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3章(1) 相乗効果

 鋭斗は図書館で初級攻撃魔法の棚を眺めていた。

 9月14日の昼過ぎである。討伐が午前中で終わり、時間に余裕があるので、相乗効果について考えることにしたのだ。

(火属性はありそうだよな……木で拘束する魔法は木属性で良いのか?)

 属性が分からないことには始まらない。水、氷、風、雷、岩、……魔法書のタイトルだけ見て、思考を巡らせる。

(ラトゥールは金属だから……金属って何属性だ? 無属性? ……待てよ。()?)

 ふと、言葉が頭に浮かんだ。

 五行。木火土金水。

(属性の相乗効果は、五行相生に則ってる……?)

 有り得なくはない。ニクスが使ってみせた魔法——木の拘束に炎の矢を当てた相乗効果は、〝木生火〟と解釈できる。

(よし、試そう)

 足早に練習場へ向かう。

 練習場はいつも閑散としており、今は鋭斗が入るまで誰もいなかった。

 鋭斗は手近な仮想魔物に呪文を唱えて土煙を撒き、緊張の面持ちでもう一つ呪文を唱えた。

「遥けき銀の円環よ、縛りて捕らえよ蹉跌なく」

 ラトゥール鎖で拘束する魔法が発動。土煙に覆われた仮想魔物を銀色の鎖が雁字搦めにする。

 狙ったのは〝土生金〟だ。しかし、ラトゥール鎖で拘束する魔法の威力が上がった様子は無い。

 違ったか、とがっかりした時。


「魔力制御の問題だな。呪文唱えるよりも多くの魔力をぶっこまねぇと」


 声が飛んでくると共に、隣の仮想魔物が土煙に覆われた。そこにラトゥール鎖が絡みつく。土煙の魔力を吸って、太く、強く。

 威力が上がったのは明らかだ。

 鋭斗が練習場の入り口へ顔を向けると、ニクスがニヤリとして立っていた。彼はすたすたと中に入り、

「他に試したい組み合わせがあれば言えよ、撃ってやるぜ」

 と楽しそうに言う。

「……じゃあ、ラトゥール鎖で拘束する魔法の後に水の玉を撃つ魔法、頼む」

「よし」

 別の仮想魔物をラトゥール鎖が縛る。そこに飛んで行った水弾が、鎖に近付くと急激に加速し、仮想魔物を打ち抜く。水の量も増したようだった。

 鋭斗はその後も色々な攻撃魔法をニクスに使ってもらった。思い通りに威力が上がる組み合わせが多かったが、変わらないものもあった。

(やっぱり五行相生だな。氷は〝水〟扱い、岩は〝土〟扱い、雷と風は〝木〟扱い……これだけ分かれば充分)

 鋭斗は満足そうに息を吐き、ニクスを見た。

「助かった、ありがとう」

「良いって。代わりと言っちゃなんだが、早く強くなってくれよ?」

「……何で?」

 思わず怪訝そうな顔をする鋭斗に、ニクスはニヤリと笑う。

「ライバルになってほしいからだ」

「…………?」

 鋭斗が反応に困っていると、ニクスは面白そうに語り出した。

「俺には超えたい人がいる。強くなって勝ちたいんだが、伸び悩んでてな。で、多分、ライバルが必要なんじゃねぇかと思ったんだ。同年代で競い合える……張り合って高め合える、そんな存在が」

「フィノーラがいるだろ?」

「あいつは確かに強ぇし、一時的にはライバルだったが……。そういや、お前はどのくらい魔法を使ったら頭痛くなる?」

 唐突な問いに、鋭斗は目を瞬かせる。

「……えっと……まだ、そこまで魔法使ったことないんだけど……」

「じゃあ最高でどのくらい使った?」

「えーっと……魔力制御の練習で、初級攻撃魔法を……呪文唱えながらだから、頭より先に喉が疲れて、50発くらいかな……」

「なら充分だ」ニクスは嬉しそうに頷いた。「フィノーラなんて、魔導師なったばかりの頃は初級魔法10発も使えば頭痛くなってたくらいだからな」

「それって……魔法に使える脳領域が、めちゃくちゃ小さいってことか」

「ああ。あいつはそれを努力で補ってるが……〝資質の差〟みてぇなのは、どうしてもな……」

 魔法を使えば使うほど、魔法を使う際の脳への負荷が減っていく。魔法に使える脳領域の大きさは変わらないが、少しずつ少しずつ、一度に使える魔法の量が増えていく。だが、負荷がゼロになる訳ではない。

「その点、お前は間違いなく逸材だ」

「買いかぶりだ」

「そんなことねぇ。頼むぜ。お前が良いんだ」

「何で? ってか、何か〝もうとっくにフィノーラを超えてしまった〟みたいな言い方してたけど、フィノーラはニクスよりランク高いだろ?」

 混乱する鋭斗に、ニクスは顔を近付け、耳元で囁く。

「だってお前、()()()——」


「おーい、ニクス! ちょっと練習付き合え!」


 間が良いのか悪いのか、同年代の男が練習場に入ってきた。

 ニクスはぱっと後ろへ下がって入り口の方を見る。

「良いぜ。丁度手ぇ空いたところだ」

「じゃあ上行こ、上」

「おう」快諾したニクスは、鋭斗に視線を向けて「また後でな」と小声で告げてから練習場を出て行った。

 上——宮殿の3階には、何も無い広大な部屋があり、魔法の練習に使われている。練習場と違い、対人戦の練習に使われることが多い。そのようなことがフロアガイドに書かれていたことを鋭斗は思い出し、頭を振った。

(違う。気にするところはそこじゃない!)

 さっき、ニクスは「異世界」と言っていたように聞こえた。

(まさか、俺、異世界人ってバレた……?)

 ヤバいどころの話ではない。早く真意を問いただし、何とか「俺は異世界人じゃない」と誤魔化さなければ。そうしなければ、異世界人確殺法の餌食になる。

(……いや、勘違いか? 何か聞き間違えた?)

 冷静に考えれば、あの話の流れで「お前は異世界人だから殺す」などとは言われないはずだ。そもそも、異世界人だとバレるような言動をした心当たりが無い。もし気付かぬうちにそういう言動をしていて、それを忠告してくれようとしていたのなら、早い段階でその話をしているだろう。聞き間違いだと思うのが一番しっくりくる。

(後でちゃんと、本当は何て言ってたのか聞こう)

 そう決めて、鋭斗は仮想魔物へ魔法を撃ち始めた。詠唱しては撃ち、詠唱しては撃ち。繰り返し、魔力制御を練習した。

 17時の鐘が鳴るまで、ずっとそうしていた。




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