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1章(5) 公園同盟

 図書館の読書スペースで会った鋭斗と美恵莉は、ショッピングモールに行って喋ることにした。図書館で喋るのがはばかられたためである。いつもよりも人が多かったのだ。

「それでね、公園同盟で兄さんの昇給祝いやることになったから!」

「公園同盟?」

 鋭斗は怪訝そうに聞き返した。

「そう。私と、兄さんと、フィノーラさんと、ニクスさん」

「……そこに俺が入ってるの、違和感がすごい」

 早朝に公園で集まっている頻度が、鋭斗だけ極端に少ないのだ。

「てか、そう何回も昇給祝いしなくても……」

「フィノーラさんが言い出したんだよ? そういえば、何でニクスさんに昇給したこと言ってなかったの?」

「えーっと……久しぶりに会ったから距離感が……」

 目を逸らしながら言う鋭斗に、美恵莉は呆れたような顔を向けた。

「1か月会ってなかったくらいで何言ってるの? そんなんだから、友達とクラスが離れただけで喋れなくなるんだよ」

「いつの話だ」

 鋭斗は溜息を吐いた。

「……分かってる。ニクスとなら大丈夫。相棒だし」

「まあ、私もそう思うよ。ニクスさんのコミュ力にかかれば、兄さんでもすぐに距離が詰まるもんね」

「違いない。……ところで美恵莉、勉強は?」

「メルシャが忙しいの。あと何日かかかるんだって。だから、私はその間にサボる!」

「そんなことをキッパリと言うな」

 呆れたように言う鋭斗。美恵莉は不満そうな顔をする。

「だって、難しいんだもん。改めて思ったけど、やっぱり兄さんは天才だね」

 唐突な美恵莉の言葉に、鋭斗は嫌そうな顔をした。そんな鋭斗を見て、美恵莉は興奮気味に話す。

「だってねー! 魔法理論とか難しすぎて全っ然理解できないんだよ⁉ 基礎とは大違い!」

「美恵莉が馬鹿なだけだろ」

「違うって! 普通は何年もかけて理解していくものなんだって!」

「でも、俺の友達なら半分以上の人はすぐ理解できそうな気がする」

「それって同じ高校の友達でしょ⁉ 賢い人ばっかじゃん。自分より頭悪い人をナチュラルに見下すの良くないと思う!」

「いや、俺は美恵莉しか見下してないからセーフ」

「むむむ……! 謙遜も過ぎた先は闇だよ!」

「謙遜も過ぎれば嫌み……と、一寸先は闇? 変な混ぜ方するな」

「ほらそうやってすぐ見破る! ちょっとは混乱してくれれば良いのに」

 雑な掛け合いを楽しみ、ひとしきり笑い合った後、2人はフードコートで昼食をとったのであった。



 午後6時、駅前に集合した公園同盟の4人は、商店街のレストランに行った。

「経緯は分かったけどさ」

 席に着きながら、鋭斗はニクスに言う。

「どう考えても美恵莉まで奢ってもらうのはおかしいと思う。美恵莉の分は俺が払う」

「いや、良いって。フィノーラに何でも奢るって言ったからな。そのフィノーラがミエリの分も奢るよう言ったんだから、何もおかしくねぇ」

 ニクスはニヤリと笑って言い、その向かいでフィノーラは頷いた後すました顔で口を開いた。

「ちょっとした腹いせ」

「腹いせなの⁉」

 美恵莉は驚いて、隣のフィノーラと斜め前のニクスを交互に見た。

「だと思ったぜ。何か怒ってるのは分かったからな」

 フィノーラは、ニクスをじっと見つめた。

 出張の理由を教えてもらえないのが、気に入らない。プライベートのことなら別だが、これは仕事の話なのだ。

「悪かったって。けどな、そう何人も出張できねぇんだ。俺1人ならすぐ手続きできるから……」

「違う」

 フィノーラはニクスの話を遮った。聞きたいことは分かっているはずなのに、わざと違う話をしていると思ったからだ。

 ニクスは、渋々、といった風に口を開く。

「スパイルの代わりに討伐するためだ。詳しい話はまた明日な」

「え、スパイルさんがどうかしたの?」

 美恵莉がきょとんとして尋ねた。一方、鋭斗は「やっぱりそうか」と言うような顔をした。フィノーラは、ようやく合点がいったという顔で確認する。

「魔法の使い過ぎ?」

「そうだ」

「どういうこと?」

 美恵莉は再び尋ねた。4人の中で唯一、まだ魔導師ではないから、分からないのだ。鋭斗は嘆息して説明する。

「魔法を使うのにSPを消費するってたとえの延長で言うと、SPがゼロになった状態で魔法を使い続けてたせいでヤバいことになったって感じ、だと思う」

「SPゼロでどうやって魔法を使うの? ヤバいことって何?」

「それは知らない」

「えー?」

 その会話を聞いて笑いながら、ニクスが補足する。

「リミッターを外すと、SPゼロでも一時的に魔法を使えるようになるんだ。ただし、その後数週間は最大SPが減った状態になる」

