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4章(4) 現在地判明

 鋭斗とニクスは山を下りきり、平原を歩いていた。2人で地図を見ながら、現在地を把握しようと努める。

「この山だとすると、この辺りか……? こっちならここで……」

「川がこう流れてるからこう……あれ、こっちもだな」

 さっぱり分からなかった。下りてきた山が何という山か分かれば、把握できそうなのだが。

 ふと、ニクスが前方を睨んだ。

「魔物がいる」

「倒すのか?」

「いや、A国で魔法を使うのはまずい。誰かに見られたら、下手すりゃ捕らえられて処刑されるぜ」

「そういえば仲悪いんだっけ。A国とC国」

 どちらの山から下りたのだとしても、街に行くにはこの先を通らなければならない。なるべく魔物から距離を取るようにして歩くことにした。だが、魔物に近付くにつれ、それは難しいと分かった。

 魔物が随分と大きい上に、その両側に崖があるのだ。通りたければ、魔物のそばを駆け抜けなければならない。2人は岩陰に隠れて様子を伺う。不定形の魔物だ。何かよく分からない物が、あちこちから発射されている。

「あの魔物、相当強ぇぞ。10万近くあるかもしれねぇ」

 ニクスの呟きを聞いて、鋭斗は目を見張った。よく見ると、50歳くらいの男が、1人で魔物と戦っている。

「あの人、騎士か?」

「だろうな。あの戦い方は、時間稼ぎだ。増援待ちだな」

 そんな話をしていると、

「……誰だ!」

 騎士は人の気配に気付いて問いかけた。2人が答えられずにいると、騎士は言う。

「危ないから、もっと離れろ!」

 その声の直後、魔物が岩へと攻撃を繰り出す。一撃で岩が砕け、鋭斗とニクスの姿があらわになった。2人は声に従い後退しており、攻撃を食らわずにすんだ。

 騎士は2人に気を取られていた。その隙を、魔物が突いた。

「ぐっ」

 魔物の攻撃を防ぎきれず、騎士の体に裂傷が走る。

 ぼたぼたと血を流しながらも、騎士は気にする素振りが無い。何事も無かったかのように魔物と戦い続けている。

 その様子を見て、ニクスは思った。あの騎士は今なら回復魔法で助けられるが、このまま動き続ければ命が危ない、と。

「……エイトはここにいろ」

 言うや否や、ニクスは魔物に突っ込んでいった。

 鋭斗は全く反応できず、唖然とした。「魔法を使うのはまずい」と言っていたから、使わないものだと思っていたのだ。だが、よく考えれば、ニクスがこの状況を放っておける訳がない。

「なっ⁉」

 騎士は驚き動きを乱す。トチ狂った一般人が魔物へ飛び込んだと思ったからだ。

 魔物はニクスに反応し、多量の何かを連射する。ニクスはそれらを跳び上がって避け、身をひねって躱し、魔法で相殺し、騎士の方へと駆け抜けた。流れるような動きの最後に、騎士へ回復魔法をかける。

「さっきの忠告の礼だ」

 ニクスはそう言い、騎士の横に並んだ。

 騎士は戸惑った様子で、魔物の攻撃を防ぎながら話す。

「なるほど、魔導師か。もう一人もだな?」

「……そうだ。意図せずこの国に来てしまった。見逃してもらいたい」

 ニクスは最初、鋭斗は無関係な一般人ということにしようと思っていた。だが、何となく、この騎士には正直に答えた方が良い気がした。

「妙なことを言う奴だな。……見逃さない、捕まえるって言ったらどうするつもりだ?」

「すぐには処刑されねぇだろ? 脱走してC国に帰るだけだ。そうすれば、A国は手出しできねぇからな」

 しれっと言うニクスを、騎士は呆れたように見て、苦笑した。

「この魔物と戦うのを手伝ってくれたら、見逃してやる!」

「エイト! 聞いてたか⁉」

 鋭斗は両手を上げ、頭上で丸を作った。

「相棒も了承したことだし、2人で手伝うぜ」

 ニクスが言うと、騎士はニヤリと笑った。

「時間稼ぎはやめだ。一気に倒すぞ!」

「了解!」

 思わず、鋭斗もニクスもそう答えていた。

 騎士が防御を完全に解き、剣にまとう魔力を攻撃に転じる。一瞬であった。即座に魔物に斬りかかり、表面をごっそり蒸発させる。魔物の攻撃を華麗に避けながらである。

 鋭斗は魔物の後ろから、攻撃魔法を撃ちまくる。初級4連発相乗効果だ。

 騎士はニクスに言う。

「挑発ってあるだろ? 使っとけ」

「何でそんなこと知って……」

「ほら早く。来るぞ」

 急かされるままに挑発を使ったニクス。騎士はニクスの前に立ち、剣を掲げてドーム状に防御を展開した。殺到する魔物の猛攻にビクともしない。上級防御魔法をはるかに上回る強度だ。

