2章(3) 魔道具ランド1
鋭斗は10分前に集合場所に着いた。既にフィノーラはそこにいて、鋭斗が来たのを見るなり手荷物検査を受けに行く。鋭斗は走ってフィノーラの後ろに並んだ。
「待たせた?」
鋭斗が聞くと、フィノーラは
「全然」
淡々と言った。
手荷物検査を終えた2人は、そのまま搭乗口へ向かう。お互い無言だったが、不思議と気まずさは感じなかった。
飛行機は時間通りに離陸した。
座席はほとんど空席である。鋭斗はメモの内容を思い返した。
この飛行機は、B国からC国へ魔道具の基盤を輸送したものだ。B国へ引き返す際に旅客機として使われる。だから乗客の少ない日時でも飛ばすのだ。――というようなことが書かれていた。
鋭斗の席は、今朝夢で見たのと同じ位置だった。フィノーラはその隣だ。
(大丈夫だよな? ただの夢だし)
緊張した面持ちで窓を見る。無駄に不安を感じながら、鋭斗は主翼を見続けていた。
やはり杞憂だった。
何事も無く、飛行機はB国に着いた。魔道具ランド直通の空港だ。
鋭斗とフィノーラはずっと無言だった。必要なことはアイコンタクトとジェスチャーで伝え合った。いつの間にか、どこまで無言を貫けるかというゲームになっていたのである。
無言のまま魔道具ランドに入場し、ガイドマップを見る。現在地から最も近いのは「魔銃の試し撃ち」だ。鋭斗はそこを指さして、首を傾げて見せる。フィノーラは頷いて歩き出した。
バシュッ
的から大きく外れた魔力弾が、壁に当たってかき消えた。フィノーラが不満げな顔で再び引き金を引く。繰り返すこと5発、的にかすりもしなかった。
この魔銃は威力が極限まで抑えられている。水鉄砲も同然、いやそれより弱いくらいだ。
続いて鋭斗が魔銃を受け取る。
安全装置をオフにして、銃口を的に向ける。引き金を引くと、銃口が大きくブレた。魔力弾が的よりはるか上に飛んで行く。
(もっと下に向けたら当たるか?)
試す。今度は的の下をかすめた。
位置を調整して3発目。的の上部に着弾した。
(ずるい)
フィノーラは思った。鋭斗が的の下に銃口を向けるのを見て。
的に当てるためのアプローチが違う。フィノーラは、撃った時に銃口がブレないようにしようとしたのだ。上手くいかずに当たらなかった。
(私だって、あの方法なら当てられる)
4発目を撃とうとする鋭斗から魔銃をひったくり、撃つ。魔力弾が的のど真ん中に吸い込まれた。
(俺だって!)
鋭斗はフィノーラから魔銃を取り返し、的の真ん中に当てるべく構えた。
そうしていると、若い男が
「あのー、さっきから見てたんですが、その方法はやめといた方が良いですよ」
と言ってきた。服装から、スタッフだと分かる。
「えっ、どうしてですか?」
鋭斗が尋ねると、
「いやー、的があの位置だからその方法で当たるだけなんですよねー。もっと下の方とか上の方だったり、動いてたりしたら当たりませんよ。的の位置を変えた方が良いって上司に言ったんですけど、取り合ってもらえなくって」
スタッフはへらへら笑いながら言った。
「じゃあ、どう撃てば良いんですか?」
「こう」
自前の魔銃を取り出しざまに、3連発。魔力弾の行き着く先は、全て的の真ん中だ。銃口が全くブレていない。
「こう、ですか?」
鋭斗はスタッフの構え方を真似てみた。1発撃ってみると、的の右下に当たった。
「フィノーラもやる?」
魔銃を差し出して尋ねると、フィノーラは頷きながら受け取った。そして
「エイトの負け」
と言った。先に喋ってしまったからだろう。
「しまった……」
鋭斗は渋面を浮かべて呟いた。
「っと、お邪魔でしたかね。ごゆっくりお楽しみくださーい」
そう言って、スタッフは後ろへ下がっていく。
それから交代で何発か試し撃ちをした。フィノーラが的を捉えられるようになる頃には、鋭斗はかなりの確率で真ん中に当てられるようになっていた。
「……次行く?」
鋭斗が聞くと、フィノーラは頷いた。
外を歩きながらガイドマップを見る。施設やアトラクションはどれも離れた位置にあり、移動に時間を取られそうだった。
(バスとかレンタサイクルとかあれば……)
そう思った鋭斗は、ガイドマップのページをめくってみるが、それらしき記述は見当たらない。
(無い、か)
鋭斗は溜息を吐いた。
「ここ」
フィノーラがガイドマップの一点を示して言った。「魔道具ミュージアム」と書かれている。
「近い」
「そんな選び方で良いのか?」
距離だけで選ぶのはいかがなものかと鋭斗は思った。
フィノーラが首を横に振る。
