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2章(4) 魔道具ランド2

 昼食後、鋭斗とフィノーラは席を立たずにガイドマップを広げた。この後どこに行くかを決めるためだ。

 全てを回ることは不可能だし、そのつもりも無い。行きたいところをピックアップしておいた方が効率良く移動できるだろう、という話になった。

「これ、見たいかも」

 フィノーラが言いながら、ガイドマップの隅を指した。どうやら、魔道具を用いたショーがあるらしい。

「じゃあ、今日はそれ見てホテルにチェックインして解散?」

 鋭斗は、そのショーが行われる場所と時刻を見て言った。

「そうなる。明日の予定も決めよう」

 フィノーラがまた別の場所を指しながら言った。それを見て、鋭斗は

「何それ面白そう」

 身を乗り出して言った。

「他は……別にどっちでもいいのばかりだな」

「私も。近くを適当に回るってことで」

「賛成」

 翌日の予定までさくっと決めた2人は、レストランから出てショーが行われる場所へ向かった。



 小ホールのような場所に人が集まっている。

 鋭斗とフィノーラがそこに着いたのは、開演時間ギリギリだった。途中で少し道に迷ったのだ。急いで中に入る。

 座席には余裕があったが、ガラガラというほどでもない。2人は前の方の席に座った。

 ホール全体を明るく照らしていた光がすぅっと消え、開演のブザーが鳴る。

 ドドドドドッと音がして、ステージ上が煌めいた。鮮やかな色が爆発的に広がり、ステージを埋め尽くす。金、緑、赤、青、紫、……。

 花火みたいだ、と鋭斗は思った。

 光が散っていき、再びホールを闇が包む。

「御覧いただきましたのは、改造魔銃による……」

 解説がアナウンスされる。

 その後も、ステージで何かが行われては解説のアナウンス、を繰り返し、

「それでは、次で最後となります」

 アナウンスとともに、ステージ上のライトが灯った。3人のスタッフが立っている。

「ステージに上がって協力してくださるお客様はいらっしゃいますか」

 何をするかも全く言わないアナウンスに、多くの者が困惑の表情を浮かべる。その中で1人、すっと立ち上がった者がいた。フィノーラである。

「ありがとうございます。どうぞ、ステージにお上がりください」

 アナウンスに従い、フィノーラはステージに上がった。その美しさに客席がざわめく。

 スタッフが模造剣を取り出して言う。

「これを持って立っていてください」

 フィノーラは頷き、言われた通りにした。客席から歓声が上がる。

 本人は普通に持っているつもりだったが、構えが様になっていた。

 スタッフは苦笑しつつ進行する。3人のスタッフもそれぞれ同じ剣を持ち、

「真似してください」

 言いながら、切っ先を上に向けて高く掲げる。ステージライトが消えた。

 横並びに立った4人の持つ剣から、光がほとばしる。剣と剣をつなぐように。その直線的な輝きは、だんだんと歪み綻び複雑な紋様を描き出す。

 現れた3つの図柄は、B国の伝統的な紋様だ。

「光を出す魔道具を剣の形にすることで動きを……」

 解説アナウンスが始まる。

 途中で光が揺らぎ、図柄が反転した。

「こういうことも可能です」

 アナウンスがそう締めくくると、ステージライトが灯る。客席からはアンコールを求める手拍子が響いた。

「どなたかもう一人、ステージに上がってください」

 スタッフが言った。その隣でフィノーラが、じっと一点を見つめる。鋭斗のいる場所を。上がってこいと言うように。

 視線に促されるままに、鋭斗はステージに上がった。スタッフに同じ剣を渡されて、フィノーラの隣に立つ。

 先ほどと同様に、掲げられた5本の剣を光がつないだ。現れたのは、文字だ。「来」「場」「感」「謝」。

 割れんばかりの拍手の中、ショーは幕を閉じた。



「えっと、ホテルは……」

 ガイドマップを見ながら鋭斗が呟く。小ホールから出てすぐの所で立ち止まって、確認することにしたのだ。

「分かりにくい」

 フィノーラが顔をしかめて言った。チケットとガイドマップを見比べながら。

 魔道具ランド内にはホテルが複数あり、チケットにはホテルの番号が記載されている。ガイドマップでホテルを見つけるだけでも一苦労なのに、そのホテルの名前から対応番号を確認しなければならない。

