2章(5) 解決
12月8日、午前2時。鋭斗とニクスは寮から出て歩き始めた。
「うー、寒い……」
鋭斗は呟かずにいられなかった。厚着はしているのだが、それでも寒い。
これから目的地まで歩き、見張っていなければならない。外を歩くのも寒いのに、長時間じっとしていなければならないのだ。嫌になってきた。
そんな考えを振り払おうと、鋭斗は首をブンブン横に振り、その場で飛び跳ねたりし始めた。
「大丈夫か?」
ニクスは、鋭斗の奇行を見て心配になった。暗くて表情がよく見えない。
鋭斗はその場でぴょんぴょん跳ねながら、
「大丈夫」
と答えた。その声は、寒さで震えていた。
住宅街に足を踏み入れると、目の前にぼんやり光る、背丈より少し高い長方形の箱があった。ニクスはそこに向かって歩く。鋭斗は不思議そうに追いかけ、箱の反対側に回り……その箱が飲料自動販売機だと分かり、目を丸くした。
「……! 自販機あるんだ!」
「首都ではここだけなんだ。飲むだろ?」
鋭斗は頷きながら、「流通とかどうなってるんだ。ここだけって効率悪いんじゃないか?」と思った。それとほぼ同時に、「ショッピングモールでの売れ残りとかを回してるのかもしれない」と考えた。
ガコンと音がして、ペットボトルが2本出てくる。暖かいお茶だ。
ニクスはペットボトルを手に取り、1本を鋭斗の手に握らせる。
「じゃ、予定通り頼むぜ」
そう言って、ニクスは自分の持ち場へ向かった。
「……あつっ」
冷えた手には刺激が強い。慌てて持ち方を変えながら、鋭斗も自分の持ち場へと歩いた。
街灯が足元を柔らかく照らしている。その間隔は目的地に近付くにつれて大きくなり、住宅街の外れは真っ暗だった。
そんな闇に紛れるように、鋭斗が見張ることになっている家が建っている。
鋭斗はその家の裏に立ち、ペットボトルを開けた。お茶を飲むと、体の芯がじわりと温まる。ペットボトルを握っているだけでも、寒さはマシであった。
予測した時刻まで、あと30分。
(的外れな推理してた可能性もあるよなぁ。その場合、どうするんだろう)
時間になっても犯人が来なかったら、もう一方の家に行って合流することになっている。だが、両方来なかったら、すれ違いになるかもしれない。
(……そんなこと考えてもしょうがないか。見逃さないように見張らないと)
ごくごくとお茶を飲みながら、家の周りを注視する。腕時計で何度も時間を確認し、予測した時刻まであと5分となった時。
ザッと足音が聞こえた。
鋭斗は緊張しながら、目を凝らす。犯人とおぼしき影は、家のドアに向かって、ゆっくりと歩いていた。
空になったペットボトルをその場に置いて、鋭斗は駆けた。家のドアの正面に立ち、持ってきていた懐中電灯で犯人を照らす。
「……え」
鋭斗は、困惑した。
そこに立っていたのは、行方不明になっている被害者4、ただ独り。
被害者4は眩しそうに目を細めながら、歩く。鋭斗のことなどお構いなしに、家のドアへと手を伸ばした。鍵は持っていない。
「あの……?」
おかしい。
「ちょっと、待ってください、話を……」
鋭斗は被害者4に話しかけるが、全て無視されてしまう。被害者4はドアノブに手をかけ、回した。ゴリッと音がして、ドアノブが回りきった時、
「あの!」
鋭斗は大声を出し、被害者4の腕をつかんだ。そこで初めて、被害者4の目が鋭斗を捉えた。
「……」
被害者4は無言のまま、気味の悪い無表情で首を傾げる。鋭斗が腕を離すと、バタンと後ろに倒れた。
「は……?」
意味が分からない。何が起こったのか分からない。
倒れた被害者4の頭が、破裂した。鋭斗には、そう見えた。
その、頭の中から、うねるように何かが這い出す。白く光る何かが。
鋭斗は混乱しながらも、防御障壁を展開。犯人と対峙したらそうしようと決めていた。
ギィンッ
白い光が障壁に激突。
障壁にはヒビひとつ入っていない。白い光は妙な声を上げながら、何度も突進を繰り返す。
(魔物か……?)