「何かこの状態で使える攻撃魔法あれば使え」

「……了解」

 ニクスはとりあえず騎士に従うことにした。中級の火柱や氷槍を使い、じわじわと削っていく。

 鋭斗はずっと攻撃を続けていた。途中で4連発が面倒くさくなり、中級魔法を撃ち込んでいる。

 魔物の攻撃が止まる。また行動が変わるのだ。

 即座に騎士が魔物へ肉薄。駆け抜けざまに剣を突き立て、魔物の内部の魔力ごと大爆発を起こした。

 騎士は爆風で吹き飛んだが、空中で体勢を立て直して着地。せき込みながら、魔物の横へ。今度は剣を上段に構え、一息に振り下ろした。バチンッと音を立て、魔物が真っ二つになる。

 魔物は足掻くように騎士へ攻撃を繰り出すが、その攻撃はニクスへと逸れる。ニクスは落ち着いて魔法で相殺した。その間に、騎士は横なぎに剣を振るっていた。魔物がスライスされ、ついに消滅する。

「普段からそんなことしてるのか?」

 ニクスは騎士へ問いながら、回復魔法を放った。

「そんなことって……自爆のことか?」

「自覚はあるんだな」

「滅多にしない。さっきは、回復魔法を当てにしてた」

 騎士は平然と答えた。

 鋭斗はニクスと騎士のもとへ駆け、一息つく。騎士は笑顔で

「なかなか楽しかった。魔導師との共闘というのも、良いものだな」

 と言った。そして、魔物の足止めをしていた経緯を話し出す。

「見回りしてたら、さっきのと遭遇してな。一旦逃げようとしたんだが、ついてくるから戦わざるを得なくなった。一緒に見回りしてたやつらには、増援を頼んで……」

 その時、遠くから足音が聞こえた。馬の駆ける音だ。近付いてくる。


「副団長! ご無事ですか!」

「すぐに本隊が……あれ、魔物はどこですか?」


 2人の騎士がやって来て、そんなことを言う。副団長と呼ばれた騎士は、当然のように答えた。

「倒した」

「えぇ⁉」

 驚く騎士たちに、副団長は告げる。

「彼らが助けてくれたんだ。本隊には、来なくて良いと伝えろ」

「はい、すぐに!」

 騎士の1人はそう言って、来た道を戻っていったが、もう1人は怪訝そうな顔で鋭斗とニクスを見た。

「……? 騎士ではないな。何者だ?」

 2人は答えに窮した。見逃してもらえる約束だが、後から来たこの騎士に通用するかは分からない。

 副団長は目で合図する。「何か適当に答えて誤魔化せ」と。それを受けたニクスは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「俺はスパイルの弟子みてぇな者で、こっちは俺の相棒だ」

「スパイルさんには大変お世話になりました」

 鋭斗も便乗するように言った。2人は分かったのだ。騎士団の副団長ということは、一緒に戦ったこの騎士はスパイルの兄だ、と。

 副団長は目を丸くする。

 誰何した騎士は困惑した表情を浮かべていたが、副団長が

「分かっただろ、早く行け。……特務機関の関係者だ」

 と言うと、渋々引き下がって去った。

「さて」

 副団長はニクスに向き直る。

「スパイルの弟子ってことは、お前、ニクスか」

「何で名前……」

 尋ねかけたニクスは、答えに思い当たり渋面を浮かべる。

「支部長経由か……」

「そうそう。あいつ、オレの親友なんだ。特務機関に似非情報流すついでに、オレには本当の話を流してくれる。よく連絡取ってるから、色々知ってるぞ」

 鋭斗とニクスは呆気にとられた。特に鋭斗は、魔導師協会支部長がA国の諜報員だと知らなかったので、理解するのに時間がかかった。

「支部長があんたの親友ってことは……スパイルに工作員をさせたのは、あんたか?」

「まあな。仕方ないだろ、スパイルは小隊長だったんだから。身分ある者がA国を出るには、ちゃんとした理由が必要なんだ。だから、工作員ということにした」

「なるほど、その後あんたは親友を諜報員として送り込んで、スパイルが工作員としての実績を作れるようにしたんだな」

「理解が早いな。そういうことだ。いくらコネを使って工作員に仕立て上げても、全く実績が無いんじゃ怪しまれるからな」

 ニクスと副団長の会話を聞いて、鋭斗も大体の事情は分かった。

「おっと、話し込んでしまったな。お前たちはこの後どうするんだ」

「真っ直ぐC国に帰るぜ。アテはあるから気にしなくて良い」

「そうか。気をつけろよ」

「ああ」

 副団長は立ち去った。鋭斗とニクスは、改めて地図を広げて見る。ここが首都周辺なのは、副団長の存在により把握できた。

「つまりここは……ここだ」

 地図の1点を指さし、ニクスは言った。


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