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「えっ! あ、あれがそうだったんだ……やっぱり重要なものだったんだね」
「宝だーって騒いでたあの頃が懐かしいな。そんなに重要なものだったなんて……解ってりゃ、マナプールの兵士なんかに取られる前に逃げてたんだけどなぁ」
驚くアスティの脇ではスバノンも、そう言って口惜しそうな顔になる。まあ、あの時点でその様な話に気づける訳はないし、そもそも兵士達に下手に逆らって危ない目にあうよりは良かったのではなかろうか。リンさんも、そういう意味でだろう、慰める様に声をかける。
「ま、いいさ。どんな効果があるのかも判らないし、今はお城にあるのなら、とりあえず安全だろう。盗賊に盗られるよりはいいと思うよ」
「―― 果たして、そうかしら」
「ん?」
レディアさん同様、私もかなり不安になった。……『精霊王の冠』の効果については解っている。魔法を掻き消す力があり、その道の専門家たる上位精霊達ですら一目置く、魔王の魔力さえもある程度は抑えられるという“魔法具”だ。リンさんは当時そこまで知らなくても、マナプール王はきっと、テレットに封じられている品が『精霊王の冠』だと解っていたのだろう。だからこそ、兵を派遣してまで調査に来、しかもそれがないと知るや冠のみならず、洞窟の秘密自体を知っていそうな人物・リンさんを捕縛しようとしていたのだ。
そこまで、あの国王が必死になる理由 ―― およそ、まともな物が思いつかない。何しろ、武力の信奉者で、歴史ある大国・セレンにまで喧嘩を売ろうという人柄だ。そんな人物が、強大な力を秘めた魔法具を入手しようと言うのであれば、その目的は……“軍事利用”ではなかろうか?
「私も、そう思うよ。仮にも魔王にさえ通用すると、精霊のお墨付きがある冠だよ? そんなものが手に入ったなら、例えセレンの魔法師団だろうが、ステラの上級魔導師団だろうが、恐らく敵じゃなくなるわ。今の所マナプールに不穏な動きが見られないのは単に、『精霊王の冠』の効果を発動させる方法を、国王がまだ見つけてないってだけなんじゃないかな」
私の危惧に、レディアさんも賛同する。実際に牢に繋がれた経験のあるスバノンも、相当に心配そうな顔になり……けれど、リンさんだけは周囲の不安も知らぬ気に、にっこり笑顔で。
「んー、まぁ大丈夫さ。その冠に関しては、また後で僕が考えるから、みんなはひとまず魔王探しの旅へ行っておいで。さ、一旦はアリシアへ帰ろうか」
「リンちゃん……さすがに、ちょっとそれはお気楽すぎじゃない? 幾らリンちゃんの勘が良いっていっても、事は国家間の戦争に発展するかどうかの話だよ」
「人間同士の戦争より、魔王との戦いをどうするかのが優先だと思うからねー。……まぁマナプールに関しては、ちょっとした考えもなくはないんだ。ただその為には調べ物がいるってだけ。だから、そっちの意味でも、まずはアリシアに帰ろうよ」
「―― たぶん、帰れないよ」
「ん?」
レディアさんをなだめるかの、リンさんの言葉の最後に被せる様に、ブルーさんが言った。そちらに注意を向けたリンさんへ、彼が詳細を告げるが……それは結構、今の我々にとって『精霊王の冠』よりも厄介な問題だった。
「あ、つまり……この魔法陣の色からして、これ一方通行なんです。ここはテレット洞窟だから、アリシアに帰るんなら、えらい時間がかかるって事になりますよ」
「えーっマジで?」
「それは困ったね……どうしよ。どっか、その辺で休もうか?」
スバノンやレディアさんが、一気に疲労感が押し寄せた様にそう言うと。
「ここからなら、ユグドが近いじゃない。私の家は宿屋だから、そこで休もうよ」
「おおっそうだった! 考えたらユグドがすぐ傍じゃないかっ。よし、アスティの家に行こうぜ!」
「へえ、アスティちゃんの家って宿屋かぁ。……この人数が収まる部屋とかあるのかな?」
「心配しなくても、アスティは僕と一緒に2階で寝るよ? 4人部屋くらいは、田舎の宿屋といってもちゃんとあるから、だいじょうぶ♪」
「あ、そういやリンさんにとっても家でしたか…」
何か企んだらしいブルーさんへは、素早くリンさんが牽制する。……と言うか、そもそも男女は分けて部屋を取ってほしいものだと思う……。
ともあれ、長い旅と調査、それに色々と発生した問題 ―― そうした事柄で、皆すっかり疲れきっている。今、一番全員に必要なのは「ゆっくり休める環境」である事は疑いの余地がないので、テレットには詳しい私達の案内の下、皆でユグドへと向かう事にしたのだった。




