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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 七.古都に宿りし悲哀 ―
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7‐1

「え~。お兄ちゃん、一緒に行かないの?」

「今はちょっと気分が乗らないんだ。それに、ここで調べ物があるって気づいたしねー」

「う~……わかったよぉ、じゃ行ってくるね」

「あははは。気をつけて行って来てね」


 翌朝、ユグドの宿屋前。ひとまずはアリシアへ向け出発しようとしていた皆に、ここに残ると告げたリンさんへアスティはかなり不満げな様子だったが……その頭をぽんぽんっとなだめる様に撫でると、彼は相変わらずの猫っぽい笑顔でお見送りしてくれた。


 ―― その調べ物とやらがマナプールに関する何かだとして。どうか話がそこから、昨夜の最悪予想へと発展しません様に……にこやかな視線の気配を背に感じつつ、かなり真剣に祈ってしまう。一度はかなりの覚悟を決めたつもりだったが、やはり不安や逃避的感情が拭い切れない辺り、私はまだまだ勇者とは名乗れない気がする……。


「あれ?」

「ん。どーした、アスティ?」

「ほら、あれって……ユグドラシルの傍にいる人」


 発つ前に、少々村を見て行きたいと言うレディアさん達の要望に応え、まずは一番の「名所」であろう聖樹へと皆で向かっていた時 ―― アスティが何かに気づいた様に指をさす。


「げ」


 どこかで見覚えのある、その人影に近づいてみると……気配に気づいたか振り返ったその人物は、およそ歓迎はしていなそうな第一声を漏らしてくれた。


「やっぱりレジーさん。お久しぶり」

「なんでお前がここにいるんだよ」

「そりゃこっちのセリフだ。まさか後を追ってきたわけじゃないだろうな」


 アスティは、それでも普通に挨拶するが。スバノンとレジーさんは、以前同様の喧嘩腰だ……これはもう、彼とブルーさん並の恒例行事と思っておくしかなさそうである。


「ここは、私達の村なんです。ついでに私の家は、あっちにある宿屋」

「……へぇ、そうだったのか。なかなか悪くない宿屋だったぜ」

「あ~、一番奥の部屋とってたのってレジーさんだったんだ。ご利用ありがとう♪」


「何様なんだよコイツは」

「お前が言うか。何だか連れてる顔が増えてやがるな……まぁいい。俺はそろそろ出発するぜ」


 お前と同じところにいるのは嫌なんでな、と続けるレジーさんに、スバノンも更に何か言いそうな雰囲気だったが、それを察したか阻止する様にアスティが訊ねる。


「レジーさん、次はどこに行くんですか?」

「さぁな。……とりあえずセレンに向かおうと思う」


「セレン? あそこは、関係者以外は立ち入れないんじゃ」


 途中で思い直した風に行き先を明言する彼に、ブルーさんが聞き返した。確かにセレン王都は、昔とは違い途中の道に関所を設け、そこに深く関係する者以外の通行を禁じていると聞く。かつては比較的開放的だった都なのだが、やはりそこは魔物達の増加、それにマナプールの動向が関係しているものと思われた。


「ふん、甘く見るなよ。うちの親父はセレンでは有名な鍛冶屋だったんだぜ。今でもあいつら、親父に戻ってきてほしいと思ってるらしいからな……その名前を出しゃ関所くらい、すぐ通れる」


「そっか、セレンか……そこなら魔王の手がかりもあるかも知れないわね」


「は? 魔王??  ―― お前ら、魔王を倒しに行くってのか? 本気で言ってんのかよ」

「ひとまず、手がかりは欲しいと思ってます。……レジーさんって言ったっけ。魔王に関する情報、何か知りませんか?」

「俺が知る訳ねーだろ。そんなの、その辺の誰かが知ってるとも思えねぇが……確かにセレン王都なら、世界一ってな位の大都市だし何かは分かるかもしれねーな」


 レディアさんの呟きに反応したレジーさんへ、一応はと思ったか彼女が問うてみるが、返事は大体、予想通りだった。しかしレディアさんは、何か考えがあるかの様に後を続ける。


「確かにそこに行くのがいいかも。でも……私たちじゃ入れないなぁ」

「それもそうだな。ま、がんばれよ」

「―― 私たちだけじゃ行けないな~」

「……おい、あんた何が言いたい?」


 流石に何か感じ取った様に、レジーさんが微妙な回避態勢で聞き返すも……レディアさんは、彼の目をじっと見つめたままである。ただひたすら、じーっと見つめ続ける事数分 ―― 遂に根負けしたかの、やや呆れた口調で彼は言った。


「ちっ……お嬢ちゃんの連れはめんどくせーヤツばっかりだぜ。ついてくるなら勝手にしろ」

「やったぁ。ありがとう、レジーさん」


「て、レディアさんコイツと旅をするってか? なんで、こんなヤツと一緒に行かねばならんのだ」


 成り行きを見守っていた皆の内、スバノンが慌てた風に言うが。


「だって、セレンは関係者しか入れないんだもの。でも、レジーさんがいれば入れる。これはチャンスでしょ? あそこならきっと魔王の手がかりも掴めるわ」

「関係者……だったらコイツじゃなくても、エルフィンでいいじゃないか」

「え? ―― エルフィンちゃんってユグドの人じゃなかった?」


「あー、エルフィンは昔、セレンから引っ越してきたんだよね。でも……あれ結構前の事だから、関所が通れるかどうか分からないよねぇ」


 スバノンの言に、アスティが付け足すけれど。彼女が言う様に、私がユグドへ来たのはもう10年は昔の事だ。それに、私が居たのはセレン王都ではなく、そこから割と離れた……ユグドと大差ない規模の小村である。例え引越しが去年の事だったとしても、これでは到底「関係者」とは名乗れないレベルだろう。


「ちぇっ……やっぱダメか。仕方ねぇな、レジーで我慢するか」

「別についてこなくてもいいんだぞ」

「たまには役に立てよ、お前も。つーわけで頼むぜ」

「頼むって態度じゃねーだろが? そりゃ」


「まあ、この変なのに態度を直せっても無理だろうから……宜しくお願いします、レジーさん」


 再度の喧嘩調でやり合い始めた所へ、何か共感を覚えたかのブルーさんが間に入り、そう取り成す。レジーさんも以前とは異なり、会う者全てに突っかかる訳ではないらしく、その言葉に割と素直に頷くと、私達と共にユグドを出発する事となった。

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