2章(1) 給料日
給料日は毎月9日だ。
今日は鋭斗にとって初めての給料日である。バイトすらしたことが無いため、正真正銘、人生において初めて得る給料なのだ。
朝一で口座に振り込まれ、受付で「給与賞与明細書」を受け取ることができる。
鋭斗は宮殿に来るなり給与明細を受け取った。
基本給 150000 討伐ボーナス 23700
所得税 31185
支給額 142515
(保険とかは無いんだな)
給与明細を見た鋭斗は、項目の少なさと所得税の多さに驚いた。
(何パーセント引かれてるんだ?)
考えながら図書館へ向かう。20パーセントくらいかと思ったが計算が合わない。
(基本給と討伐ボーナスで税率が違う……?)
そこまで考えて、計算するのが面倒くさくなった。機会があれば誰かに聞こうと思いつつ、図書館に入る。そのまま真っ直ぐ中級回復魔法の棚に向かった。
鋭斗は今週中に中級魔法を4つ覚えるつもりだった。内訳は回復1、防御1、攻撃2である。回復から覚えようとしたのは気まぐれだ。
(中級回復魔法って便利そうなんだよな)
数種類の中から1つの魔法書を手に取り読み始めた。
1時間ほど経って、鋭斗は確信した。回復魔法は苦手だ、と。
大学で得た知識が邪魔をして、うまくイメージできないのだ。
(この辺とか無駄に薬理学っぽいんだよな……)
理論を読みながら思う。全体のほんの一部分なのだが、最も引っかかる文だ。
(中枢神経系に魔力が受容体を作り、そこに魔力が作用する……って、どういうことだよ)
魔力が受容体を作るというのも意味不明だが、もっと分からないのは「中枢神経系に」というところだ。一瞬にして傷が癒える効果なのに中枢神経系に作用するとは理解不能である。
(無理)
他の魔法ならファンタジー的思考で容易に納得できるのに、回復魔法は駄目だ。考えれば考えるほど意味が分からなくなっていく。
断念した。魔法書を棚に戻し、中級防御魔法の棚に行く。
それから鋭斗は中級の防御障壁を覚え、昼食を摂り、中級攻撃魔法の棚に来た。
時刻は15時である。今から読んでも17時に間に合わない。
(明日何を覚えるか考えとこう)
そう思い、棚を眺める。
相乗効果で代用しにくいものが良い。となると、「木」だろうか。15000の魔物に氷塊が砕かれたことから、そう考えた。
(風刃か旋風と、雷の何かにしよう)
おおまかに決め、練習場へ足を運ぶ。余った時間で連発の練習をしようと思ったのだ。
相乗効果は考慮せず、とにかく撃ってみる。火弾、水弾、雷弾。火柱、氷槍、ラトゥール杭。なるべく速く。
仮想魔物に次々と攻撃魔法が浴びせられていく。
(遅い)
旋風、ラトゥール鎖。風刃、氷塊。
ちょっと練習したくらいでは縮まらない。
(でも、魔力制御の練習にもなるし)
無駄にはならないという確信が、練習を続ける糧になっていた。
鐘が鳴った。練習場から出て、そのまま寮へ向かう。
寮の前で、美恵莉が待ち構えていた。
「兄さん、短剣要る?」
「短剣って……あれか? 何でいきなり」
「ニクスさんが返してくれたんだけど、私が持ってても意味無いし、兄さんなら使えるかなって」
「使えると思うか?」
使えるわけ無いだろう、という思いをこめて言ったのだが、
「うん」
即答されてしまった。
「嘘だろ……」
呆れたような声を出すが、短剣を押し付けられた。中身が見えないようにするためか、二重にしたレジ袋に入っている。
「それと、はいこれ!」
そう言って、封筒を渡してくる。受け取って中を覗くと、3枚の紙が入っているのが見えた。封筒より小さな紙が2枚と、大きな紙が折りたたまれたものが1枚。
封筒を裏返すと、「魔道具ランド」と書かれている。その下には住所と電話番号が書いてあった。
「フィノーラさんにも渡したから、2人で行ってきてね! 空港に集合ってことになってるから!」
「は⁉」
全く経緯が分からない。
「ちゃんと説明しろ」
「早朝に公園行けば会えるでしょ? その時に渡したんだ」
「どう言って?」
「兄さんと一緒に行ってきてって」
「それで?」
「分かったって言ってた」
「そんなあっさり⁉」
「途中の会話は端折ったよ。けど、兄さんとって部分はあっさりOKだった」
美恵莉はしれっと言った。実のところ、フィノーラにチケット入手の経緯を尋ねられたのだ。正直に答えると、フィノーラは迷った様子でニクスに助言を求めた。その場で話を聞いていたニクスは、「良いと思うぜ。あそこなら、何かあっても大丈夫だ」と言った。それでフィノーラは行くと決めたのである。
「で、何で?」
鋭斗は困惑した表情のまま尋ねた。
「なんやかんやで手に入れたの」
「だからその、なんやかんやって何」
「どうだっていいじゃん、フィノーラさんは行くんだから。兄さんが行くのは、もはや義務だよ」
「義務なのか……」
「詳しいことはメルシャにメモしてもらって入れてるから、それ読んで。じゃあね!」
言うや否や、美恵莉は東の寮に帰っていった。
(メモってこれか)
折りたたまれた紙を取り出して広げる。
魔道具ランドはB国にあるテーマパーク。国内外に魔道具技術をアピールするために作られた。
(なるほど)
メモには色々なことがびっしりと書かれている。部屋でゆっくり読むことにした。
昼食が遅かったので、夕食はカップ麺で済ませた。
鋭斗はB国への行き方が気になっていた。メモを見ると書かれている。飛行機で行けるらしい。
(パスポートとかは?)
