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3章(1) トップニュース

 10月14日。鋭斗が中央広場に行くと、なんだかいつもより騒がしかった。気にせず討伐依頼を眺め、手に取る。

 本当はもう1つ、中級の攻撃魔法を覚えるつもりだった。しかし、なんとなく気乗りしなかったのである。こういう時に覚えようとしても効率が悪いだけだ。



 今回の討伐対象は14000の魔物だ。姿は神社の鳥居そっくりで、綺麗な朱色だ。

 場所は東の海岸。海を背にして堂々と立っている。

 鋭斗が魔物に近付くと、鳥居の上部真ん中辺りが奇妙な光を帯びた。横に跳びつつ障壁を展開。砂が抉れて飛び散る。

 柱に向けて魔法を放つ。中級の雷弾。当たった、と思った瞬間、魔物はスッと移動していた。

(なら!)

 木が柱に巻き付いて、魔物をその場に縫い留める……はずだった。魔物が上に跳び上がる。ブチブチと音を立て、木が千切れた。

 魔物はそのまま後ろへ下がっていき、海に浸かる。その姿はまるで、厳島神社の大鳥居のようだった。

 鋭斗は魔物の上部めがけて火の玉を放った。2発同時に、まとめて。魔物が後ろに下がる。どんどん下がる。海岸から遙か遠くへ。魔法の届かない距離へ。

(……逃げられた⁉)

 想定していなかった。魔物が逃げるということを。

(これは討伐失敗だな)

 鋭斗は溜息を吐いた。



 鋭斗が宮殿に戻ると、プロニと別の魔導師が言い争いをしていた。


「オマエに止める権利無いだろ!」

「あるわ! あたしのパパは政治家なのよ⁉」

「関係無いだろ!」


「……何事だ?」

 鋭斗は、そばでプロニを見ているレウリオに声をかけた。

「新聞は見たかい?」

「新聞?」

 鋭斗は思わず聞き返した。

「1面に書かれていた、角男(つのおとこ)と魔力消失事件の話だよ、あの2人がしているのは」

 レウリオが言った。鋭斗には何のことだかさっぱり分からない。

 鋭斗には新聞を読む習慣が無かった。だからこの世界に来ても、新聞でニュースを見るということを思いつきもしなかった。

「見てない。図書館に置いてあるか?」

「ああ、一般教養のスペースの奥の方だよ」

「ちょっと見てくる」

 そう言って、鋭斗は図書館に向かった。



「見てきた。それで、あの2人はなんで言い争ってるんだ?」

 新聞の1面を読み、事のあらましを知った鋭斗は、再度レウリオに尋ねた。

「角男が魔力消失事件の犯人じゃないかって、あの魔導師が言いふらしているんだ。それをプロニが止めようとしているわけさ」

「……何で?」

 鋭斗は思った。別に、勝手にすれば良いのではないか、と。

「ちょっとややこしいことになっていてね。まず、大半の人は、デマだと思っているんだ。角男か魔力消失事件のどちらか、あるいは両方が。で、この状態の方が政府としては都合が良いのさ。角男と魔力消失事件を結び付けられると困るからね。その理由は……」

「レウリオも何か言ってよ!」

 プロニがレウリオの話を遮った。

「後で話すよ」

 そう言って、レウリオはプロニの横に行った。


 鋭斗は納得がいかなかった。大半の人がデマだと思っているなら、1人が何か言った所で誰も信じないのではないだろうか。むしろ、プロニが「パパは政治家」などと言って止めようとしている方が、あの魔導師の言葉に真実味を与えてしまう気がする。


