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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 七.古都に宿りし悲哀 ―
51/68

7-2

 セレン王都への道は、大きく分けて2つ。アリシアからデスヒルズ砂漠を越えてくるか、ステラの遥か西方、マルベルグ山脈の切れ目からかの国へ繋がる関所を潜るか、である。

 しかし砂漠のルートは現在、砂漠地帯と王都を隔てる大河に架かる橋が壊れている為利用できず、よってどうあっても関所を通過する事が不可欠なのだが……。


「あのおっさん、そんな凄い人なのか~」


 スバノンが目を丸くしたのも無理はない。レジーさんがトニックさんの名前を出して交渉すると、本当に通行手形もないのに全員が関所を通れてしまったのである。まあ、やや強引な交渉だったのも否めないが、ともあれ難題をクリアし、約2日。


「セレン……さすが、かなり大きな町ね。これなら、何か手がかりがつかめるかも」


 やはり大都市であるアリシア出身のレディアさんが、到着と同時そう口にする程、セレン王都は大発展を遂げた美しい都市だった。しかも、マナプールと異なり街をゆく人々には暗い影など見当たらず、町自体にも活気が溢れていて、軽く聞き込みなどしてみた限り王家の評判も非常に良い。これは少なくとも数世代に亘る国王が善政を布かねば生まれぬレベルの評価で、流石は長きに亘り繁栄を謳歌してきた大国家だと言えた。


「さて、俺は別行動させてもらうが……調べ物ってんなら、城の大図書館へ行けばいいんじゃねぇか? ここはマナプールと違って城も出入り自由だからな」


 セレンへ着くや否や、私達と離れてしまったレジーさんだが、別れ際にそう助言してくれた。大国の王城が出入り自由とは驚きだが、試しに向かってみると本当に、門番も城内で出会う兵士も、軽く挨拶などしながらすれ違うのみで何も問い質そうとはしてこない。いかに現在は関係者しか来られぬ街といえ、これは少々、奔放すぎる気がしなくもないが……この城の気風がつまりは、町の空気そのものを作り上げているのだろう。大国の、歴史に裏打ちされた自信を見せつけられれば、マナプールのあの王が太刀打ちできる相手ではないと改めて思わされる。


「―― う~ん。確かに、他所とは比較にならない情報量の図書館だけど……魔王に関しては、調べがついてる事以外に手がかりらしきものはないわね」


 ステラからのルートが出来る前は、ここへ通う為だけにわざわざ砂漠を越えて来る者もいたと言う程の大図書館で調査にあたる事、数時間……レディアさんが、おおよその資料は当りつくした後にそう呟いた。


 私やブルーさんも様々な本を開いてはみたが、見つかるのは勇者エガオンの足取りや、既に調べてきたストラウス遺跡に関して、はたまた謎めいた山奥の村について等々 ―― 魔王に直結する資料は見つける事が出来なかった。後は町で手分けして聞き込みでもするしかないか、と話し合っていると、どこへ行っていたか妙に満足げな顔のスバノンが割り込んでくる。


「聞き込みならさ、まず王様に会ってみないか? ここの王様ってのは、誰にでも気軽に面会してくれる優しい人らしいぜ。いや~ホント、どっかのボケとは大違いだよなっ」

「王様かぁ……確かに謁見できるのなら、会ってみる価値は大有りね」


 頷くレディアさんの隣で、ブルーさんはスバノンへの疑問をぶつける。


「ところでスバノン、お前どこ行ってたんだ? 探しに行ったアスティちゃんも、戻ってこないんだけど。途中ですれ違ったのかな」

「あー、アスティなら厨房でケーキ食べてるぞ。俺も色々味見させてもらって、もう満腹~」

「お前な……一番、魔王退治に乗り気な奴が何で、調べ物じゃなく食い物に熱中してるんだ……」


 ブルーさんの呆れ返った台詞も、王城の豪華な食事にご満悦なスバノンの耳には届かない様だ。この城はどうやら、厨房に至るまでが立ち入り自由であるらしい……アスティを迎えに行きつつ、少々空腹を覚えていた残りの顔ぶれもご相伴に預かり、その味わいに思わず話に花など咲かせながら楽しい一時を過ごしたのだった。