「行きたいのはここ。通り道だから寄りたい」
ガイドマップをなぞりながらフィノーラが言い募る。
「そういうことなら」
鋭斗は納得した。
魔道具ミュージアムには様々な魔道具が解説と共に展示されている。中には魔道具と関係の無い、しかし歴史的な価値のありそうな物も展示物になっている。
鋭斗とフィノーラは別行動で適当に見て回ることにした。展示を見るのに夢中になると、どのみちはぐれるだろうから、ということで。
展示されている魔道具は武器が圧倒的に多かった。現在使われているものではない。時代とともに変遷した武器を事細かに解説してあった。
鋭斗はそれを流し見しながら歩く。
(あ、これって)
武器ではない魔道具が展示されているスペースで、「測定器」と書かれた魔道具を見つけた。解説を読む。
測定器:魔物を構成している魔力の量を測定する。魔力量が多いほど、その魔物は「強い」ということになる。ただし、魔物の行動パターンや攻撃の威力は測定できない。B国だけでなくC国でもよく使われている。
(これがドローンに付いてる魔道具か……)
この測定器の数値から討伐ボーナスが決まる。
同じボーナスの魔物でも強さの感じ方に違いがあるのは、測定器では分からない部分があるからだ。
(攻撃の威力くらいは考慮されてるのかと思ってたけど……そういえば、全然違ってたな)
どのくらいの威力の魔法を何発当てれば倒せるか、という目安にするのが良いのだろう。
そんなことを考えながら、鋭斗は他の魔道具も見て回った。解説はあまり読まずに。
(……ん?)
指輪が目についた。2つ展示されており、「魔術の指輪」と書かれている。
魔術の指輪:C国から依頼を受け調査したもの。C国をおびやかした異世界人がつけていた。魔道具を用いた研究の結果、この指輪から放つことができるものは魔法と全く異なるものだと判明した。この2つ以外にも、国立研究機関で研究を続けている指輪が3つあり、魔道具技術の発展に寄与している。
(そういうことか……!)
教主はショボい魔術が登録された指輪しか回収できなかったと言っていた。それを聞いた時に、高い威力の魔術が登録された指輪もあったのだろうか、あったのならどこにいったのか、と疑問がよぎったのだ。その答えが、この解説だ。偶然か意図的かは分からないが、教主より先にC国が回収し、B国に預けたのだろう。思いもよらぬ形で新事実を知った。
(これ回収してくれた人ありがとう!)
思わずにはいられない。もしも、これらの指輪が教主に回収されていたなら。虐殺王との戦いは、もっと熾烈極まるものになっていただろう。
2時間ほどで魔道具ミュージアムを出て、鋭斗とフィノーラは次の目的地へ向かった。ジェットコースターだ。
平日のためか、ほとんど並ばず順番が来た。誘導に従い乗り場に行くと、レールの上に車両が浮いている。
「ん⁉」
ふわふわと、30センチメートル近く浮いている。6人が1列で座るタイプの車両が。
既に4人座っている。鋭斗とフィノーラが乗り込んでも、同じように浮き続けている。
出発を知らせる音がして、車両がゆっくり動き出した。
平面をまっすぐ20メートルくらい走り、上りに差し掛かかったところで、突如、加速した。急激に。とてつもないスピードを保ったまま上りきり、下りでさらに加速。そのまま垂直ループを通り、直線に来てスピードが弱まる。
(息できなかった……)
前方からはワーとかキャーとか聞こえてきたが、鋭斗には全く声を出す余裕が無かった。
レールはまだ続いている。車両が回転して、前後が逆になった。その状態で、また加速。先ほどと同じような動きをする。
(おおー)
今度は普通に息ができる。猛スピードを楽しみながら、声は出さなかった。
終点に着いて降りると、フィノーラも満足そうな顔で降りてきた。
出口に向かうと、そこにはおまけ程度の解説が書かれていた。
このジェットコースターは、魔力の反発力と吸引力を利用したものである。
それを読んだ鋭斗は、
(リニアモーターカーみたいな感じか?)
と思った。それにしては浮きすぎだったが。
「次は?」
フィノーラが鋭斗に尋ねた。
「この辺で昼にするか?」
ガイドマップの、レストランが集まっている場所を指して鋭斗は言った。現在地からは距離があるが、そろそろお腹が空いたのだ。時刻も12時を回っている。
「ここか、ここか、ここが良い」
フィノーラがレストラン名を指さして言った。
「じゃあ、ここで」
そのうちの1つを鋭斗が指して言った。




