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「―― ありがとうございます。危ない所を……もう駄目かと思ってました」
「この辺りは、かなり王都から離れてますからね。村を離れる時は、よほど注意しないと……可能なら聖水を持って歩いた方が良いかと。巡回騎士が常に、こうして間に合うとは限りません」
幾体もの異形の魔物を瞬く間に倒してのけた青年は、否、まだ少年と呼んで差し支えなさそうな外見の騎士はそう言って、礼を述べる母の腕の中の私を見た。
「この子はいずれ、成長すれば自分どころか貴女の事も楽に守れるほどの力はつけるでしょうが……『精霊の加護篤き者』は、幼少時は寧ろ、魔物に狙われやすい。潜在能力の高さを隠せず、なのに身を守る術はまだ持っていない、血と共にその力を取り込むには格好の“獲物”ですからね」
「そうは言っても……私は主人を早くに亡くしていて、聖水を常備できる程の手持ちは……」
「ふむ ―― まるで村から出ないというのも、見た所薬師の貴女には出来ない相談でしょうし……どうしたものですかね」
母が、森の中で採取した様々な草から薬を作り出すのを生業としているのを、すぐに見抜いたらしい青年が、本当に困った様に考え込む。―― たまたま通りがかりに救ったに過ぎない相手を、こうも案じてくれるとは、よほど優しい気性の人なのだろう。その気性に似合わぬ程の強い剣術をも備えているのが、一層頼りがいを感じさせる。
「……この子を連れて、実家に帰りますわ。隣の小大陸に、ユグドと言う村があって、そこに実家があるんです。あそこはマナプールの領土内なので、今の村より暮らしにくくなりそうですけど……この子の安全には、代えられませんものね」
ややあって、母が決心した様に青年へそう告げた。すると彼も、それは良い考えだと頷く。
「ユグド……〈聖樹・ユグドラシル〉の村ですね、聞いた事があります。あの樹なら確かに、大概の魔物は村や付近の森に近づく事さえ出来ないでしょう。この子にはうってつけの里かと思います」
「本当なら、セレン王都に引っ越したい所ですが……あの町もまだ、今は工事中とか?」
「ええ、残念ながら。今の工事が終わり、王都を囲む“聖水の堀”が完成すれば、確かに王都も魔物を寄せ付けぬ安全な町へと変化するでしょう。しかし、その完成は恐らく、この子が成長した頃になるでしょうし、今すぐ欲しい安全は現在は保障されませんね……申し訳ありませんが」
「いえ、そんな ―― お強いと言え騎士のお一人に過ぎない貴方が、そこまで国の責任を負わなくても……今こうして、命を救って頂いただけでも私たちには過分な恩義でございます」
心底済まなそうに頭を下げる青年に、母が慌ててそう言った。本当に、どこまでも優しくて生真面目な人だ、と思う。
早速、帰って引っ越しの支度をすると言い立ち上がった母に、旅の無事を祈る言葉を告げつつ数歩近づいてきた青年は、今は地上に降ろされた私の頭に手を置き、目線の高さを合わせる為かしゃがみ込んで微笑んだ。綺麗な若葉色の瞳が、優しげな煌めきを放つのがとても印象的だった。
「かなり遠くまで旅する事になるけれど、元気でね。……君からは ―― 何か特別なものを感じるよ。俺はパーンっていうんだ。君の名前は?」
―― ? はて、どこかで聞いた様な名だけれど……いつの事だったろう?
思いつつ、その問いに答えようとして ―――― 目が覚めた。