「君、落ち着いた方が良いよ。あんなのデマに決まっているだろう? 今までだって、あの手のデマはしょっちゅう有ったじゃないか」

「今回のがデマかは分からないだろ!」

「いいや、デマだ」

「だったらデマだって証拠を……」

 相手の魔導師が食い下がろうとした時、

「面白そうな話してるな」

 ニクスが横やりを入れた。

「丁度いい、オマエはどう思う⁉」

 魔導師がニクスに聞く。

「角男はデマだって聞いたぜ?」

 ニクスがさらっと言うと、

「……そうなのか」

 その魔導師は一言呟いて立ち去った。

「で、実際は本当なんだろ? 俺も話聞いて良いか」

 ニクスがプロニに尋ねる。

「良いわよ」

 プロニはあっさり了承した。



 場所を移すことになり、4人は寮の喫茶店に行った。防音の個室を利用することにしたのだ。

「さっきは助かったよ、ニクス」

 レウリオがお茶を飲みながら言った。プロニも頷いて、

「びっくりしたわ。凄くしつこかったのに、あの一言だけで引き下がるんだもの。ニクスの知り合いなの?」

 と言った。

「前にちょっと、口論になったことがあってな。分が悪いと思ったんだろ」

 ニクスは答えてからコーヒーを口に含んだ。それに対し、プロニは不安そうな顔になる。

「じゃあ、納得したわけじゃないのね?」

「放っておいて大丈夫だ。そう思ってるだろ?」

 ニクスは鋭斗とレウリオに同意を求めた。2人は大きく頷く。

「ちょっと、レウリオまで? それなら最初に言ってよね」

「言った。言ったよ」

「聞いてないわ」

「心の中で」

「言ったことにならないわよ⁉ そんなの聞こえるわけないじゃない、ニクスじゃないんだから」

 言い合うプロニとレウリオ。鋭斗は「またか」と言うような表情でコーヒーを飲む。ニクスは

「俺だって心の声なんか聞こえねぇ。そろそろ本題に移ろうぜ」

 話をコントロールした。

「そうだね。えっと……魔力消失事件を起こしたのが角男なら、十中八九、その角男は異世界人だろう?」

 レウリオが話す。

「何で?」

 鋭斗は尋ねた。

「何でって……」

 レウリオが困惑する。プロニはお茶を飲みながら

「そう思うからよ」

 と答えた。

「角男が異世界人だと確定してしまうと、殺さなくてはいけなくなる。でも、B国は角男を生きたまま引き渡してほしいと言ってきている。C国としては、B国に恩を売っておきたい。だから、角男と魔力消失事件は切り離して考えたいのさ」

「何でB国が出て来るんだ?」

 再び鋭斗が尋ねる。

「B国は、角男が魔力消失事件を起こしたと予想しているんだ。魔力消失を研究したいのさ」

「ちょっと待て、さっきから色々詳しすぎだろ。何でレウリオがそんなこと知ってるんだ」

 鋭斗が言うと、

「あたしとパパとの会話を聞いてたからよ。パパはあたしに全部話すの」

 プロニが当然のように答えた。

「機密情報でもダダ漏れ……?」

「そうね」

「そんなので良いのかよ……」

 鋭斗は嘆息した。

「そうは言っても、角男の居場所なんて分からないのよね」

「こんな曖昧な情報では警察は動かないし」

「またいつものように、誰かが捕まえて連れて来てくれるのを期待しているのよ、きっと」

 プロニとレウリオが口々に言う。

「角男って、人間なのか? 人間じゃないなら異世界人確殺法の対象外だろ」

 鋭斗は、ふと思ったことを口にした。

「それは……ただの屁理屈じゃ……」

 レウリオが言うのを遮り、

「たしかに! 角の生えた人間なんているわけないもの。パパに言ってみるわ。これなら角男が異世界から来ていても問題無いわね」

 プロニが嬉しそうに言った。

「ついでに、身元調査やめるように言ってくれねぇか? 25歳以下でランク30万になったらされるやつ」

 ニクスが頼むと、

「分かったわ」

 プロニは快諾した。

「理由を聞いても良いかい?」

 レウリオが尋ねる。

「予算の無駄だと思ったからだ。労力の割に成果が無ぇだろ?」

 ニクスは一番の理由を伏せて答えた。異世界人だとバレかねない、という理由を。

「そういえば、何のための身元調査なんだ?」

 鋭斗は浮かんだ疑問を口にした。それに対しレウリオが話す。

「強くなるのが速い魔導師は、どんな人生を送って来たのか……政府はこれを調べることで、魔導師育成の効率を上げようとしたのさ。今までの身元調査はサンプルが少なすぎたり特殊すぎたりして参考にならなかったらしいから、ニクスの意見は的を射ているね」



 プロニとレウリオは塔に行くと言って喫茶店を出た。残った鋭斗とニクスは話を続ける。

「それにしても……新聞の信用無さ過ぎるだろ。週刊誌か何かかよ」

 鋭斗が呆れたように言った。それに対しニクスが話す。

「新聞全体じゃなくて、1面だな。何度もデマで釣って購読者増やしてたらしい。主に使ってたデマが、異世界人の目撃情報だったんだと。だから今回のは特に信用されないんだ」

「逆にB国は何で信じたんだ」

「独自調査だな。C国に魔道具を輸出してる以上、無関係ではいられなかったんだろ。引き渡し要請の早さからして、昨日のうちに裏付け取ってたんだろうな」

「なるほど。……で、角男は」

 鋭斗は確信をもって話を振る。

「もちろん、捕まえに行くぜ。とりあえず明日スパイルの家に行く。来るか?」

「行く。けど何で?」

 鋭斗は、スパイルの家に行く理由を尋ねた。

「場所が場所だ。スパイルなら、既に手を打ってるか有力な情報を得てる可能性が高い」

 そう言って、ニクスは一気に残りのコーヒーを飲んだ。そして、問いかける。

「そういや、フィノーラとのデートはどうだった?」

「デート⁉」

「あー、やっぱりか」

 鋭斗の反応を見たニクスは、苦笑して言う。

「フィノーラにも聞いたんだが、同僚と旅行に行っただけでデートではない、親睦は深まったと思う、って言ってたんだ」

「俺もそういう認識だった」

 鋭斗は当然のように言った。

「これはミエリも苦労するなぁ」

 ニクスは呟いた。

「何で美恵莉?」

 唐突に妹の名前を出されて、鋭斗は戸惑いの声を上げる。

「いや、何でも無ぇ」

 ニクスははぐらかした。言うのは野暮だと思ったのだ。

 鋭斗もそれ以上は聞かなかった。


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