。そういう呪具もあるだろうからな」

「じゃあ、突然消えたのは、その呪具で見えなくしたか……転移したか」

 鋭斗が言うと、ニクスは頷く。

 他にも人がいるため、「異世界人」や「魔術」という言葉は使わないように気を付けている。

「エイトなら、どこへ連れて行く?」

「転移でしか行けないような場所。……そういうのを作れるなら、だけど。出入り口の無い施設とか、異空間とか」

「なるほど……それだったら、正攻法じゃ見つからねぇな」

「どうするんだ?」

「……を使う。時間はかかるが、少なくともメルシャの居場所はそれで分かる」

 魔術、と口だけ動かしてから、ニクスは言った。鋭斗は口の動きを読めなかったが、言いたいことは分かった。

「どれくらいかかるんだ?」

「10時間以上。……もっとかかるかもしれねぇ。終わるまで寮で待機しててくれ」

「分かった」

 昼食を終え、2人は寮に帰った。それぞれ部屋に戻り、ニクスは魔術を行使する。最初から使わなかったのは、「よく知っている人の居場所」しか分からないからだ。もし子供たちが別々の場所に連れ去られていたら、メルシャ以外の居場所が分からないままになる。それに、手に入る情報次第では、魔術より早く居場所を特定できる可能性があった。その可能性が潰えたから、魔術に頼ることにしたのだ。





 翌日、午前8時。ニクスは鋭斗の部屋のチャイムを鳴らした。

 鋭斗はドアを開けるなり尋ねる。

「分かったのか」

「ああ。すぐにでも行きたいところだが、魔力を使い切ってる。あと1時間待っててくれ」

「遠いのか」

「座標から察するに、大陸の東にある無人島だ。俺の魔力量じゃ、行くだけで空になるぜ」

 そう言うニクスの口からは、酒の臭いがしている。

「その、居場所探るやつも、距離に応じて消費魔力増えるやつ?」

「そうだ。ずっと酒飲みながらやってた。転移より遥かに消費魔力が多いんだ。だから余計に時間がかかった」

「なるほど……じゃあ、1時間後に酒持って転移して、1時間待ってから転移で戻ってくるんだな」

「そういうことだ」

「酒は俺が持って行く」

「頼む」

 そう言ってニクスは自分の部屋に戻った。



 1時間後、鋭斗は果実酒のボトルを持ってニクスの部屋に行った。チャイムを鳴らすと、

「入って鍵閉めてくれ」

 と言われたのでそうした。

「よし、行くぞ」

 ニクスはそう言い、呪文を唱えた。

 下を向いていた鋭斗の視界に、黒い土が映る。顔を上げると、そこにはメルシャがいた。うつ伏せで倒れている。メルシャの他には誰もいないし、何も無い。

「メルシャ!」

 ニクスがメルシャを抱え起こす。メルシャはぐったりとし、ゆすっても呼びかけても反応が無い。回復魔法をかけたが、意識は戻らない。驚くほどの高熱だ。

「まさか、リミッター外したのか……」

 ニクスは苦い顔で呟いた。それくらい危機的状況に追い込まれたのだろう。他の行方不明者はこの場にいないが、同じ状況に陥ったのなら、既に殺されているとみて間違いない。

 メルシャの周りには、何かの破片が落ちていた。ニクスはそれを拾って眺める。そして、メルシャのかけているネックレスに同じ材質のものが付いていることに気付いた。それらをじっくり見て、呟く。

「メテロサイト……」

 脳が活性化するというパワーストーンだ。実証された効果は無くとも、メルシャに何らかの力を与えたらしい。

 ニクスは鋭斗から酒を受け取って飲み干し、この場所について考える。

「エイトの言った通り、出入り口の無い施設だな」

「無人島なんだよな。どうやってこんな施設……」

 鋭斗は壁を触りながら言った。ザラザラした感触で、ひんやりとしている。継ぎ目のようなものは見当たらない。

 ニクスも同様に壁を見て、分析する。

「かすかだが、魔力の残滓がある。多分、魔力消費型の呪具で造られたんだ。石壁で囲う呪具ってところか」

「教団って、呪具とやらを色々大量に持ってるのか……?」

 鋭斗の怪訝そうな呟きに、ニクスは苦笑して答える。

「少なくとも教主は、かなり持ってるはずだぜ」

「何で知ってるんだ?」

「祖母が言ってたんだ。祖父を殺した男は、宝物庫から多数の呪具を持ち出して自分のものにした、ってな。……その、祖父を殺した男の名前を、祖母が教えてくれていればな……。ヤバさを語るばかりで、名前とか身分とか外見の特徴とか一切教えてくれなかったんだぜ。知ってれば、教主の前であの剣を出すなんて真似、しなかったのに」

 悔しさで震えそうになった声を、自嘲的な笑いで誤魔化した。

「あの杖の解説を聞いて初めて、教主が祖父を殺した男だって分かったんだ。杖の話も祖母から聞いてたからな……」

 そこまで言って、大きく溜息を吐いた。気まずそうにしている鋭斗を見て苦笑する。

「悪ぃ、蒸し返す話じゃなかったな。とにかく、今回の事件は教団が呪具を利用して起こしてるんだと思う。エフェルリシアの件から考えると、F国で見つけた異世界人を引き込んだか……? 複数でやってるのか単独かは分からねぇが、犯人はタダじゃおかねぇ」

「犯人の居場所、分かりそうなのか?」

「いや、今のところさっぱり分からねぇ。メルシャに話を聞けば、手がかりを得られるかもしれねぇけどな」

「地道に情報収集か……」



 時間が経ち、魔力がほぼ完全に回復したニクスは転移魔術を使った。

 ニクスは自分のベッドにメルシャを寝かせ、鋭斗と一緒に部屋を出る。

 2人はエレベーターで降り、寮の外へ出た。そこでは思った通りテールが待っていた。

「遅い!」

 テールは不満そうに言い、一転して嬉しそうな顔をする。

「解決してくれたんだろ? 少なくとも昨日の昼以降は、同様の事件は発生してない!」

「え……?」

 鋭斗とニクスは不思議そうに顔を見合わせた。

 まだ何も解決できていない。メルシャを見つけただけだ。

「……行方不明者は見つけた」

 ニクスが口を開く。誤魔化すつもりだ。

「どこかは聞くな。……メルシャは生きてたが、それより前に連れ去られた子たちは……顔も分からねぇ状態だった」

「……っ」

 テールが息を呑むのが分かった。凄惨な光景をイメージしたのだろう。

「犯人は見つかってねぇ。事件が収束したのなら、それは……多分、犯人が飽きてやめたってだけだ。これ以上手がかりが掴めねぇんじゃ、迷宮入りだな」

「……そうか……ニクスでも無理なら、無理だな……」

「もしまた同じような事件が起きたら、知らせてくれ」

「分かった……」

 テールは残念そうな顔で、トボトボと立ち去った。

 鋭斗は嘆息する。

「あれで納得するんだ……」

「テールは俺のこと信用してるからなぁ。それを裏切りたくは無かったが、仕方ねぇ。普通の事件ならともかく、今回のはな……」

 そう言って、ニクスは溜息を吐いた。






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