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3章(6) 占いの説明

 鋭斗は10分かそれ以上、じっと待っていた。そして、何の前触れもなく、ニクスが真横に現れた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 ニクスは息が上がっていた。

 鋭斗はニクスを心配そうに見上げた。こんな薄暗い場所でも分かるほど、顔色が悪い。

「はぁ……何か、よく分からなかったな……」

 ニクスは苦笑しながら呟き、深く溜息を吐いた。

 鋭斗は困惑した。「よく分からなかった」とはどういうことだ。飛んだ記憶は埋まらなかったのだろうか。

 そんな鋭斗の疑問に答えるように、ニクスは明るく言う。

「何があったかは、ちゃんと思い出せたぜ。記憶が飛んでた原因もな。追体験してた時はともかく、今はその時の自分にツッコミ入れたくて仕方ねぇ」

 幼さ故、というものかもしれない。レーリャの死と、それに伴う痛みに耐えられなかった。……それでも、全てを投げ出すことは出来なかったのだ。戦場では、まだ、父や仲間たちが国を守るために戦っていたから。何が何でも自分も戦わないといけないという思いが表出して、あんな風になったのだろう。

「さて、行くか」

 そう言って、ニクスは歩き出した。鋭斗は横に並ぶように歩く。

 少しして、前方に光が見えた。白くて小さな光だ。その光の周りには、狼のような魔物が多数。

 ニクスは呪文を唱えて剣を取り出した。それを見て、鋭斗は右手に短剣を出現させる。

「お、やっぱり出た」

 鋭斗は呟いた。ニクスは不思議に思って尋ねる。

「どうやったんだ?」

「気になってたことを試した。魂だけの状態なら、念じるだけで自分の持ち物を自由に出現させることが出来るんじゃないかっていう……ずっと前に考えたことだけど、試すチャンスだと思って」

「へぇ……そりゃ便利だな。じゃあ俺も何か出してみるか」

 そう言ったニクスは、手の中にメダルを1枚出現させた。ゲーセンのメダルだ。

「これで、どっちが魔物を引き付けるか決めようぜ。表が出たら俺、裏が出たらエイトな」

「おっけー」

 ニクスが上に弾いたコインは、綺麗に回転しながら落ち、ニクスの手の中に収まる。裏だ。


「じゃあ、先に行ってくる」

 鋭斗は言って、駆けだした。魔物との距離が縮まると、2体の魔物が鋭斗に気付いて跳びかかる。

 鋭斗は右に跳びざま短剣を振り、左手から水の玉を撃った。

 斬られた魔物は消滅したが、水弾は効果が無い。濡れた魔物がそのまま鋭斗に喰らいつこうとした。

 その時既に、鋭斗は魔法を放っていた。魔物の下から伸びた木が、四肢に絡んで動きを止める。唸る魔物の首を、短剣が貫いた。

 魔物たちは、一斉に鋭斗を標的として定めた。襲い掛かろうと動き始める瞬間に、鋭斗は走り出す。

 たちまち、鋭斗が数多の魔物に追いかけられる構図となった。魔物の動きは速く、すぐに追いつかれそうになる。


 その様子を見ながら、ニクスは白い光のもとへ駆けた。その光を発しているのは、小さな玉であった。

「これを壊せば良いんだな」

 呟きながら、剣で斬ろうとして、弾かれた。何重にも張られた結界に。

「難しいって、こっちかよ」

 てっきり、魔物が厄介なのかと思っていたが。結界を睨みながら、どう斬れば解けるか考える。ちらりと鋭斗に視線を向けると、魔物に追いつかれながらも魔物の上に乗ったりして上手くしのいでいるようだ。