訳が分からず立ち尽くしていると、ニクスが駆けてきた。
白い光は標的を変える。
ビュンッと光の尾を引きながら、一瞬でニクスとの距離を詰めた。
ニクスは咄嗟に身をひねる。白い光は宙を駆け、またニクスに突進。今度はニクスも防御魔法を使い、怪訝そうに口を開く。
「こいつ……耳を狙ってやがる?」
その言葉を聞いて、鋭斗は確信した。
「脳に寄生するやつ!」
「……! あの殺害方法は、そういうことか!」
白い光は行き場を無くし、途方に暮れたように宙を舞っている。
「魔物か?」
鋭斗は尋ねた。ニクスは白い光を見つめ、答える。
「いや……こいつからは魔力を感じねぇ。多分、宇宙生物だ」
「どうすれば良い」
「捕らえたいところだが……」
ニクスは言葉を濁した。
白い光を放つ宇宙生物は、魔法で捕らえるには細すぎる。かといって、素手で捕まえられるとは思えない。動きが速く不規則で、寄生される危険性もあるからだ。
魔法で防御したまま倒してしまいたい。だが、警察にはどう説明すれば良いのだろう。そこが悩ましいところだった。
「……ラトゥール杭で串刺しにしよう」
鋭斗が提案した。
「串刺しどころか真っ二つになるぜ」
ニクスは笑って言いながら、ラトゥール杭を落とした。4本同時に。
避けたつもりの宇宙生物は、1本のラトゥール杭に貫かれ、光を失った。
「あれ、どこ行った?」
鋭斗は防御障壁を解き、呟いた。なるべく被害者4から目を逸らしながら。
ニクスは宇宙生物の死骸を拾い、鋭斗に見せる。それは、糸くずにしか見えなかった。
「宇宙生物って言って信じてもらえるかな……」
鋭斗は急に不安になった。
宇宙生物の存在が無ければ、証拠や状況から、被害者4を殺したのは鋭斗ということになりかねない。特に、被害者4の腕を掴んでしまったのがまずい気がした。
「島国に送って調べてもらえば分かるはずだ。テールによく言っておくから、心配するな」
ニクスは鋭斗を安心させるように、力強く言った。
こうして、連続殺人事件は「宇宙生物による犯行」として解決した。
その日の午後、図書館に行った鋭斗は美恵莉に声をかけられた。
「兄さん、宇宙生物っていると思う?」
「いる」
「即答⁉」
「前に、いるって聞いてたし。……何でいきなり?」
「エフェルがね、兄さんが宇宙生物に寄生される未来が見えたとか言うから」
「あー、それはもう解決した」
「え、1か月後とか言ってたよ? てか、解決したって何?」
「……」
嫌なものを思い出した。被害者4の頭から宇宙生物が出てきた時の映像。おぞましかった。早く忘れたい。
「防御障壁を張ってなかったら、たしかに寄生されてただろうな。で、……計算面倒くさいから省くけど、多分1か月後くらいに、別の人へ寄生するつもりだったんだろ。占いでは、その標的が美恵莉だったって訳だ」
「エフェルはそんな詳しく言ってないよ」
「言うのがはばかられたんだろ」
「やっぱり、宇宙生物と占いって相性悪いのかなー。兄さんはどう思う?」
「……」
鋭斗は嘆息し、無言で練習場へ向かった。
「ねーってばー! どう思うー⁉」
しつこく聞いてくる美恵莉に、鋭斗は再び嘆息する。
「大声出すな。……俺が見た宇宙生物は、光ってた。それが関係あるかは分からないけど、宇宙生物から出る何か特殊なものが占いを阻害したとか……そんな感じじゃないか」
ただの思い付きである。占い自体の仕組みも分からないのに、宇宙生物との相性など分かるはずもない。
しかし、美恵莉はその言葉に納得したようで、
「なるほど、冴えてるね」
と嬉しそうに言った。




