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2章(2) 聞き込み1

 鋭斗とニクスが電車に乗って向かったのは、大都市だ。被害者2と被害者3の家に行き、その家の住人——被害者2と被害者3の家族に話を聞くためである。

 地図を確認すると、目的の家は、大都市の中でも駅から遠い場所にあった。

「あれ、タクシー無いな」

「出払ってるのか?」

 大都市に着いた2人は呟きながら、駅の周りをうろうろする。やはりタクシーが見当たらない。

「エイト、運転できるか?」

 ニクスはレンタカーショップの看板を見ながら尋ねた。

「え、うん、よくドライブしたけど……いやでも、ここの免許持ってないし?」

 困惑した表情で答える鋭斗に、ニクスは笑みを浮かべて

「任せた」

 と言ってレンタカーショップへ歩き出した。

「ぇえええ⁉ 免許持ってないって!」

「大丈夫だ、シミュレーターと簡単な試験をパスすれば、C国限定の運転免許がもらえる。で、レンタカーショップにはそのシミュレーターと試験用の機械が置いてあるもんだ」

「せめて試験勉強させて!」

「何回でも受け直せるから余裕、余裕! 問題はシミュレーターだが、実際に運転したことあるなら楽勝だぜ」

 面白そうに言うニクスを追いかけながら、鋭斗は渋面を浮かべる。

「じゃあニクスが受ければ良いのに」

「俺は運転したことねぇからな。1回、ものは試しと思って受けてみたことはあるんだが、シミュレーターの操作方法が全く分からなかったんだ。ブレーキ踏んだつもりがアクセル踏んでたり、前に進もうとして後ろに進んだり、めちゃくちゃだった」

「それはもはや暴走車……」

 鋭斗は呆れた声を出しつつ、久しぶりに運転できることを嬉しく思っていた。



 結果として、鋭斗は30分ほどで免許を取得できた。

 シミュレーターは鋭斗の通っていた自動車教習所にあったものより遥かに高性能で、本当に運転しているような感覚だった。試験官役AIの言う通りに、真っ直ぐ進んだり、曲がったり、駐車したりして、1発で合格できた。

 試験の方は、○×クイズ50問で7割以上正解すれば合格。知らない問題も多かったが、半分くらいは日本と同じようなものだったので、2回目で合格できた。


「エイトは流石だな」

「右ハンドル左側通行で助かった。逆だったらキツかった」

 レンタカーに乗り込みながら、ニクスと鋭斗は話す。車種はコンパクトSUVのハイブリッドカーだ。日本で鋭斗が乗っていたものと近い。

 運転席に座った鋭斗は、車内に置いてあったパンフレットのようなものを見た。

「あ、ドライブレコーダー付いてる」

「事故った時に映像を記録するやつか?」

「そうそう。……詳しくは書いてないけど、もしかしたら車内音声も記録されるかも」

 他には、バックモニターやナビについて書かれていた。どれも「付いている」ことしか分からないような大雑把な情報だ。細かい機能の説明は無く、「分かるなら使えば?」とでも言わんばかり。鋭斗にとっては何の問題も無いが、なかなか不親切かもしれない。

「……これ、C国人は使えるのか……?」

 思わず呟いた鋭斗に、ニクスは考えながら答える。

「島国から来た人なら、使える人は多いはずだぜ。あとは、ナビ付の車を持ってる人……この辺りには少ねぇだろうが、海沿いの街には結構いるらしい」

「海沿いの街?」

 鋭斗は怪訝そうに言った。C国において、この大都市が最も発展しているのだから、自動車もこの都市が最も普及しているものだと思っていたのだ。

 ニクスは少し考えて答える。

「海沿いの街が、この国で一番面積が広い街なんだ。この都市ほどじゃねぇにしろ、かなり発展してるし……C国唯一の自動車教習所が海沿いの街にある。あと、金持ちが多く住んでるってのもあるかもな」

「おお……」

「そういう訳で、さっき言った以外のC国人は、ほとんどの人が使えねぇだろうな。俺も情報として知ってはいても、使い方は分からねぇ」

「なるほど」

 ナビを操作して目的地を設定しながら、鋭斗は言った。

「そこで俺の島国出身って設定が活きるわけか」

「そんな所だ。……設定とか言って大丈夫か? 録音もされるんだろ?」

「……大丈夫じゃないかも。まあ、事故らなければ聞かれることもないだろうし、そもそも音声が記録されるタイプかどうか分からないし」

 言い訳めいたことを並びたてながら、鋭斗は車を出発させた。


『およそ300ミュテル先、斜め右方向です』

 ナビの音声案内が告げた。

(ミュテル⁉)

