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2章(3) 聞き込み2

 被害者1の家に着いた鋭斗とニクスは、中に招き入れられた。何故か歓迎されている。お茶とお菓子を振舞われ、世間話に花を咲かせ、本題に入らぬまま時間が過ぎる。

 話に乗りながら、ニクスは住人たちを観察した。被害者1の両親と姉。皆明るく楽しそうで、どこか「清々した」というような思いが感じ取れる。

 被害者3の妻もそうだった。もしかしたら、被害者は皆、家族に嫌われていたのかもしれない。そんなことを考えながら、ニクスは本題に切り込む。

「この中に、知り合いはいるか?」

 被害者2、被害者3、被害者4の写真を順に並べるが、住人たちは首を傾げた。

「さあ……?」

「見たこと無い」

「うん、知らない」

 住人たちはそれぞれ言うが、その中で、被害者1の姉だけは嘘をついているのが分かった。被害者2の写真を凝視した後、ちらりと両親を見て、知らないと言ったのだ。

「……1人ずつ話を聞きたいんだが、良いか?」

 ニクスが確認すると、住人たちは快く了承した。やけに協力的な態度の裏に、「疑われるのはごめんだ」という思いが見え透いている。

 外に出て行くニクスと被害者1の父親を見送りながら、鋭斗は無言でお菓子をかじってはお茶を飲んでいた。


 ニクスは、被害者1の両親とそれぞれ適当に話を終わらせ、被害者1の姉と話す番になった。

「さて……何でこの人を知ってるんだ?」

 被害者2の写真を掲げ、軽い口調で問う。被害者1の姉は、びくりと身をこわばらせた。

「……両親には言わない?」

「もちろん。そのために1人ずつ話を聞いてるんだ」

 ニクスが笑みを浮かべて言うと、被害者1の姉はほっとして話し出す。

「その人、弟の彼女なの。たまに、こっそり家に連れ帰って来て、一緒に寝てたりしてた。両親は部屋が遠いけど、私の部屋は弟の隣だから……それで、口止めされてて」

「隠す必要があったってことか?」

「うん。弟は、ある人を嫁に迎え入れることになってて……。そんな立場で別の人と付き合ってたってバレたら、まずいでしょ」

「……まぁ、家庭の事情はそれぞれだろうから、そこは追及しねぇ」

 多少、合点のいかない部分はあるが、被害者1と被害者2の関係性は明らかになった。それで充分だ。

 2人で家の中に戻り、話を聞き終えたことを伝え、ニクスは鋭斗とともに外へ出た。



「……お昼どうする?」

「ファミレスでも寄るか? ……って、どこにあるか分からねぇけど」

 海沿いの街の駐車場に停めたレンタカーの中で、鋭斗とニクスは昼食の相談を始めた。時刻は12時を少し回ったくらい。お菓子をいただいたとはいえ、お腹の空く頃合いだ。

 この街は、車道が整備されている地域とされていない地域がある。被害者1の家は車道の無い地域だったので、近くの有料駐車場に停めて、そこから徒歩で行き、帰ってきたのだ。

「ナビのジャンル検索で出てくるはず……ほら」

「おぉ、すげぇ」

「ここが近いから、これを目的地に設定して、出発!」

 鋭斗は少し調子に乗りながら、運転を始めた。

 道は少し混んでおり、のろのろとした運転である。時速30kmくらいだ。

「……高速道路の時、ごめん。久しぶりのドライブでテンション上がりすぎてた。帰りは飛ばさないようにする」

 信号で止まり、冷静になった鋭斗は、高速道路で飛ばし過ぎたことを謝罪した。しかし、ニクスは首を振る。

「いや、飛ばして良いぜ。むしろ飛ばしてくれ。あのスリルはクセになる」

「……本当に?」

 気を遣って言ってくれているのかと思った。鋭斗は横目でニクスを見て、真意を確かめようとする。

 ニクスは苦笑した。

「もちろん本当だ。相棒同士で下手な気遣いは無用だろ?」

「……よーし、帰りは下道を飛ばすぞー!」

 鋭斗は大喜びで、帰る時を楽しみにしながら、ファミレスへ車を走らせたのだった。



 鋭斗とニクスが昼食を終えたのは14時過ぎだった。注文を決めるのも食べるのも早かったが、昼時の混雑は免れない。

 別会計で支払いを済ませてファミレスから出た2人は、レンタカーに乗った。すぐには出発せず、鋭斗はナビを操作する。目的地をレンタカーショップに設定。ルート検索で下道を選択。

「他の車がいたら飛ばせないからな……他の車がいませんように……」

 と呟きながら、鋭斗は車を出発させた。

 海沿いの街を出ると、「田舎道」と呼びたくなるような景色が広がる。だだっ広い農地。正面には連なる山。人気もなく、他の車も通っていない。

 鋭斗の顔に、自然と笑みが浮かぶ。飛ばせる、という確信とともに。

 アクセルを踏み込み一気に加速。たちまち時速100km近く出る。そのまま山めがけて突っ走っていった。

 山に挟まれた道を、時速80kmくらいで駆け抜けていく。曲がりくねった場所ではさすがに速度を落とすが、ほぼ直線のところでは勢い余って時速100kmを超える。そんな運転をしていた。

 やはり、楽しい。

 隣に乗っているニクスも、少し窓を開けたりして面白がっている。冷たい外気が入ってくるが、ごうごうと吐き出される暖房と混ざって丁度良い。シートヒーターもあるので、全く寒くなかった。

