8-3
「ん~、びみょーに狭いけど通れなくはないか」
「そう? 簡単そうだけどなぁ。―― ほら、いけるじゃない♪」
「そりゃお前は、ちっこいしひっかかるトコねーし」
「……何か言った? スバノン」
「いえ別に何でもないです……」
「ほらほら、後がつかえちゃうから早く進んでよ。まぁ、すぐに塞がる様な穴ではないだろうけど」
前後から軽いお叱りを受けているスバノンも大変そうだ。―― アスティから睨まれるのは、自身の失言のせいだから止むを得まいが。
結晶石探しの時には気に留めていなかったが、例の神秘の石の祭壇から少し離れた所にある、壁に貼りつくかの状態で立てられた氷柱は、考えてみればやや不自然なものだった。入り口のそれや、祭壇周囲の柱は壁の浮彫同様、装飾的な意味合いだろうとうかがえるが、この柱の場合周囲の浮彫との連続性も感じさせずいきなり設置されている。そして……単なる冷気の放射とは明らかに異なる空気の動きが、微かだが確かにあった。
道具の1つとして預かってはいたが、あいにく使い方を知らない私に代わってブルーさんが発炎石の力を解放すると、果たして氷柱の消えたそこには人ひとりがぎりぎり通れる位の通路めいたものが出現した。覗いてみる限り、奥は相当深そうな……この広場に到達するまでと同程度の洞窟が続いていそうな気配である。
この先にも魔物がいるのかは判らないが、テレット洞窟の例もある、油断は禁物だろう ―― 思いつつ、スバノンを槍の柄でこづいているレディアさんの後ろに並びかけた時。振り返ったレディアさんが、私の背後へと不思議そうな声を投げかけた。
「どうしたの? ブルーさん。何か見つけたりした?」
「ああ、いや……この神秘の石ってのがちょっと、気になって」
「気になる? まぁ確かに、こんな氷の洞窟に祀るにしてはそぐわない色よね。でも、特に魔石めいたものは感じなくない?」
「う~ん……それは確かに、そうなんだけど。色だけ見たら、まるで炎の石……なんだよな。何か意味があるのかなって思ってさ」
「そんなの、後で考えりゃいーだろ。早いとこブラウセブン探して、さっさとココ出ようぜ。長く居ると寒いだろうが」
その声は、既に穴からやや離れた所から発している様に聞こえる。この分だとスバノン達だけで一気に奥まで進んで行ってしまいそうだ。
「全く……これだから考え無しの無鉄砲は」
もしかすると、その石を手に取ってじっくり調べてみたかったのかもしれないが、軽く愚痴を言いつつブルーさんも穴を潜る。まあ、あの石に関しては全てが片付いた後にでも、また調べてみれば良いのではなかろうか。トニックさんなら、結晶石の無断採取目当てでもない限り、頼めばここの通行許可証を貸し出してくれるだろう。
最後に穴を潜った後、そこが突然閉ざされる、などの異変が起きない事を確認し。厄介な敵が出ない事を祈りつつ、皆の後ろを守る形で私も新たな洞窟を進んでいった。
─…‥・‥…─…‥・‥…─…‥・‥…─
―― それは、どうにも判断しかねる、不可解な「もの」だった。
芸術品の如き美しさから、恐怖や驚愕は然程感じないが……私のみならず全員が、かなりの困惑を覚えている様子だ。
「なんだ? これ……凍ってんのか?」
「みたいね。でも……一体、何なんだろう。見たところ人間とも精霊ともつかないし……人間でこの状態じゃ、まず生きてはいなそうだけど、どうする? 助けてみる?」
「って言っても、これさっきの柱よりずっと大きいよ。もう発炎石もないし、ブルーさんとレディアさんの魔法だけで溶かせる?」
「出来たとして危険だし、それにこの氷、普通じゃなさそうだ。……どう捉えればいいものかな」
全員で見上げるそれは、言うなれば巨大な水晶の群晶体。一際大きな六角柱を中心に持つ、大小様々な結晶の塊だ。
但し、その六角柱の中には……一人の女性が閉じ込められていた。
目を閉ざしていても、かなりの美貌の主と解るその姿は、レディアさんの言う通り一見しただけでは人とも精霊ともつかぬもの。だが、精霊だとしても何故この様な状態でここに在るのかが謎である。或いは、余程強大な敵とでも戦った挙句に、こうして眠らされてしまったのだろうか? ここに来るまでに、そうした敵と遭遇する事はなかったものの、この空間のどこかに潜んででもいるのだろうか ―― 念の為辺りを探ってはみるが魔物の気配は感じない。
あの広場に繋がっていた洞窟は結構枝分かれの多いものだったが、今はこの空間を除き全て調べ尽くしてある。もし本当に言い伝え通り、トワイライトに『青色の弓』があるのなら、残るはここのみなのだが……眼前の群晶以外は特に引っかかるものもない。
「つまり、やっぱりこれが鍵っぽいわよね。でも困ったなぁ……下手に槍や剣技ぶつける訳にもいかないでしょうし」
レディアさんに倣う様に再び皆で悩み始めた、その時。
《簡単にはいかないぜ。そいつは封印されてるんだからな》
唐突な声と共に、氷の洞窟には有り得ない現象 ―― 強烈な熱気が背後から吹き付けてくる。振り返るとそこには、どこから現れたのか、見覚えのある影が佇んでいた。