─…‥・‥…─…‥・‥…─…‥・‥…─


「お、見ない顔じゃが旅の者かの? まぁ、ゆっくりしていきなさい」


 最上階にある謁見の間は、大国の威厳こそ損なわぬ造りではあったが、その主の気質を反映するかの様に落ち着いた広間であった。何というか、まるで普通の家の居間の如く居心地の良い場所だったのである。そして謁見を許可してくれたセレン王もまた、王様と言う肩書には相応しからぬ気さくな人柄と物言いの持ち主であった。


「本当、マナプールと大違いだね……」


 こっそり囁いたアスティに、かの国王を知る者は皆頷いてしまう。そんな我々に、えらく爽やかな王様は人好きのする笑顔で聞いてきた。


「それで、旅の者よ。セレンへは何の用で来たのかね?」

「私たち、魔王の手がかりを探しにきたんです。何か知ってる事があれば、教えて頂けませんか?」

「ふむ……魔王か、それは……あまり話したくないのう」


 けれど、レディアさんがそう問いかけるや、その笑顔が一気に曇ってしまう。沈んでいるというか、どこか困っていそうな雰囲気の表情であった。


「えっ……何か知ってるんですか?」

「知っていると言うか ―― いや、何でもない。個人的に少々、考える所があるだけの話じゃ。済まぬの」

「些細な事でも構いません、教えてもらえれば、その先は自分たちで調べますから」


 何かしらが聞きだせそうな状況で諦める筈のないレディアさんが重ねて訊ねるが、最初とは打って変わって沈鬱な表情のまま口を開こうとしない王様は、だがそれでもマナプール王の様に陰湿・威圧的な気配を放つ訳ではなかった。これは単に、どう二の句を継ごうか迷っているといった感じか。


「あのさ、王様。こっちのエルフィン、こいつこれでも勇者らしいんだ。だから魔王の事、何でもいいから教えてやってくれね?」

「……む?」

「おい ―― お前はちょっと、下がってろ」


 いくら気さくな王様といえ、一国の王に対する言葉遣いではない。ある意味さすがスバノンと言えるが、そんな彼を慌てて引っ張ると、今度はブルーさんが予想外な口調で。


「恐れながら陛下。こちらの少女は、アリシア東部の大ピラミッドにて精霊達に認められ、『精霊王の冠』という助力にも与れる事となった、この時代の正統な勇者。我々は精霊達の求めに応じ、魔王探索の旅を続けている最中です。あいにく証となる『精霊王の冠』は現在、とある国の王の手元にありますが……もし信じて頂けるなら、どうぞ何かしらの助けとなるお言葉を賜りたく存じます」


「――……何お前いったい誰??」

「普通、王様に謁見と言ったらこの位の喋り方だろうが。お前が非常識すぎるんだっ」

「ちょっと2人とも。仮にも謁見室でまで、じゃれあわないの」


 間に入りつつも、少なからずレディアさんも驚いている風だ。そんな彼らの前で、セレン王の顔色にやや変化が見えた ―― 迷いが消えた訳ではないが、ひとまず何かは告げようと決めたらしき気配を感じる。


「ふむ……ピラミッドは古より、精霊が英雄へ助言を与える場だと言われておるからの。そなたが口にした冠の名も、世間ではあまり知られておらぬ筈。であれば、信じなくはないぞ ―― ただ、この話は……あまり外ではしてほしくないのでのう」

「城下を騒がせるような真似は致しません。我々も別に、声高に勇者を名乗って歩いている訳でもありませんので。内密にと言われるのであれば、その点は堅く守りますから」


 ブルーさんの保証に、軽く頷いた王様は……かなり思いがけぬ言葉を口にした。


「精霊に会ったのであれば知っているだろうの。魔王とは、復活して暫くは“人間”として生きているものだという事を……その、魔王と思われる人物がいるのだ。この城内にな」

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