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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 六.廃墟の街が語るもの ―
49/68

6‐9

 宿代は無料にしてくれるとの、アスティ達のご両親の厚意に甘えて取った部屋へと戻る途中。階段の踊り場、大きな窓から差し込む明かりの強さにふと、外を見る。……今夜は、いつになく眩い月が暗い中空に座を占めていた。


 それは今の、色々と思い悩む身には癒しとも、逆に冷酷とも取れる光で。何とはなしに立ち止まり、その輝きを見つめつつ思考は再び、奥深い迷路へとはまり込んでいく感じになった ―― ユグドの様な例外を除いた、世の殆ど全ての町や村にとってモンスターは、そして魔王は間違いようも無く“敵”である。彼らが居なくなった所で別の問題や紛争は十分起こり得るけれど、それでもその存在が、出来れば今すぐ消えてほしい脅威である事に変わりはない。


 ないのだが……いざ彼らを消し去るべく旅立つべき勇者が他ならぬ自分だというのは、あまりにも手におえない大問題だ。


 私には、あの『特異な夢』や実際の調査で知った先代勇者の様な、魔王討伐に向けての明確な動機がある訳でもない。世界的危機と言える状況で何を言うか、と他の人々には怒られそうだが……これまでの旅で判明した魔王に関する諸々の事情などを考えると、先程のリンさんの言葉に甘えまくって、もっと別の「如何にも勇者らしい人」を探した方が良いとの思いさえ浮かんでしまう。逃避と言われればそれまでだが、幾ら精霊の太鼓判があっても私には、自分が勇者と称される程の強さを持っているとは信じ難いのだから仕方ない。


 ―― 本来背負うべき重責以外に、討ち果たすべき仇敵がよりによって唯一生き残った親友だと知った時の、あの銀髪の青年の苦悩はどれ程のものだったろう? もし私の身に例えるなら、つまりはアスティを倒さなければいけなくなる訳で……そこで不意に1つの、想像するだに恐ろしい可能性に思い至る。



(エルフィンちゃん ―― アスティの事、頼んだよ)



 まだ、然程長い付き合いではないがそれでも、彼が唯ひとりの妹をとても大切にしている事は良く解る。なのに……どうしてリンさんは自分ではなく私に、彼女の身を託そうとするのだろう。


 もしかすると、あの人こそが ―― この時代の魔王だったり、するのだろうか?


 別に、どの時代に於いても魔王が勇者の「身近な人物」だと決まった訳ではない。けれど、アスティやレディアさんも含めた一行の新たな旅に、あのリンさんが付いてこないというのも実に妙な話であるし、先刻の話しぶりからすれば彼は、まるで現在の魔王も自身を倒してくれる者を待ち望んでいるのが確定していると判り切っているかの様子だった。


 もしそれがこの、考えたくもない可能性が故だとしたら……ますますもって逃げの一手に徹したくなる予想に、思わず目を強く閉じ頭を振る。


 ―― アスティにした所で、変と言えば変なのだ。勿論、彼女に親友として深く慕われている自信はある。しかし、或いはそれ以上の勢いで彼女がリンさんに懐いているのもまた事実。そのアスティがどうして、リンさんではなく私の意思を、自らの行動の決定打と定めているのだろうか。


 兄とは違い、アスティは外見はまるきり普通の人間だ。だが実の兄妹である以上、ひょっとしたら彼女にも『精霊の加護篤き者』としての特殊な力が備わっているのかもしれない。

 それがリンさん同様の勘の良さであったなら、例え表には出て来なくとも、深層心理で何か気づく所があって、それが働きかけた結果として勇者になり得る人物 ―― 私についていこう、と決める事となったのかも……もし、そうだとするのなら。


 再び目に映した麗月の光の中、思う。アスティに、あのエガオンの様な苦悩を味わわせるくらいなら……私が正式に「この時代の勇者」になるしかない、と。そして最終的には、彼女を退け私だけで魔王を倒すしかないだろう、と。


 もっとも今の、全然強さの足らない私では到底、決意を果たせそうにはないが……もしも事が順調に運んだ所で、下手をすると……あの銀髪の青年と同じ末路を迎えそうな気もするけれど。ただそれは、彼女に別の悩みの種を与えかねない結末だから、なるたけ回避しなければなるまい。


 ―― 部屋へ戻ろうと、踊り場の窓に背を向けた時リンさんの、別の一言が脳裏をよぎった。



(アスティは……例え君の行き先がどんなものだろうと、エルフィンちゃんについていくさ)



 それは例えば、私がこの先の道中で、今し方の決意も忘れて逃げ出す様な、そんな事態となっても言える事なのだろうか? 彼が断言するのなら本当かも知れないけれど、その場合私とは果たして、そうまでする価値のある人間だろうか。彼らにとって……アスティにとって私とは、一体どんな存在なのだろう?


 一瞬リンさんに、と思ったが止めにする。それはいつか、アスティに直接聞いてみよう ―― 降り頻る月光の中、未だ晴れぬ迷いの内に不思議な煌めきを持って、その思いは暫く胸に留まっていた。……まるで、それこそが旅の救いとなるものだと主張するかの様に。

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