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幕間 F国にて

 F国は大陸の南東部に位置する、とても小さな国だ。人々は細々と暮らし、土着の神を信仰している。そんな神は居ないというのに。

 鉱山跡の拠点を捨てた教主は、F国の教会で暮らしていた。複数の土着神をまとめて祀っている場所である。

 少し「奇跡」を起こして見せただけで、この街の住人は教主を神の使いだと信じた。丁重にもてなし、教主の言うことは何でも聞く。

(ここまで歓迎されるトハ)

 教主にとっても予想外だった。F国に来たのは、この世界で最も小さい国ならば乗っ取ることも出来るのではないか、という野望めいた思い付きによるものだ。

(この分だと、本当に乗っ取れそうデス)

 そうなれば、F国を第二の実験場にするのも良いかもしれない。教会に飾られたステンドグラスを眺めながらほくそ笑んでいると、

「教主様」

 声をかけられた。振り向くと、司祭が立っている。

「案内したい場所がございます」

 教主が来るまでは教会で暮らしていたその男は、うやうやしく頭を下げて言った。



 司祭の案内に従い、教主は教会の地下に降りた。水路のある地下通路が迷路のように広がっている。

 時折、魔物が降ってきた。杖から魔術を放ち、難なく消し去る。

「ここは街の中心へ繋がっております」

 司祭が説明する。教会は街の外れにあるのだが、この地下通路を通れば地上を行くより短時間で街の中心部へ出られる、ということを。

 教主にとっては不要な情報だ。転移魔術を使えば一瞬で行けるのだから。それよりも、気になることがある。

「ここは随分と魔力が濃いでスネ」

 街も、その周辺も、大気中の魔力濃度は薄かった。そのおかげで、魔物は滅多に出ない。出ても、弱いものばかりだ。しかし、この地下通路は違う。

(まるで、オスク洞窟のような濃サ……)

 数えきれないほど魔物が多い。天井に張り付いていたり、水路を泳いでいたり。

「そうなのですか?」

 司祭が驚いたような声を上げる。どうやら魔力濃度を知覚できないらしい。

「ええ、そうでスヨ。ここで何か変わったことはありませんでしタカ?」

「変わったこと……」

 司祭は考える素振りを見せ、

「そういえば、教会にいる時に、地下から言葉の通じない人が現れたことが……」

 思い出したように言った。

 教主は思わず立ち止まる。

(ということは、別の世界カラ……。なら、次元の扉……! もう一つは、ここにあったのでスネ!)

 この世界に来る前、次元の狭間で語りかけてきた者がいた。その者は「傍観者」と名乗り、この世界のことを教えてきた。

 今は神がいないこと。次元の扉が2つあること。他にも色々と。

 次元の扉の一つはオスク洞窟にあった。

(この国にも異世界人がいるはずデス。見つけ出さなくテハ)

 口の端がつり上がる。司祭が不思議そうに見てきた。

「……何でもありまセン。それより、案内したい場所というノハ?」

「この先でございます」

 階段を指して、司祭は言った。その階段を上って地上へ出ると、小さな部屋の中だった。中心に宝玉が置かれている。

「これをお見せしたくて。地下通路からしか辿り着けない場所なのです」

 司祭の言葉に、教主は首を傾げた。

(……ああ、そうでシタ。ワタシは神の使いということになっているのでしタネ。それにまつわる何かなのでショウ)

 適当に話を合わせる。しばらく宝玉を眺めながら談笑した後、一人にしてほしい旨を司祭に伝えた。



 宝玉に映る自分の姿を見つめながら、教主は200年前を思い返した。

 もといた世界でも、教主――ティルノスィスア・リムは教団の教主だった。団員のいない教団の、名ばかりの教主。

 今とは異なる理念があった。支配者たる神への反逆、あるいはただの嫌がらせ。新たな神を作り出し、死後の世界に君臨させる。そのための教団だった。

 地面に開いた小さな穴に、興味本位で飛び込んだ。そこが次元の狭間であった。傍観者の話を聞き、導かれるようにこの世界に着いた時には、新たな目標を抱いていた。それが現在の、教団の目的である。

(……長年生きていると、考え方がブレまスネ。国を乗っ取ろうなどと、昔は全く思わなかったというノニ。人が苦しむ姿を見るのは相変わらず楽しいでスガ)

 そんなことを考えていると、

 ――教主様

 遠話魔術で声をかけられた。C国で実験している教団員だ。

 ――報告です。魔物を強化する魔術、成功しました。

「それは良かったデス」

 ――記憶にある魔物を完全に再現する魔術は、失敗でした。

 それを聞き、過去視と遠隔視で実験の様子を確認する。

「……なるほど、分かりまシタ。少し術式をいじってみマス」

 そう言って、遠話を切る。そして、転移魔術で教会に戻った。

(こうすれば成功するはずデス。ワタシが直々に試してやりまスヨ)

 術式を思い浮かべ、笑みがこぼれる。実験ついでに、嫌がらせも出来そうだ。

 C国とF国の行き来は、杖に貯めた魔力のおかげで容易くできる。

 つくづく便利な杖だ。あの鉱山跡で魔力を放出しきったが、もうたっぷり貯まっている。

 異空間から紙とペンを取り出し、術式を綴っていく。この作業を終えるのに何日か必要だろう。

(これが終わったら、C国へ行くとしまショウ)

 C国における新たな拠点は教団員に探させている。まだ見つかっていないようだが、別に構わない。無ければ作るだけだ。


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