「あった、これだ」

 鋭斗がフィノーラにガイドマップを見せて言った。現在地と入場口の間にあるホテルを指して。

「……どっちの道?」

 フィノーラが聞いた。目の前には2本の道が伸びている。どちらも入場口のある方角へ向かう道だが、ホテルへたどり着くとは限らない。

 鋭斗はガイドマップを食い入るように見た。小ホールに行くときは深く考えずに間違った道を進んでしまい、随分遠回りするはめになったのだ。ガイドマップに書かれている道と実際の道の本数が違うため、ややこしい。

「こっちだと思う」

 鋭斗は自信無さげに右の道を指し示した。

「ホテルは左なのに?」

 フィノーラが確認する。鋭斗は左右の道とガイドマップを見比べて、

「途中で交差してるっぽい」

 頷きながら言った。



 鋭斗の言った通り、右の道で正解だった。道は途中で立体的に交差していたのだ。左の道は地上を通って入場口へ、右の道は空中を通ってホテルのフロントへ。そういうルートだった。

「……もっと分かりやすい道にするべき」

 フィノーラが呟き、

「それか、もっと案内表示を増やすとか」

 鋭斗は頷きながら言った。

 何はともあれ、ホテルのフロントに着いた2人は、チェックインをしようとチケットを出した。

「ツインルーム2泊ですね」

「え?」

 鋭斗は声を漏らした。フィノーラも戸惑った表情を浮かべている。

「別の部屋じゃないんですか?」

 鋭斗が確認を求めるが、

「間違いなくツインルームです。このチケット番号は同じ部屋で、6階4号室となっております」

 2枚のチケットを返してカードキーを渡しながら、フロントスタッフは言った。

「……どうしよう」

 エレベーターに向かいながら、鋭斗がフィノーラに尋ねる。

「別に気にしない」

 フィノーラは淡々と言った。

「気にした方が良いと思う……」

 鋭斗が呟くと、フィノーラは目を瞬かせて、

「どうして?」

 不思議そうに言った。

「私はエイトと一緒に居ても不快じゃない。だから何の問題も無い。……エイトは嫌?」

「滅相も御座いません」

 慌ててしまい、言葉遣いが変になった。

 そんな話をしているうちに、6階に着いた。エレベーターホールを出て「→601~610」の表示に従い右に曲がる。

 4号室に入ると、良い感じの部屋だった。2つのベッドの間には大きなナイトテーブルが置かれており、しっかりと距離がある。窓際には小さな丸テーブルと椅子が1つ。逆側――ドア側のベッドの近くには細長いテーブルがあり、その上に施設案内が置かれている。そして、ベッドの正面の壁にはテレビが取り付けられていた。

「テレビ!」

 鋭斗は思わず大声を出した。フィノーラが驚いて振り向く。

「テレビって……教科書に載っていた? これがそうなの?」

「教科書に?」

 鋭斗が聞き返すと、フィノーラは頷いて、

「現代社会の。外国の暮らしの章」

 と言った。

 施設案内の隣には番組表が置かれている。

「リモコンは……?」

 鋭斗は呟きながら辺りを見回した。無い。

 改めてテレビを見ると、下部にボタンが並んでいる。電源ボタンとチャンネルボタンと音量調節ボタンだ。

(リモコン無しかー)

 そう思いながら電源を入れる。画面に鮮明な映像が映し出された。

「お、綺麗。4Kか?」

 鋭斗が嬉し気な声を上げる。するとフィノーラが

「たしか、島国の4Kテレビ以上の画質のテレビを魔道具として開発した、と書いてあった」

 教科書を思い出しながら言った。

「魔道具なのか……島国のテレビはどんな感じなんだ? 解像度」

「主流は8K。大画面なら16Kもある」

「進んでるなぁ……って、そんなことも教科書に書かれてるのか?」

 鋭斗が聞くと、フィノーラは頷いた。

「テレビに関するコラムがあった」

 覚えなくて良い部分だろう。

「よくそんな所まで覚えてるな」

 鋭斗は感心して言った。

「因みに、B国の技術者のモットーは、科学技術で出来ることは魔道具技術でも出来る、らしい。そのコラムに書いてあった」

「へえぇ……」

 そこで会話が途切れた。テレビに意識を向けると、噴火のニュースをやっている。映像が切り替わり、次のニュースに移った。街中で魔銃による銃撃戦が起き、死者10名以上らしい。

「治安悪いなー」

 鋭斗は呟きながら、施設案内を手に取った。1階はレストランと大浴場があり、2階がフロントだ。2階には他に売店とパン屋があるらしい。

「大浴場は温泉だって」

 鋭斗が言うと、

「行く」

 フィノーラは嬉しそうに言った。

「晩ご飯は?」

 鋭斗が尋ねる。

「パンで良い」

「同感だ」

 というわけで、2人は部屋に荷物を置いてパン屋に向かった。






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