「……リミッターってどうやって外すの?」

「気合で」

「気合……」

 なるほど、分からない。美恵莉は困惑したが、兄は「そういうことか」と言うような顔をしていた。フィノーラはSPのくだりから話を聞かずに食事に夢中になっているようだ。

「外さねぇ方が良いぞ」

 そんなニクスの言葉に、鋭斗が反応する。

「いや、そもそも外せないから。何か特殊な訓練とか必要なんだろ?」

「訓練か……そういう方法もあるんだっけ」

「ニクスはどうやって外せるようになったんだ?」

「火事場の馬鹿力ってやつだ。それで1回外れたから、外す感覚が掴めた」

「あー……」

「といっても俺の場合は、外したところで上級が3回分くらい追加で使えるって程度だ。結構個人差があるらしくてな。まあ、外さないで済むに越したことはねぇ」

 軽く笑って言うニクスに、美恵莉は

「ってか、何でニクスさんまでゲームにたとえられるの? 兄さんと打ち合わせでもした?」

 と尋ねた。

「してねぇ。けど、さっきの会話でどんなたとえ方してたかは大体分かったからな。それに乗っただけだ」

「じゃあ、ついでにニクスさんに質問。最大SPの個人差について教えて」

「人種の差が大きいな。A国人、C国人、D国人は他の人種に比べて最大SPが多いらしい」

「1つの国に1つの人種なの?」

「いや、複数の人種が混ざってる国もあるが、最大SPって観点だと同じようなものだから」

「へぇ……あれ、フィノーラさんはE国人だったよね?」

 話を振られたフィノーラは、食事を中断して頷く。

「E国人は本来、魔法を使うのに向かないらしい。頭痛が来るのが早いから」

 SP云々はよく分からなかったが、そういう話だろうと思って言った。

「ふーん。じゃあフィノーラさんは、最大SPが少ないけど消費SP軽減のスキルレベルが結構高いんだね」

「ああ、フィノーラは俺と違って努力家だからな」

 と言ったのはニクスだ。美恵莉はきょとんとした。

「兄さんが言うならともかく。その言葉がニクスさんから出るとは」

「フィノーラが練習場にこもっている時、俺はゲーセンで遊んだり不良グループと喧嘩したりしてた」

 ニクスがしれっと言うのを聞いて、鋭斗が口を挟む。

「美恵莉、真に受けるなよ。ニクスは努力を努力と思わずに努力してるタイプだ」

「え、嘘なの?」

「嘘じゃねぇ。あと、エイトの分析に異議を申し立てたい」

「エイトは間違っていない。ニクスは戦い以外の自己分析が下手」

 フィノーラの言葉に、ニクスは苦い顔をした。

「それはつい最近実感したばかりだが……それはそれとして、さっきの話は本当なんだけどな。おかげで、消費SP軽減のスキルレベルはフィノーラより随分低いぜ?」

「何か、ニクスさんまでスキルレベルとか言ってるの面白いね」

 美恵莉はにやにや笑って言った。それに対し、鋭斗は鷹揚に言う。

「ニクスはお前に合わせてくれてるんだ、感謝しろ」

「何で兄さんが偉そうなの⁉ ってか、兄さんの方が余程、ニクスさんに合わせてもらってるよね?」

「う……ぐうの音も出ませんごめんなさい」

「分かればよろしい」

「げほっごほっ」

 フィノーラがむせた。

「大丈夫か?」

「……ごめん、ツボに入った……」

 口を押えて俯き、肩を震わせている。鋭斗と美恵莉には何がそんなに面白かったのか分からなかったが、フィノーラは1分以上笑い続けた。

 そんなフィノーラを、ニクスは意外そうに見る。

「これは……喜劇でも見せようものなら、笑い転げそうだな」

「……っ、私は、ニクスほど、笑いのツボは浅くない!」

「笑いながら主張されても説得力ねぇぞ」

「お酒の、せい!」

 確かにフィノーラは、何杯も果実酒を飲んでいるようだった。

「嘘つけ、俺と勝負になるほど強ぇくせに」

「……私の勝率は、たったの1割」

「えぇ……?」

 美恵莉は非難するような目でニクスを見た。

「誤解だ。酔いつぶれるまで飲んでる訳じゃねぇ」

「じゃあ、どうやって勝敗決めてるの?」

「歩行検査だ。先にまっすぐ歩けなくなった方が負け」

「なーんだ」

 そんな話をしていると、フィノーラが水を飲んで溜息を吐いた。

「お、やっと落ち着いたか」

「はぁ……こんなに笑ったのは初めて」

 フィノーラは暑そうにパタパタと手で顔を扇いでいる。どこか恥ずかしそうだ。

「良いじゃねぇか、笑うのは体に良いんだ。笑う門には福きたる、とか言うしな」

 尚、この言葉はスパイルの受け売りである。

 その後もしばらく雑談を続け、4人は「鋭斗の昇給祝い」という名目の食事会を終えたのだった。






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