読み進めると、書いてあった。C国から行く分には、魔道具ランド内だけなら不要だ、と。国内旅行と同じ感覚で大丈夫だそうだ。
航空券は「10月11日 午前7時離陸」と書かれている。
(早いな)
前日、つまり明日から空港に行った方が良いだろう。
(……帰りは?)
帰りの航空券が見当たらない。メモを読み進めると、書かれていた。B国からC国への輸送船に無料で乗せてもらえるらしい。前日に魔道具ランドのインフォメーションで手続きすれば良いそうだ。
封筒に入っているチケットは、宿泊券とフリーパスを兼ね備えたものらしい。
(ホテルはアメニティグッズが充実しているから何も持って行かなくて良い、か)
チケットの日付は「10月11日~10月13日」となっている。
(2泊……いや、空港のホテルで泊まるから3泊か。着替えは要るな)
旅行鞄が必要だ。買いに行かなければいけない。
(それにしても、このメモ凄いな)
抱いた疑問を全て解消してくれる。感心しながら、一旦メモを封筒にしまい、部屋を出た。ショッピングモールに行くためだ。
(服も新しいの買おう……)
ショッピングモールに着いた鋭斗は、思った。外が予想以上に寒かったのだ。服が薄すぎる。前に美恵莉が池で泳いでいたのを思い出し、
(水温は低くても平気なのに気温が低いのは寒く感じるのか……よく分からないな)
考えながら専門店街を歩く。
季節感の無い店内を見て、少し寂しさを感じた。10月といえば祭りやハロウィンで盛り上がるものだったが、この国には何も無いのだろうか。
(きっと他の月に何かあるんだ、そうに違いない。何の行事も無いのは嫌だ)
そんなことを思いながら、適当に服を買って、鞄売り場へ行った。
(これで良いか)
大きめのリュックを手に取る。着替え以外に必要な物といえば、飲み物くらいだろう。充分入りそうだ。そのままレジに持って行く。
そして、購入した物をロッカーに預けに行った。閉店まで2時間ほどある。メダルゲームでもしようと思ったのだ。
ロッカーには回す鍵が無かった。ニールカードで鍵の開け閉めをするらしい。鍵を閉めるために200ニール要るが、開けると返却される。
荷物をロッカーに入れて、ゲーセンに直行した。
メダル預かり機に登録番号とパスワードを入力し、メダルを引き出す。500枚。カップ1杯弱だ。
日曜日や平日の夜に、気の向くままに来ては遊んでおり、それなりにメダルが貯まっていた。特に閉店前の時間は当たりやすくて狙い目なのである。
どの台に座るかを、歩き回って吟味する。
(お、ここ良さそう)
もう少しでジャックポットチャレンジに入れそうな台を見つけ、それに決める。カップのメダルを全てメダル排出口にぶちまけて、開始した。
「お客様、そろそろ閉店準備に入りますので……」
店員に声をかけられた。
「すみません、これだけ出たら終わります!」
鋭斗は答え、メダルをカップに入れていく。なかなかジャックポットチャレンジに入れず、時間ギリギリになってしまった。しかし、粘った甲斐あって、ジャックポットを引き当てた。そのメダルが出てきている真っ最中なのだ。
カップ1杯を満タンにしたところで、メダルの排出が止まった。排出口にはまだまだメダルが残っている。もう1つカップを取って来て、入れていく。
結局、獲得したメダルは1000枚を超えた。急いで預け、エスカレーターで下りる。
ショッピングモールから出た所で、
「荷物!」
思い出した。慌てて引き返し、ロッカーから荷物を出して帰った。




