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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 八.蒼き眠りの女王 ―
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8-6

 咄嗟の事ゆえか、最強呪文ではなくライジングファイアで迎え撃ってきた炎霊に、だが殆ど勢いは失わずにラピッドスティングを放つ。熱さを感じはしたが、火炎の威力の大半はアスティがかけてくれた特殊魔法・ブレッシングのお陰で防がれている。動きが鈍らず済んでいるのはこの為だ。治癒魔法の力を編み上げ全身を膜の様に包み込むこの術はマジックバリアの如き反射性はないが、相手の呪文を軽減するだけでなく、かけられる回復魔法の効果を一定時間高めてもくれる。つまりヒーリングでさえハイヒーリングに近い効果が得られるのだ。この状態でアスティの高レベル治癒呪文がもらえるなら、例え重度の火傷を負おうが瞬時に回復できるだろう。


 後はとにかく連攻でマルンを追いつめ、仕上げにあの技を ―― デザートレイドとラピッドスティングの連発で狙い通りに事が進みかけた時、炎霊周辺の空気が激しく揺らめくのを感じた。


 防御にと風刃魔法を放ちはしたが、溜めの時間がなさすぎて威力が到底足らない。慌てて飛び退ったが胸元の激痛から着地に失敗し、体勢が崩れてしまう。メルトクリーパーの超高熱は肌のみならず、その熱気で気道をも焼いてしまうのだ。体表はブレッシングで守られるのだから息さえ止めておけば良かったのだが、連打攻撃の最中でそこまで気が回らなかった。


 ともあれ迎撃態勢を、と立ち上がりかけたところに再び火炎の波が襲いかかるが、今度は背後からの魔法がそれを食い止めてくれた。体内を焦がす苦痛には治癒の力が働きかけ、即刻息苦しさから解放される。これなら、と槍を構え直すがマルンも更に追撃の魔法を放つ気配だ。だがその腹部に凄まじい勢いで飛来した銀光が突き刺さり、集中が乱れたか手元の炎が散り消えた。


《て、お前っ。他の攻撃手段もないくせに、唯一の武器投げるか普通? やり口が阿呆すぎるぞっ》


 半実体だからか特殊スキルでも使ったか、剣はそのまま炎霊のやや後ろにまで飛んで落ちたが、ダメージはそれなりにあったらしい。それまでの余裕げな表情が一転、苦悶を堪えるかの顔色で訴えるマルンへすかさず迫る。気づいた彼が炎を操る、その前に ―― ほんの僅かな間さえ与えず渾身の力で奥義のエントラップメントを叩き込んだ。


 手応えはあったが、念には念をと即座に飛び離れ皆の下へと駆け戻る。目をやったその場所にマルンの姿はない。まさかやり過ぎて消滅させてしまったか、と数瞬焦ったが、ややあって衝突地点から結構離れた所に小さな炎の渦が起こり、忽ち彼の姿を形取った。


《やれやれ……確かに流れを見ての的確な動き、あと技の切れは結構いいか。ま、お前個人ってより仲間がいてこその、連携力の強さって感じだが。今のは久しぶりでかなり疲れたからな、まぁ総体として中々やるなって所か》


「ふん、やーっと認めやがったか。大体お前じゃ俺たちの相手には役不足なんだよボケっ」

「いや待て……それを言うなら力不足、だろ。と言うか、少なくともお前が言うなお前が」

「なんでだよっ? さっきのだって俺の一撃が決め手だったろーが!」

「ただ闇雲に剣を投げつけるだけじゃ、外れる可能性だって高いだろうっ。その場合次の援護はどうする気だったんだ」

「外れる訳あるか! ただ投げてんじゃねぇ、あれだって立派なスキルの1つだっ。闘気で操るから命中率は100%だし、回収だってちゃーんとこうして」


 胸を張りつつ語るスバノンの手には、いつの間にか先程の剣が戻ってきている。さしものブルーさんでも、これには驚いたらしく日常茶飯事な掛け合いが突如止まってしまった。

 他の2人にしても、おそらくは知らないだろう。私やスバノンの師だった人が得意とし、シューティングスターと名付けていたあの技は、パラレルやサザンクロスなどの有名な奥義と違い、ほぼ先生のオリジナルと言って良いものなのだから。


 ただ日頃のスバノンの言動上、あれを「立派なスキル」と認めてもらうのは少々、いや相当難しいと思えてしまうが。


《何にせよ、約束は約束だ。あいつの氷、融かしてやるよ》


 一連の会話を聞いていたマルンがどこか微妙な表情を浮かべながらも、一言そう告げるや指先からごく小さな火の球を私達の後方へ放つ。あんな小さな炎で良いのか、との疑問はしかし、すぐさま払拭される。件の群晶へそれが触れたかどうかのところで、火球は猛烈な勢いで拡散炎上したのだ。と言っても範囲はあくまで六角柱を覆い隠す程度。その様子は発炎石の発動時に良く似ていた。流石は炎の精霊、火炎の制御はお手の物と言う事か。


《さて、じゃ俺は帰るが……油断するなよ》


「え? それって一体」


 レディアさんが聞き返しかけたが既に遅く、マルンは以前と同じくあっという間に姿を消してしまっていた。彼らの転移は文字通り瞬間移動だ、予め何らかの手段で動きを封じてでもおかないと場に留めさせるのは無理ではなかろうか。


