7-5
気が付くと、そこはまるで見知らぬ場所だった。無論、先程までのセレン城内ではない。
どこかの山中とも思えるが、何となく周囲の景色に覚束なさを感じる。それに自然の中にしては風の流れがなさすぎる。何かの幻術か、或いは異空間なのか……ともあれ身を起こすと、すぐ傍でも目覚めたらしい見慣れた顔ぶれが次々と起き上がっていた。
「私たち、あのパーンって人にやられたみたい。殺されたのか、夢を見ているだけなのか……」
「しくじったな……魔王と疑われる奴に近づくにしては用心が足らな過ぎた」
レディアさん、それにブルーさんがそう言いつつ辺りを確認しているが、やはり明確な答えは掴めていない様だ。やがて、最後に倒れたらしいスバノンが起きた時 ―― やや離れた所に突如、かなり強い魔法力を放出している1つの気配が湧き上がった。
「てめぇ……一体なにしやがった?」
「手荒い真似をしてすまない。先に言っておくよ……君達は今眠っている。ここは夢の中だ」
「これが夢? だとすると……あんた、自分がどんな“禁術”使ってるか、解ってるか?」
スバノンの、改めての質問にパーンさんが答えると、周りを一度見回して、ブルーさんが厳しめの顔になったかと思うと彼へそう問い質した。
「これだけ多数の人間の意識を、1つの夢世界へ強制召喚するだなんて……これがあんたの精神世界だとして、術者のあんたはまぁ無事だろうが呼ばれた方は下手すりゃ、誰かしらの自我に破綻が生じてもおかしくない荒業だぞ? 何を見せる気か告げる気なのかは知らんが、せめて現実世界での場所移動に留めておく事は考えなかったのか?」
「まあ、普通なら確かにその危険もある。でも、今は大丈夫だ。彼女がいるからね」
答える視線が向いた先は……何故か、私であるらしかった。
「その貴石、『夢見の雫』だろう? 夢を明瞭なものにする力を持つ、一種の魔石だ。加えて君は、『夢の遣い手』なのだから ―― 力を鍛えれば精神の時空移動も容易な能力者。その精神力をベースに創り上げたこの空間なら、君達全員の意識を、何ら異常をきたす事無く集める事が出来る」
「……勝手に人の力と持ち物を利用してるって訳か。それはそれで、かなり問題だけどな」
どうやらパーンさんは、私のサークレットの貴石の力と私の能力を、自分の魔力にアレンジする事でこの「共通意識世界」を築き上げた、と言う事らしい。各々の自我が溶け合ったり、または相手を押しのけ己だけがこの精神世界の主になろうとする、といった危険は、そのお陰で上手く消し去る事ができた、という話の様だが……それでも未だ険しい表情のブルーさんの隣では、レディアさんが別の疑問をぶつけていた。
「あなた、さっき仮眠室で目が赤く輝いてたわ。あれってつまりは ―――― 」
「……君達は魔王を探しているんだろう? ならば言わなければいけないね……もう君達も察している通り、俺は魔王なんだ。まあ、まだ成りかけだけどね」
「だから……エルフィンちゃんの事にも詳しいのね。《勇者の条件は、魔王の魂と呼応するか否か》―― 逆に言えば、魔王なら勇者と一般人はすぐ見分けが付けられる。多分、さっき会った時から彼女の素性には気づいてたって事じゃない? それに、エルフィンちゃんの話からすれば、あなたと彼女の意識はどこかしらで繋がってる。だから彼女が『夢の遣い手』とも知っていて……そして、さっき会った時その能力の利用を思いついた」
「中々鋭い……ついでに結構、手厳しい物言いだね」
「そりゃそうでしょ。で ―― ここまで手の込んだやり口で、まさかただ自己紹介って訳でもないんでしょう? 一体何を教えてくれるのかしら」
苦笑気味に返すパーンさんへレディアさんが更に追及すると、彼の瞳がまた、あの鮮紅色へと輝きを変えた。同時に、その身体からの魔法力の自然放射が一気に強まる。
「今の俺は、まだ成りかけだけど……もう間もなく、俺は完全に魔王になってしまう。きっと、君達が目覚める頃には……だから君達が間に合ってくれて良かったよ」
「どうして? どうして、そんな事がわかるの?」
「ちょっと前から……少しずつ、力が溢れて来るんだ。そしてこの目、これが魔王に近づきつつある何よりの証 ―― 人には有り得ない、魔力でぎらつくこの紅色を、それでも最近までは隠す事は割と容易だったんだけどね。ここ一ヶ月くらいで、それが難しくなりつつある……解るんだ。こうなったら、もう本当に間もなく俺は、完全な魔王になってしまうって。そこで頼みがあるんだ」
どこか心配そうに訊ねるアスティに、やや平素の調子を取り戻して告げたパーンさんは、けれどそこで、あの仮眠室での沈痛な面持ちに戻ると。
「君達は魔王を倒すんだよね? 俺からもお願いだ。俺を倒して……妹の呪いを解いてやってくれ」