「……こうか」

 斬ってみた。3枚ほど結界が消えたが、すぐに復活してしまう。同時に解かなければいけないようだ。

 どこを斬れば良いのかは、しばらく見ていて分かった。後は、速く斬るだけ。そのためには、補助魔法「加速」を使うのが良さそうだ。コントロールが難しいが、やるしかない。

 加速を使い、剣を動かす。結界に変な当たり方をして弾き飛ばされた。慌てて拾い、もう一度。斬るべき場所からずれてしまった。もう一度。

 何度か繰り返し、ようやく結界を消せた。剣を掲げ、振り下ろす。

 パリィンッと良い音がして、玉が真っ二つに割れた。


 目を開けると、占い屋の中だった。鋭斗とニクスは顔を見合わせ、笑顔でハイタッチを交わす。

「すごい、本当に壊すなんて」

 エフェルリシアは呟いて、頭を下げた。

「ありがとうございました。何とお礼すれば良いのか……」

 それに対し、ニクスは言う。

「気にするな。それより、また冥府を創るよう言われたらどうするつもりだ?」

「冥府を創る力は、1年おきにしか使えません。……1年後も脅されたら、また創ってしまうと思いますが……その時は、また壊してくれますか?」

「任せろ。要領は分かったからな」

「ありがとうございます。……お2人のことは、いつでも無料で占わせてもらいますので、ぜひ利用してください」

「それなんだが、先に占いについて詳しく教えてくれ。どういう力なんだ?」

 エフェルリシアは躊躇したが、話すことにした。

「私の力は未来占いで、占えるのは対象者の未来だけです。大体2か月くらい先まで見えます。過去を見たりは出来ません。あ、それと、占うには対象者を私の視界に入れている必要があります。あと、対象者が占いを受け入れている必要もあります」

 エフェルリシアのいた世界には、占い師が多数存在する。占いの力は人によって異なり、効果も方法も多種多様だ。

「未来は、文字で見えたり映像で見えたり……どう見えるかバラバラです。占おうとしても何も見えないこともあれば、意図せず見えてしまうこともあります。見えた未来は、ものによっては簡単に変わります。私が未来を教えるだけでも変わったりします。ただ、絶対に変わらないものも存在します。一度占った未来の場面をもう一度占うことは出来ません。どう変わったか、或いは変わっていないのか、それを確かめるのはぶっつけ本番です」

「なるほど、良い未来は聞かない方が良さそうだな」

「その通りです。私も、なるべく悪い未来を占うようにしています」

「じゃあ、悪い未来を占ってくれ」

「喜んで。あ、一応言っておくと、悪い未来として何も見えなくても、悪いことが起きないという保証にはなりません」

 エフェルリシアは微笑み、占いを始めた。といっても、対象者を見つめるだけである。

 ほどなくして、エフェルリシアは鋭斗を見た。どこか慌てた様子で。そして、とても言い辛そうに口を開いた。

「あの……何だかよく分からないんですが、凍死するみたいです」

「え」

「どうしてそうなるか分かりませんが、数時間後にエイトさんが凍死する未来が見えました。それだけが文字で見えたので、具体的なことはさっぱり分からなくて……」

 エフェルリシアは動揺している。鋭斗とニクスは、同時に確認した。

「変わるんだよな?」

「……とは言い切れません。先ほど言った通り、変わらないこともあります」

「でもさ……」

 鋭斗は言う。

「外で酒飲んで薄着で寝るとかしないと、凍死なんてしないよな。その占い聞いた時点で気をつけるから、もう変わってるんじゃないか?」

 占いを聞いていなくても、そんなことをするつもりは無かったが。

 占われた未来が変わっているかどうかは、「数時間後」になってみないと分からない。ここで考えていても仕方がない。

「俺も同じ考えだ。とりあえず、昼食べようぜ」

 ニクスは言って立ち上がった。店内の時計は11時半を指している。

 エフェルリシアがシャッターを開ける。下から徐々に商店街の様子が見え、シャッターが上がり切ると多くの人が行き交うのが見えた。

 鋭斗も席を立ち、ニクスと一緒に店を出る。店の外は、透明なドアから見えていた商店街のはずだった。

 ところが。

 店から出た2人が見たのは、一面の銀世界だった。



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