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5章(1) 藻

 10月2日の朝、中央広場に来た鋭斗は、メルシャが図書館の前でうろうろしているのを見た。怪訝に思い、近付いていく。

「メルシャ、どうしたんだ?」

「あ、エイトさん。ミエリを捜しているの。いつもは一緒に来るんだけれど、今日はチャイムを鳴らしても返事が無くて……だから、先に来ているのかと思ったの。でも、見つからないんだ」

「そっか……妙だな」

 鋭斗は眉根を寄せた。メルシャは小首を傾げる。

「まだ寝ているのかな?」

「いや、そんなことないと思うけど……」

 美恵莉は朝に強く、寝坊したことなど一度も無い。だからこそ、妙なのだ。早起きしてどこかに遊びに行っているのだろうか。

 黙り込む鋭斗に、メルシャは微笑む。

「一旦、寮に戻るね。もしミエリを見つけたら、伝えておいてほしいな」

「分かった」

 そうしてメルシャと別れた後、鋭斗は討伐依頼を眺めた。



 魔導師協会本部から北にまっすぐ1時間40分歩いたところにある池が、今日の鋭斗の討伐場所だ。

 池の周りを歩き、魔物を捜す。

 討伐依頼の写真では、魔物は藻にしか見えなかった。だから、藻を捜すつもりで歩くこと5分。池のへりに並ぶ石を覆う藻を見つけた。

 その藻は、水中から地表に這い出るようにうごめいている。写真で見たよりも大量の藻が、気持ち悪い動きをしている。

 鋭斗は顔をしかめた。

(7000だったから選んだけど……失敗だったかもなぁ)

 恐る恐る近付く鋭斗に、藻がびゅるびゅる伸び迫る。防御障壁など何のその、しゅるりしゅるりと回り込む。

(うっわ……)

 鋭斗は、足に届こうとする藻を避けようとした。だが、不規則な動きに翻弄され、絡みつかれてしまう。

「うぇっ」

 感触があまりに気持ち悪い。早く焼き消してしまおうと、火の玉を放つ。

 しかし、魔物は燃えなかった。火弾は魔物に当たった瞬間、消えてしまったのだ。

(初級じゃ効かないパターンか!)

 まさか1万未満でも単発の初級攻撃魔法が効かない手合いが存在するとは思わなかったが、相乗効果で何とかなるはずだ。そう思った時、魔物が動いた。池の中へと勢いよく。

「痛っ」

 引き倒された鋭斗は、そのまま池へ引きずり込まれていく。慌てて魔物に減速をかけ、地面にラトゥール杭を刺して掴んだ。これで引きずり込まれることはないだろう、と鋭斗は息を吐く。

(……本体は水中か?)

 池の中を覗き込むと、藻の塊が見えた。その塊から、触手のように藻が伸びている。

 鋭斗は藻の塊に向かって氷の槍を落とした。そこに小さなつむじ風——小規模風刃の集合体を発生させる。

 つむじ風は氷槍の魔力を吸収して吹き荒れ、魔物をみじん切りにしていった。

 魔物は消滅し、足に纏わりついていた藻もきれいさっぱり無くなっている。うまくいった、と鋭斗は笑みをこぼした。



 宮殿に戻って討伐完了の報告をすると、受付の人が「少々お待ちください」と言って奥に入っていった。

 鋭斗は不思議に思った。いつもはこんな風に待たされない。

 5分後、受付の人が出てきて、苦笑しながら口を開いた。

「確認したところ、この7000の魔物は新たに発生した魔物と合体してしまっていたようです。1万相当になっておりましたので、1万の討伐依頼を達成したとして手続きさせていただきます」

「……そうですか」

 図らずも1万の魔物に挑み、勝った——その事実に、鋭斗は驚いた。そして、それなら次からは1万くらいの討伐依頼を受けてみようと思いながら宮殿を出た。



 鋭斗は商店街で昼食を済ませ、図書館へ行くべく駅を通り抜けた。そこでばったりニクスと会った。

「あ」

「お、エイト。丁度これから捜そうとしてたんだ」ニクスはニヤリと笑う。「一昨日、魔物爆弾のせいで骨折したんだってな?」

「何でそれを」

「昨日の朝、フィノーラに聞いた」

「あー……」

「その魔物爆弾作ってた犯人と、昨日会ったんだが」

「えっ」

 目を丸くする鋭斗に、ニクスは声を落として告げる。

「別の世界から来た異世界人だったぜ。それで、教団がどうとか——」

 話の途中で。

 ニクスは、目を見開いて息を呑んだ。視線が、駅から魔導師協会本部へと流れていく。

 彼の目は、美恵莉を捉えていた。駅から出て走って行く、手に短剣を持った美恵莉を。

 しかし、鋭斗がニクスの視線を追った時には、美恵莉は既に東の寮に消えていた。

「……何見てるんだ?」

 鋭斗が怪訝そうに尋ねると、ニクスは「一緒に来い!」とだけ告げ駆け出した。

「えっ?」

「早く!」

「……」

 訳が分からないまま、仕方なく鋭斗はニクスを追った。そして、ニクスに遅れて東の寮に駆け込む。

 ニクスはエレベーターの上を睨んでいた。その表示は、5階で止まったことを示していた。

「ちっ、よりによって5階か」

「はぁ、はぁ、何なんだ、何があったんだ?」

「話してる暇は無ぇ。俺は階段で行く」

 それだけ言って、ニクスは全速力で階段を駆け上がっていった。

 残された鋭斗は、静かにエレベーターのボタンを押した。

(俺の場合は、エレベーターの方が早い)

 きっとそれをニクスも分かっていたから、ああ言ったのだ。

 息を整えながら、エレベーターが下りてくるのを待つ。

(5階……美恵莉の部屋って確か……)

 今朝から姿の無い妹のことを思い、鋭斗は拳を握りしめた。

 何かとてつもなく悪いことが起きているような気がして、息が整わなかった。





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