 初めて聞く単位に困惑しながらも、ナビの示す場所を曲がる。感覚的には「メートル」と変わらなかった。

(重さはグラムなのにな……)

 美恵莉が料理本を見て気付いたらしい。呼び方も記号も本当は違うはずだが、言語理解を通せば「グラム」であり「g」だ。定義か何かが一致しているからだろう。

(メートルじゃなくてミュテル、メートルじゃなくてミュテル)

 うっかり「メートル」と言ってしまわないよう念じながら、鋭斗は運転を続けた。



 30分程度で目的地に着いた。ニクスがインターホンを鳴らし、鋭斗は後ろで突っ立っている。

『……はい』

 インターホンごしの声は、女のものだ。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ。出てきてくれねぇか?」

『はい?』

 胡乱げな声を意に介さず、ニクスは続ける。

「殺人事件の捜査だ」

『お断り。帰ってちょうだい』

「協力しないと、容疑者になりかねないぜ?」

『……どうぞ、入って』

 溜息とともに、ガチャンとドアから音がした。中から電気錠を開けたようだ。

 鋭斗はぽかんとしていたが、ニクスは遠慮なくドアを開けて入っていく。

「?」

 インターホンの前でじっとしている鋭斗を怪訝そうに見て、ニクスは手招きした。鋭斗は我に返ったように、慌てて家へ入る。

 上がりこまずに待っていると、中から女が出てきた。被害者2の母親であり被害者3の妻だ。

「早速だが、どちらかに見覚えはあるか?」

 ニクスは捜査資料の写真——被害者1と被害者4の写真を見せた。

「……いいえ、無いわ」

「嘘だな」

「何を根拠に?」

 それには答えず、ニクスは女をじっと見る。少したじろぐ女に、ニクスは言葉を浴びせた。

「……警察に知られたくないことがあるなら、秘密は守るぜ。俺は事件を解決できればそれでいい。だから、話してくれねぇか」

 女は、何やら見透かされている感じがして、薄気味悪くなった。反面、「仕方ない、じゃあ話そう」という気分になる。

「その子、夫の実の子なのよ」

 被害者4の写真を指さして、女は言う。

「私、夫とは不倫の末に結婚したのよ。殺された子は、私の連れ子」

「そうか……参考になったぜ」

 そう言って、ニクスは踵を返す。女は「もう終わり?」と不思議そうな顔をしていたが、2人の来訪者はそそくさと家を出た。

「速いなぁ」

 家を出るなり、鋭斗は呟いた。ニクスは笑って、

「エイトのおかげだぜ? 被害者同士の関係性に着目って案は、俺1人だとすぐには出なかっただろうからな」

 と言った。

「嘘だー。ニクスもすぐ思い付いただろ?」

「そんなことねぇって。買いかぶりすぎだ」

 言い合いながらレンタカーに乗り、電源を入れる。

「で、次は?」

「被害者1の家……海沿いの街だな」

「……電車?」

「走り足りねぇって顔してるな? そんなエイトに朗報だ。海沿いの街まで車で行けるぜ! 高速道路でも下道でも」

「高速道路……!」

 ふざけた口調のニクスの言葉に、鋭斗は目を輝かせた。

 ノリノリで目的地を設定、出発。5分ほどで高速道路に乗った。

「ひゃっほー!」

 などと言いながら、鋭斗は速度を上げていく。この国にはスピード違反を取り締まる法律が無く、飛ばし放題なのだ。事故さえ起こさなければ。

「飛ばし過ぎじゃねぇか⁉」

「大丈夫ー!」

 追い越し車線を、他の車に追従しながらぶっ飛ばす。走行車線を走る車が瞬く間に後ろへ遠ざかっていく。時速120km近い。カーブもろくに速度を落とさず、びゅうんと曲がってまた加速。

「危ねぇ……⁉」

「大丈夫だって!」

「……帰りは下道通ってくれ」

 頭を抱えながら言うニクスに、鋭斗はしれっと言い返す。

「下道も、他の車がいなかったら飛ばすけど?」

 ニクスは呆気にとられたが、だんだん面白くなってきて、

「……ああ、良いぜ、のぞむところだ」

 笑みを浮かべて言った。

 そんな調子だったので、予定より早く目的地に着いた。




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