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2章(4) 推測

 レンタカーを返し、電車で首都に戻った鋭斗とニクスは、寮の喫茶店の防音の個室で話し合いを始めた。

「被害者1と被害者2は恋人、被害者2と被害者3は親子、被害者3と被害者4も親子。なら、次は……被害者4の家族か恋人って考えるのが自然か?」

 ニクスの言葉に鋭斗は頷きかけて、首を傾げる。

「でも、被害者4の恋人なんて、いるかどうかも分からないよな」

「そこは情報屋を頼る」

「その手があったか」

 動機や殺害方法などはそっちのけである。犯人を捕まえて問い詰めれば良いと思っているのだ。

「問題は、時間だ」

 死亡推定時刻は、ぱっと見た限りでは規則性が感じられない。まだ被害者の数が少ないから分かりにくいのかもしれないが。

 被害者1は11月21日、午後2時。

 被害者2は11月22日、午後5時。

 被害者3は11月26日、午前2時。

 因みに、被害者1の行方が分からなくなったのは11月21日の朝らしい。

「えっと、何時間差だ……?」

 鋭斗の呟きに応じ、ニクスが暗算する。

「被害者1と被害者2が27時間、被害者2と被害者が81時間……?」

 2人は顔を見合わせた。

 3倍。

 鋭斗はゆっくりと口を開く。

「……被害者1が行方不明になってから9時間後に殺されたとしたら、計算合うよな」

「じゃあ、次は243時間後……12月8日、午前3時だ」

「明日だな……」

 どちらからともなく立ち上がり、その足でゲーセンに向かう。あまり時間が無い。




 鋭斗とニクスがゲーセンに行っている頃、美恵莉とメルシャは占い屋に向かっていた。エフェルリシアを夕食に誘うためである。

 エフェルリシアは、占い屋の前で男と言い争っていた。鮮やかな赤い髪の男が、エフェルリシアの肩に手を置き、何やら言っている。

「……! 一緒にしないで!」

 叫ぶエフェルリシア。その口を手でふさぎ、男は軽薄な笑みを浮かべた。

「よく言う。同じ穴のムジナのくせに」

「違うっ! ……もう帰ってください。商売の邪魔です」

「つれないなぁ。夜空に浮かぶ、霞がかった月のようだ。別に構わないが……また来るからな?」

「来ないでほしいんですけど……」

 去って行く男に、エフェルリシアは力なく呟いた。

「やっほー、エフェル。さっきのイケメンは誰?」

 美恵莉がエフェルリシアに話しかけると、エフェルリシアは困ったような笑みを浮かべた。

「迷惑なお客さんよ」

「兄さんを占った時に見えたのもあの人?」

「……分かっちゃうか……そうよね、あんな髪色、そうそうお目にかかれないもの」

 2人の会話を、メルシャはきょとんとして聞いていたが、

「ただの迷惑なお客さん、という風には見えなかったよ……?」

 首を傾げながら口を開いた。根拠など無い、直感である。

「あ、えっと、良い意味じゃなくてね。迷惑な、ストーカーとかかなって思ったの」

「う、うーん……ストーカー、ではないかな? 顔は良いから、あちこちで女引っかけて遊んでるのよ」

 エフェルリシアは苦笑して言う。

「ただの迷惑野郎だわ」




 鋭斗とニクスはショッピングモールで夕食を済ませ、防音の個室に戻ってまた話している。

 幸い、情報屋は被害者4の交友関係の情報を持っていた。恋人はいないようだ。ただ、親が別居しており、どちらに犯人が現れるか分からない。

「男女交互なら父親の方か?」

「いや、被害者4には弟がいて、そっちは母親と暮らしてるらしい。絞るのは危険だ」

 ニクスは被害者4に関する情報を注意深く読み、顔を上げた。

「手分けしようぜ。割と近いから、来なかったらもう一方にすぐ合流ってことで」

「了解。どっちにする?」

「そうだな……こっちは入り組んでるから、俺がこっちでエイトはそっち」

 ニクスは地図を見せながら、指さす。「こっち」と言っているのは被害者4の母親の家だ。鋭斗が担当することになるのは被害者4の父親の家で、住宅密集地から少し離れた場所にある。

「……てかこれ、どこの地図?」

「首都の住宅街だ。高級住宅街じゃなく、普通の方な」

「そういえば行ったことない……」

 話が途切れ、2人は同時にカップを傾ける。飲んでいるのはコーヒーだ。

「話は変わるけどさ」

 鋭斗は、ふと思ったことを口にする。

「病院ってどこだ? 見覚え無いんだけど」

 首都でも見かけなかったし、今日のドライブでも見なかった。

「無ぇ」

 ニクスは当然のように答えた。鋭斗は目を瞬かせる。

「え、無いってことないだろ」

「いや、この国には無ぇんだ。強いて言うなら、魔導師が医者代わりだな」

「回復魔法って病気も治せるのか?」

「治せねぇけど。いや、ものによるか」

「風邪とかどうするんだ」

 鋭斗は混乱しながら尋ねた。ニクスは不思議に思ったが、少し考え理解する。

「そうか、知らねぇのか。えっとな……この世界の魔力を吸ってれば、感染症にかからねぇし、他の病気のリスクも軽減される。風邪って、たしか感染症の一種だろ? ってことは、島国だけの病気だ」

