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「成る程。水や氷属性にかかわる品なら“青の何とか”って伝えられても別に変じゃないからな」
「でも、秘宝かぁ……そんなの、勝手に持ち出しちゃっていいのかな?」
ブルーさんが頷く前で、アスティは心配そうな声になる。が、トニックさんは軽く笑って。
「はは、言い伝えといっても古文書とかの確かな証拠はないからね。信じてる人はあまりいないよ。だから、もし見つけられたなら君達が使っていいんじゃないか?」
「そ、そうですか?」
「証拠はないって……それ、ホントに実在するのか?」
「さあな。だが、そう言われてみれば怪しい場所はあるんだ。探しに行ってみる価値はあるんじゃないかな」
スバノンの訝しげな言葉に、けれどトニックさんは気を悪くした様子も無く、少し待っていてくれ、と言うなり部屋から出ていく。そのまま暫し……2~3人のお茶がなくなる頃に戻ってきた彼の手には、小さな守り袋の様なものがあった。
だが、席に着いたトニックさんはそれについて、すぐには何も言わず別の問いをしてくる。
「さて、と……前に君達には結晶石を取って来てもらったけど、あの時の場所は覚えてるかい?」
「はい。確か、神秘の石を祀った広場、でしたよね」
「そう、そこだ。あの広場の、ちょうど神秘の石の祭壇の奥に、1本怪しい氷柱があってね。あんな洞窟の奥にあるっていうのに、その柱からは微かに、冷たい風を感じる時があるんだ。だから、その内おれも調べてみようかと思ってたんだが……この際だから君達が調べて来るといい」
「ふむふむ……ありがとうございます。でも、あそこの柱ってどれも結構大きかった様な。あれ、動かせたりしそうになかったけどなぁ」
「はは、そこでこいつの出番さ ―― これを渡すから、そこに着いたら使うといいよ」
「なんだ? これ」
そう言ってアスティに差し出された、お守りめいた袋をスバノンが手に取ろうとすると。
「ああ、中身を出すなら注意してくれ。それは『発炎石』と言ってね、炎の力が秘められている。素手で持つのは危ないから、魔法力がないんならその袋と同じく専用の手袋がいるぞ」
「て、そんなの先に言ってくれよっ」
「魔法力、ってつまり、元素拾いの時みたく手に魔力を宿しておけばいいって事? て言うか、炎の力って……もしかして」
「ああ。そいつの力で氷の柱をぶっ壊してくれ」
「ええっ!? そ、そんな事しちゃって良いんですか?」
中々に大胆な手法である、それはアスティでなくとも驚くだろう。あの広場はかなり丁寧に作られた、神殿めいた空間だった筈だが、本当にその様な破壊行為に及んでも良いのだろうか……しかしトニックさんは、あくまで大らかに笑ってみせる。
「いいんじゃないか? どうせおれも、いつかやろうと思ってたし。だからその石を取っておいたのさ。そいつはよっぽど特殊な鉱石を武器にする時くらいしか使わないしな、今のおれには使い道はあまりないんでね」
「うーん? でも、これ自体も貴重な魔法石でしょう。だったら、柱の方はブルーさんの魔法で何とかすれば良いんじゃないかしら」
「いや……今度の場合は、この石の方が良いと思うよ、レディアさん」
ご指名を受けた形のブルーさんは、だが別に腕に自信がない訳ではないらしく。
「トワイライトは氷の洞窟だったろう? 当然、その広場とやらも一面氷で覆われている訳だ。そんな所でヒートブレイズだのサークルブレイズを手加減無しで放ったら、融けるのは狙った柱だけじゃ済まない ―― 発炎石は、指定した範囲のみにその威力を発揮する魔石なんだ。だから、今回はこれに頼った方が間違いがないよ」
「成る程ね。なら……ありがたくお借りしますね、トニックさん」
「はは、貸すというかあげるよ。それは一度使ってしまうと終わりだからね。まあ、思う存分調べて来るといいさ」
「そっか。じゃ、さっそく行ってくるよ。ありがとなっ」
言葉通りさっさと出て行くスバノンに、トニックさんへお礼は言いつつも慌てて皆も続く。本当ならもう少し落ち着いて、今回や以前にお世話になった事への謝辞など述べたい所だが……何分にも今は、なるたけ急いで海の神殿へ戻らなければならない。あの扉が、妙な絡繰り人形の言う通り3つの道具のみでしか開かないのであれば、すぐに魔王が逃亡するという事は無いのかもしれないが、そうそう安心もしていられないだろう。
幸い、海の神殿へ向かった際に用意した薬類は、ほとんど消費されずに残っている。船に施された魔法は航行以外の効果も持つのか、海上で魔物と戦う事態は起きなかったからだ。それ故コーストではこれ以上時間を取られずに、トワイライトへ出発する事が出来た ―― スバノンにとっては、海の幸にありつく暇がない残念な出立だったかもしれないが。