 尚、鋭斗は速度計を全く見ずに運転しいている。感覚だけで速度を判断しているのだ。制限速度が無いからといって、やりたい放題である。

 そうして山越えの道の中ほどに差し掛かった時。


「止まれ!」


 ニクスの鋭い声音に驚き、鋭斗は急ブレーキをかけた。

「……っ⁉」

 ハンドルを握りしめ、急停止の反動に耐えながら、見た。車の前に、魔物が降ってくるのを。道を塞ぐようにして、大きな魔物がどしりと落ちてくるのを。

 あわや魔物と衝突、というところで、車が静止した。

 ギリギリ当たらずに済んだ。心臓が早鐘を打つ。

 もし、止まれていなかったら。魔物に激突していたら。

 少なくとも、車は大破していただろう。

 それくらい、目の前の魔物は硬そうで、巨大だった。


「あ、危なかった……ありがと……」

「ふぅ……すぐ反応してくれて助かったぜ」

 ニクスは安堵し、車のドアを開けながら言う。

「危うく借金する羽目になるところだった」

「そっち⁉」

 身の安全ではなくレンタカーの心配をしていたのかと、鋭斗は呆れたような顔をした。

 ニクスは車から降りながら、ニヤリと笑う。

「防御魔法の準備はしてたぜ」

「流石……」

 鋭斗は感嘆の溜息とともに言った。ニクスはいち早く魔物の気配を察知して、最悪でもレンタカーが壊れるだけで済むように構えていたのだ。

「やっぱ俺、運良いなぁ」

 ニクスと一緒でなければ、死んでいたかもしれない。そんなことを思いながら車を降りて、ニクスの隣に並ぶ。

 魔物は攻撃してこない。ただ道を塞いでいるだけだ。

「海沿いの街の魔導師がサボってるのか手が回ってないのか……それか、急に現れた、か?」

 ニクスは魔物を睨んで言う。

「俺たちだから良かったものの、一般人が巻き込まれてたら悲惨だったな。この魔力量、ボーナス6万くらいはありそうだ」

「高っ」

「一緒に倒そうぜ」

 こともなげに言うニクス。鋭斗は首を傾げた。

「……俺、要る?」

「ああ。頼りにしてるぜ」

 今は他の車が見当たらないが、ここは公道上だ。誰かに見られる可能性が大いにある。剣や魔術を使うのは避けたい。

「とりあえず、車を後ろに下がらせてくれ」

「了解」

 鋭斗は言われた通りレンタカーをバックさせた。かなり大きく距離を取り、端に寄せて停める。そしてニクスの所に駆けた。

「それにしても全然動かねぇな……」

 魔物を見つめてニクスが呟く。

「行動を変化させずに倒したいところだ。……エイト、攻撃はどの程度使える?」

「中級は2つ。雷の玉と火の玉。相乗効果は初級4つまで」

「中級の連発は?」

「無理」

「そうか、俺もだ。今後の課題だな。……氷の槍は使えるか?」

「使える」

「よし、じゃあ作戦を言うぜ。エイトが初級4連発で相乗効果、4発目は氷の槍。で、俺が上級ドーン、それから、行動が変わる前に一緒に畳みかける」

 途中でもどかしくなって、「上級を撃ち込んで相乗効果を起こす」を擬音語一つにまとめてしまった。その後言ったこともかなり雑だが、鋭斗なら皆まで言わずとも分かるだろう。

 そんなニクスの考え通り、鋭斗はしっかり理解した。

「なるほど、なるべく火は使わずにって感じか。山の木に燃え移らないように」

「そういうことだ」

 ニクスは魔物を見据え、言う。

「――作戦開始!」

 その言葉を聞くや否や、鋭斗は魔法を放った。

 魔物の下から火柱が吹き上がる。魔物の巨大さからすれば、あまりに細く頼りない。そこにぶわりと土煙。火柱を包むように舞い上がり、魔物の上部まで到達する。そして、魔物の上部から、ラトゥール鎖が絡みつく。太い鎖は巨体を覆い、銀色の煌めきをもって魔物を隠す。その上から、氷槍が落ちた。

 ぶつかりあう魔物と氷。魔物は見た目以上に硬く、氷の槍が刺さるのを拒む。しかし、氷槍は硬さと鋭さを増していき、なんとか魔物に食い込んだ。多少のダメージは与えられただろう。

 魔物に刺さった氷槍めがけ、風の塊が飛んでいく。高い密度に凝縮された、多数の風刃。氷を砕いて魔物の中へ。魔物の内部で膨れ上がり、めちゃくちゃに暴れ狂う。

 内側から引き裂かれた魔物が、その硬く大きな体を苦しげに揺らした。

 行動が変化する。そう悟った鋭斗は、中級の雷弾を放った。――その直前に、ニクスが中級の水弾を撃っていた。

 雷撃が魔物の表面を伝い、脆い部分から消し飛ばしていく。バチバチと轟音を響かせて、魔物を喰い尽くした。

 魔物の消失と共に、魔法も消える。その時、拍手が聞こえた。魔物がいた反対側……対向車線で足止めを食らっていた一般人だ。それを見て、ニクスは呟く。

「本当、動かない魔物で良かったぜ……」

 被害を出さずに済んだことに、心底安堵しての言葉だった。動きの激しい魔物だったなら、いつの間にか対向車線から来ていて今拍手してくれている一般人が魔物の餌食になっていたかもしれない。あるいは、魔法の巻き添えにしていたかもしれなかった。

 鋭斗はレンタカーにそそくさと戻り、まだ突っ立っているニクスのもとまで動かした。

 ニクスは対向車の人に手を振り、鋭斗の隣に乗る。

「帰って報告だな」

「……飛ばしてオッケー?」

「ああ。これ以上は魔物と遭遇しないだろうしな」

「フラグ……」

「いや、対向車」

「ああ、そっか。じゃあ出発!」

 そうして鋭斗はアクセルを踏み込んだのであった。




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