「魔力にそんな効果が……」

 確かに、それなら病院が無いのにも納得がいく。怪我の類は回復魔法で治るのだから。

「……じゃあ、この大陸の人が島国に行ったら……?」

「長期滞在なら死ぬ可能性が高い。魔力に守られ過ぎて免疫力が低いからな。魔力の効き目は数日もつから、その間に大陸に戻ってこれば大丈夫だ」

「じゃあ、回復魔法で治らない病気とかになったら、どうするんだ?」

「不治の病として諦められる。それはそれで、どうかと思うけどな……」

「他の国は、ちゃんと医療が……?」

「ああ。島国は言うまでもねぇが、B国は魔道具で色々やってるらしいし、南側諸国でもそれなりに……少なくとも、医者がいねぇなんてことは無ぇ」

「……じゃあ、死亡判定とかは誰がどうやってするんだ?」

「死亡判定?」

 ニクスが怪訝そうに聞き返す。鋭斗は頷き、曖昧な記憶を頼りに話し出した。

「日本では、基本的には医師が判定するものだったはず。脳死とかだと医師じゃないと分からないからって。判定基準は、深昏睡、瞳孔の散大と固定、脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失……だったかな? そういうの、ここには無いのか?」

「ちょっと待て、何かで読んだ気がする……」

 ニクスは目を閉じ、記憶をたどった。少しして、

「思い出したぜ」

 と言って目を開けた。

「確かに、島国ではそんな基準もあって、医師が判断する。で、C国は心臓死説だけだ」

「脈拍無し、自発呼吸無し、瞳孔の散大、だっけ?」

「そう、それ。……C国に限らず、B国以外の大陸の国はその基準だ。B国はよく分からねぇ、魔道具使った独自基準らしい」

「ほー……」

「で、C国で死亡判定するのは、死体取扱者っていう資格を持った人だ。警察にいて、司法解剖とかもする。こういうの、他の国では医師がやるんだけどな」

「なるほど」

「……とは言ったものの、あんまりアテにならねぇぞ、この話。島国で書かれた、ちょっと古い本だったからな。今は変わってるかもしれねぇし、他国の実情は違うかもしれねぇ。それに……」

「……?」

 ニクスはコーヒーを飲み干し、話を続ける。

「……俺から見れば、違う」

「違う?」

「ああ。……体と魂の繋がりが消えた時が、死だ。体と魂の繋がりさえあれば、息をしてなかろうが心臓が止まっていようが魂がその場に無かろうが、まだ生きてる」

「繋がりって、糸みたいな感じか?」

「いや、糸って感じじゃねぇな。証明書が付いてるっていうか……生きてる間は体と魂は同じ番号だから結びついてるけど、死ぬと体の番号が変わって結びつかなくなる、みてぇな……感覚的なもんだから、たとえるのが難しい」

「……何となくは分かった」

 鋭斗は納得したように言った。かねてからの疑問であった、「死とは何か」……その答えを、教えてもらった気がした。




 その頃。美恵莉、メルシャ、エフェルリシアの3人は、商店街のファミレスで夕食を楽しんでいた。

「それちょっとちょうだい!」

「じゃあ、そっちも少しもらえる?」

 美恵莉とエフェルリシアがおかずを切って交換している。メルシャはそれを眺めながら、ひたすら食べていた。

 エフェルリシアはメルシャの食べっぷりを見て苦笑する。

「育ち盛りとはいえ、食べすぎじゃない?」

 4人前はあろうかという分量のパンとおかずが、ずらりと並んでいるのだ。片っ端からメルシャの口へ消えていく。

 メルシャは口の中のものを一旦全て飲み込んで、反論した。

「仕方が無いんだよ。頭を使うとお腹が空くの。メルシャは最近ずっと、お母さんの研究を手伝っていたんだ。内容は言えないけれど、今日やっと解放されたの」

 そして再び食べ始める。

「へ、へぇー……」

 エフェルリシアは困惑気味に相槌を打った。一方、美恵莉はメルシャの食事量を全く気にしていないようだ。

 美恵莉はエフェルリシアの視線を受け、目を瞬かせる。

「エフェル、気にしすぎじゃない? メルシャは時々こんな感じでドカ食いするよ?」

「そ、そうなんだ……」

 エフェルリシアは、気にしている自分がおかしいのかと思い始めた。と、その時。不意に、美恵莉の未来が見えた。悪い未来。回避すべき未来。

「あ……」

 口を開きかけて、迷う。見えた未来は、あまりに荒唐無稽で、信じがたかった。

「どうしたの?」

「えっと……宇宙生物って、本当にいると思う?」

 エフェルリシアの唐突な問いかけに、美恵莉はきょとんとした。

「さあ……? え、本当にどうしたの?」

「うーん……けっこう先の未来なんだけど、エイトさんが宇宙生物に寄生されてるみたいで」

「えぇ⁉ まっさかぁ!」

「信じられないよね? 私も信じられないわ」

「とりあえず、兄さんに言ってみる! どれくらい先?」

「1か月後くらいかな……なんでだろう、はっきり分からない。こんなこと初めてよ」

「宇宙生物と占いが相性悪いんじゃない? ほら、何かジャンルが違うっていうか」

「うーん……? どういうこと?」

 エフェルリシアは首を傾げるばかりである。

 メルシャは不思議そうにその様子を見ていた。そして、全て食べ終わった後、

「占いに水晶玉を使っているって言っていたよね? どうして今ここで、ミエリの未来が見えたの?」

 と尋ねた。

「……占い師にそんなことを尋ねるのはマナー違反よ」

 エフェルリシアは苦笑して言った。






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