2章(1) 調査依頼
12月7日。ニクスが公園から寮に帰ると、寮の前に1人の警官がいた。
「来るだろうと思ってたぜ」
ニクスの声に振り返った警官は、快活な笑みを浮かべた。
「だろうな! ちょっとヤバい事件だから、防音の個室を使わせてくれ!」
この警官、名をテールという。26歳の男で、元は不良グループにいた。不良グループ自体はいくつもあるのだが、中でもたちの悪いグループだった。空き巣に入るのは可愛いもので、魔銃を使って強盗、果ては殺人までやらかしていた。警察に捕まっても良さそうなものだが、なかなか捕まらなかった。隠れるのが非常に上手かったのだ。そんな不良グループの噂を、ニクスがゲーセンで聞きつけた。そして、喧嘩を売って勝ち、警察に引き渡した。8年ほど前のことである。テールは、それを機に更生し、こうして警官になったのだ。それ以来、時折事件解決のためにニクスを頼ってくる。
寮の喫茶店の防音の個室に入った2人は、モーニングを食べてから事件について話し始めた。
「最初は単なる行方不明だと思ってたんだけどさぁ……」
言いながら、テールは捜査資料をテーブルに並べていく。
「その日のうちに、その行方不明者が死体で見つかって、また新たな行方不明者が……」
「ちょっと待ってろ」
ニクスは言うなり防音の個室から出た。何だろう、とテールが怪訝に思っていると、ニクスはすぐに戻ってきた。同年代の黒髪の男を連れて。
「ちょっ、部外者は……」
言いかけたテールを遮り、ニクスはニヤリと笑う。
「部外者じゃねぇ。俺の相棒だ」
防音の個室の中から鋭斗の気配を感じ取ったニクスは、協力してもらおうと思って連れてきたのである。鋭斗はモーニングを食べに来ており、防音の個室から出てきたニクスに驚いたが、「ちょっと事件の調査をすることになったんだ、一緒に話聞こうぜ」と誘われるままに、防音の個室に入った。
テールはしばし面食らった顔をしていたが、
「相棒かぁ……うん、じゃあ部外者じゃないな」
と納得した。そして事件についての話を続ける。
「次の行方不明者は、後日、自宅で発見された。これもやっぱり死体だった。で、その行方不明者の父親が行方不明になった。で、その人も後日、別の家で死体で発見されて、その家に住んでた人が行方不明になった。この段階でようやく、連続殺人の可能性を考え始めて調査しだしたんだけど、被害者に共通点も無いし、犯行の目撃者も見つからないし、お手上げでさ。何でおれがこんな厄介な事件を担当する羽目になったと思う?」
「先輩に押し付けられたのか?」
「そうなんだよ、おれならニクスに協力を仰げるとか言って」
「誰が来ても協力するのにな」
「おれもそう言ったんだけど、先輩は信じてくれないんだ。ニクスのことチンピラか何かだと思ってるのかもな」
テールは肩をすくめ、苦笑した。
「因みに署内ではニクスのこと、どんな事件も大抵は暴力で解決してたまに話術で解決する名探偵って噂になってる」
「嫌みか……」
「だろうね。だって、勘で乗り込んだら犯人で、攻撃されたからノしたー、とか、何か喋ってたら勝手に自首してくれたー、とか、そんなんばっかりで、推理披露とか無いし」
「そもそも探偵じゃねぇからな」
「いいや、探偵だ。臨時顧問探偵枠にぶちこんどいたからな」
「聞いてねぇぞ、いつからだ」
「割と最初の方。何年か前。堂々と調査依頼するためだ、悪く思うな」
「……良いけどな、別に困らねぇし」
魔導師は兼業不可だが、「臨時顧問探偵」になっても兼業扱いにはならない。仕事ではないからだ。無報酬の、ボランティアのようなものである。もらえるのは交通費くらいのもので、こんなことをするのは余程のもの好きか道楽目的の金持ちかだといわれている。探偵を生業として警察に協力する者は、正式な「顧問探偵」として働いているのだから。
鋭斗は黙々とモーニングを食べながら、ニクスとテールの会話を聞いていた。そして、「ニクスって探偵だったんだ」と言うような表情を浮かべる。
それに答えるように、ニクスは苦笑しながら呟いた。
「……スパイルが俺に読心術を仕込んだのは、こういうことをさせるためだ」
首都で働いていた頃のスパイルは、今のニクスと同様、事件に首を突っ込んでは解決していた。治安を少しでも良くするためである。因みにスパイルも、いつの間にか臨時顧問探偵ということにされていたらしい。
「じゃ、よろしく!」
テールはそう言って、捜査資料をテーブルに散らかしたまま出て行った。
「そういえば」
モーニングを食べ終え、2杯目のコーヒーを飲みながら、鋭斗は言う。
「何で冬に犯罪が多いんだ?」
「何十年か前に、数年連続して冬の犯罪件数が多かったらしくてな。それがきっかけで、冬なら犯罪がバレにくいって話になった。今では、殺したいやつがいるなら冬に殺せ、なんていわれる始末だ。だから冬に犯罪が増え、しかも周到に計画された厄介なものも多い」
ニクスもコーヒーを飲みながら、答えた。
「なるほど……」
だから顧問探偵が皆忙しく、臨時顧問探偵であるニクスのもとに依頼が来たのだろう。鋭斗はそう納得し、捜査資料に目を落とした。
被害者の写真とともに、名前など少しの情報が記載されている。
名前を覚えるのが面倒くさいな、と鋭斗は思った。
「被害に遭った順に、被害者1、被害者2、みたいな呼び方で良いか」
と呟いた鋭斗に、ニクスも同意を示す。
テールの言った通り、被害者に共通点は無いようだ。年齢も性別も住所もバラバラで、外見的特徴にも共通点が見つからない。
被害者1は20代後半の男。
被害者2は25歳の女、被害者3は60歳の男で、この2人は親子。
被害者4は20代前半の女。まだ行方不明だが、この流れなら近々死体で発見されるだろう。
「男女が交互ってくらいか」
「年齢が20代に偏ってるけど……あ、あと、全員実家暮らし」
ニクスと鋭斗が気付いたことを言い合う。
「死に方がおかしいよな。脳を内部から破壊されたような……って、どんな殺し方したらそんなことになるんだ」
「何か、魔道具とか? 行方不明の間、全く目撃されてないってのも気になるな」
「死亡推定時刻と発見時刻から考えると、犯人は行方不明者を生きたまま運んで、次の行方不明者の家で殺してるってことになるよな。……目撃されずにそんなこと出来るのか?」
「……姿を消せる異世界人だったりして」
「有り得るのが嫌なところだな」
「うーん……被害者に共通点が無いなら、関係性は? 被害者全員と関係がある人が実はいて、それが犯人」
「可能性は高そうだが、見つけるのが難しいだろ。ここはやっぱり、次に狙われる人を推測して待ち伏せするのが良いんじゃねぇか?」
「そうだよなぁ……でもどうやって推測するんだ、共通点無いのに……あ、実は被害者同士の関係性があったり? 被害者2と被害者3が親子って以外にも。友人とか恋人とか」
「……その線で聞き込みしてみるか」
言いながら立ち上がるニクス。鋭斗は慌ててコーヒーを飲み干した。




