表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/149

4章(3) 抵抗

「…………何故、異世界人だと思った?」

 声の主は姿を現さぬままに、メルシャに問うた。

「さっきの呪文、メルシャは知っているんだよ。転移魔術だよね」

「何と。知っているとは驚きだ」

 そう言って、姿を現したのは、鮮烈な赤い髪の男だった。

「……! あなたは、エフェルリシアに迷惑をかけていた人!」

「心外な」

 赤毛の男は軽薄な笑みを浮かべる。

「俺様は、ちょっと遊んでいただけだ」

「ここは、どこなの? メルシャをさらってどうするつもりなの?」

「立場をわきまえろよ、小娘。誰が質問して良いと言った?」

 赤毛の男の言葉と共に、伏せていた魔物が立ち上がる。大きな犬のような姿だ。ゆっくりと上げた前足を、メルシャに伸ばす。

「っ!」

 ざっと後ろに跳び退り、メルシャは魔物を睨みつけた。

「ふうん、意外と動きが良いな」

 赤毛の男が呟いた。その瞬間、魔物の動きが速くなる。

「その調子で、逃げまどって抵抗してみろ」

 他の魔物も動き出し、メルシャを壁際へ追い立てた。


(この異世界人、魔物を操っているの……?)

 メルシャはギリギリで避け続けていたが、背中に壁が当たって動きが止まった瞬間、脚に噛みつかれた。

 声にならない悲鳴を上げながら、うずくまる。魔物は追撃してこない。

 中級回復魔法を使いながら、突破口を探した。

 無い。

 立ちふさがる魔物たちは、追い詰めた獲物を眺めている。

「なるほど、魔導師見習いなのか」

 赤毛の男の思案気な声。魔物たちが後退し、メルシャと距離を取る。

 メルシャは走った。魔物から逃れようと。壁際から遠ざかろうと。

 勘で転がった。先ほどまで腕のあった場所を、魔物の触手が通り過ぎていく。

 次が来る。直感に従い立ち上がろうとしたが、一瞬遅かった。

「……っ、あ」

 左肩を抉られた。思わず動きが止まる。やられるかと思ったが、魔物は追撃してこなかった。

 完全に、遊ばれている。

 すぐに中級回復魔法で治したが、視界が霞んだ。頭が割れそうに痛い。座り込んだまま、荒い息を吐く。

「期待外れか。さっさと殺して次だな。……嫌ならもっと抵抗してみせろ。さあ、どうする?」

 赤毛の男はそう言って、下卑た笑みを浮かべた。

(……抵抗していれば、殺されないの? ううん。抵抗し続けても、最後には……)

 中級魔法はこれ以上使えない。避け続けるのも難しい。魔物も倒せそうにない。

 抵抗しようとしまいと、待つのは死のみだ。

 ぼんやりと魔物を見上げた。色々な姿の魔物が、襲い掛かる時を待っている。牙の、爪の、触手の、針の、棘の、液体の、餌食にしようと待っている。

 ふつふつと、怒りが湧き上がった。

 どうしてこんな目に遭わないといけないのか。どうしてこんなやつに、遊び道具にされなければいけないのか。

 理不尽だ。

「こんな所で終われない……」

 言いながら、ゆらりと立ち上がる。体の奥底が熱い。

「メルシャは、お父さんみたいな魔導師になるんだから!」

 こんな奴に、殺されてたまるか。

 全力で抗う覚悟を決め、ネックレスの石を握りしめた。

「そうかそうか。じゃあ足掻いて見せな、お嬢ちゃん」

 赤毛の男が言った。嘲るような笑みを浮かべて。

「負けない……絶対、負けないッ!」

 キッと前を見据える。頭が冴えわたっていく。

 世界から、音が消えた。

 世界から、色が消えた。

 初めての感覚だった。「敵を倒す」、それ以外のことが全て抜け落ちていく。思考も、感情も。


 赤毛の男の視界から、メルシャの姿がかき消えた。

 動き出す魔物たち。上から雷弾が降り注ぐ。

「上だと⁉」

 驚いて見上げた赤毛の男は、メルシャを見て息を呑んだ。

 メルシャは、浮いていた。羽でも生えているかのように、空にふわりと浮かんでいる。

 補助魔法「浮遊」。まだ研究段階で、魔法書が作られていない魔法だ。

 魔物は大きく跳び上がり、あるいは飛んでメルシャを狙う。メルシャはラトゥール剣を出した。

「そんなもので……」

 言いかけた赤毛の男が、目を見張る。

 ラトゥール剣は、バチバチと音を立てていた。まとわれた雷電によって。

「まさかA国の⁉」

 赤毛の男は混乱した。A国の魔法付与。騎士団で何年か修練して身につけるもののはずだ。それを何故、C国の少女が使える?

 雷電は盾のように広がり、迫る魔物をことごとく墜としていく。

 メルシャは唐突に浮遊を解除した。下にいた魔物が雷電の餌食になる。それには目もくれず、ラトゥール剣を手放して、後ろに跳んだ。

 再びラトゥール剣を出し、後ろに振り抜く。こっそり後ろに回り込んでいた魔物が、燃え上がって消滅した。剣など届かない距離だったというのに。

 ラトゥール剣から、炎が大きく伸びていた。

「これは……とんでもないのを標的にしてしまったな」

 赤毛の男は呆れたように呟いた。メルシャの瞳は異様な輝きを宿している。虚ろなのに力強く、何も映していないようで全てが見えているかのような、超然とした眼光。小さく可愛い少女には不釣り合いな迫力。

 魔物が次々消えていく。魔法付与に耐え切れず、ラトゥール剣が砕け散った。その時には既にもう1本出している。

「あーあ。仕方ない、帰ろ」

 赤毛の男は、つまらなさそうな、飽きたような声で呟いた。それから呪文を唱え、その場から去った。

 残された魔物は好き勝手にメルシャを襲うが、片っ端から消されていく。

 そうして全ての魔物を倒したメルシャは、糸が切れたように倒れた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