「ったく。最後まで何だってんだアイツはよ」

「て言うか、いちお強さは認めたっぽいけど結局エルフィンに謝っていかなかった~。なんか感じ悪いっ」

「だから、それは最初に言ったじゃねーか。アイツら性格わりぃんだぞって」


《―― 久々の客人ですね。わざわざ此処まで足を運んでくるとは、私に何の用ですか? 私を、このトワイライトを見守りし者と知っての訪問ですか》


 手厳しい試験の割に、あまりにあっけない退場だったせいかアスティ達が愚痴る中、ふいに背後から涼やかにして透明な声が訊ねてきた。


 視線を向けた先には、もうあの巨大な氷柱は影も形もなく。微かに霧の漂うその場所に、自らを封じていたという美しい精霊が軽く宙に浮きつつ私達を見つめていた。


 緩やかに波打つ氷青色の髪が僅かに揺れ動いているのは、その身体から発せられている冷気の為だろうか。改めて、身が打ち震える程の美貌だと感心する。マルンや他の精霊達と異なり、人間と差異の無い外見である為いっそう感嘆しつつ見惚れてしまう。

 但し、唯一彼女が精霊なのだと伝えてくる特徴が目にあった。アスティのものより色濃い青のそれは本来白目であるべき部分までが全て染め抜かれている。この両眼と全身から放出されている氷の霊気を見れば、彼女を人と思う者もいまい。


「あ、えーと初めまして。私たち、ブラウセブンを探してるんです。アルテリアさんが持ってるって本当ですか?」

《はて。コーストの長とも、上位の聖職者とも見えない貴女達が何故、私の名を ―― 成る程。この炎の気配……あの子は相変わらず口が軽い様ですね》


 アスティの問いに多少不審を覚えたらしいアルテリアは、けれどマルンの魔法力の残滓を感じ取ったか納得した風に頷いた。そう言えば彼女は氷の最上級精霊の筈。ならば一般には本名など知られている訳もないのだろう。コーストの町長なら、と言う事はあの町の住民は或いは、かつてこの洞窟に住んでいたという人々の末裔でもあるのだろうか。


「軽いっつか悪いんだよ口が。ついでに性格もだが、ってそんなのどーでもいいや。とにかくブラウセブン持ってるなら渡してくれないか?」


《ブラウセブンですか……貴方達は、海の神殿へ向かうのですね》


「あら凄い。ずっと眠ってた割にお見通しなのね」


 やや驚いた様にレディアさんが言うが、精霊のこの返事にはどこか違和感を感じた。何かが動いた気配にふと隣を見ると、ブルーさんもまた何か思う事があるのか顎に指を当てている。


 だがその口が開かれる前に、アルテリアが再び声を発する。


《あれは古よりこの地に伝わる、トワイライトの秘宝です。故に私が直接守っている品。そう簡単に渡す訳にはいきません。どうしても欲しいと思うなら、守護者たる私を納得させなさい》


「て、あんたも俺たちと戦いたいのかよ? まぁ渡してくれないってなら力ずくで奪うしかねーか」

「それは乱暴だよスバノン……アルテリアさん、無駄な戦いはしたくないんです。ここの秘宝っていうなら後で返しに来ますから、今は渡してもらえませんか?」


《戦意を示している者がいる以上、私も応戦します。もっとも、それが貴女達の総意と言う訳でもなさそうですが。貴女達のリーダーは誰ですか? その意見を聞いてみましょう》


 精霊は全てが戦闘好きだとでも思ったか、うんざりそうな顔で剣を構えかけたスバノンを慌てて制し、交渉を試みるアスティにそんな言葉が返ってくる。すると皆の視線が自然と私に集まった。


「ま、勇者なんだからやっぱエルフィンだろな、リーダーは」

「ただ、人柄は良いが少しおっとりし過ぎてるからな。こういう場合の説得役とか、向くかな?」

「あら、いざって時は案外強いわよこの子。大人しそうな子ほど手強いのはリンちゃん見ても解るじゃない」

「いや、リンさんはまた別物というか、その……まぁとにかく頼むよ」


 あっさり任されても少々困るが。だが確かに、マルンと激しい戦闘を繰り広げたばかりでまた戦いを、というのは出来れば避けたい所だ。アルテリアに納得してもらう方法が力を示す事とは限らないだろうし、まずはもう少し深く話し合ってみるべきかもしれない。


《どちらといって、私任せですか。今ひとつ、秘宝を得ようという積極性に欠けて見えますね》


 そう答えた後、暫し沈黙が続いたが。やおら目を閉ざしたアルテリアが再び瞼を上げた時 ―― その瞳には彼女が司るものに等しい、鋭い冷気が宿っていた。


《この時代の勇者であるなら、魔王と戦う運命であるなら、貴女にはその運命に立ち向かう覚悟というものを示してもらいましょう。如何なる時、如何なる場面であろうと揺るがぬ心というものを》


 瞬間、凄まじい寒風が吹き荒れる。これはやはり戦闘形式の試験となるのか、と説得は諦め身構えかけ……その異変に気が付いた。

 周囲に動きや声がない、そもそも息遣いすら感じない。見回した途端、愕然となる ―― そこにはアルテリアが封じられていたのとよく似た氷柱が出現していた。


 だが、その中に在るのは精霊ではなく、アスティを初めとした仲間達の姿だったのだ。

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