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「ん? ……鍵のついた扉だ」
転送後、暫くは魔物に会わない安全な通路が続いていたが。やがてその道幅が狭まって来たかと思うと、一見行き止まりの、しかし奥の壁に今まで遺跡の中では見た事のない、扉が設けられている小部屋へと到達した。
「でも、なんか見覚えあるぞ? この扉。どこでだっけ」
それの発見と同時呟き続けるスバノンが、何かを思い出そうとするように首を傾げ……急に声を大きくする。
「そうだ! アスティ、鍵!!」
「え? こんなところの鍵なんて、私持ってないよ?」
「違う、テレットだよ! テレット洞窟で使った鍵だ!! この扉、あれとそっくりだぜ!」
「あっ……!」
アスティと同時に私も気づく。さほど大きい訳ではない、けれどとても頑丈な、何かを封鎖しているかの扉 ―― 正しくテレット探検で見かけた、あの扉そのものだった。
幸い、身体検査などはされなかったが為に未だアスティが持っていた、その鍵を差し込むと……果たして扉は、小さな軋み音と共にゆっくりと開く。
「おおっ……うん? 何だか今までとは色が違う魔法陣だな」
軽く声を上げたブルーさんが、その先に何か見つけた様だ。あまり広いとは言えない空間へ皆で入ると、そこには確かにこれまで通ってきたものとは輝き方の違う魔法陣がある。
「んー。これって一応、転移術式が描かれてるけど……安全かな。どう、ブルーさん?」
「大丈夫と思います。危険な魔力は感知できないし、転送魔法力も揺らぎは感じませんから」
「おっけー。じゃ、どこに行くのか入ってみようか」
リンさんも流石に、幾通りもある古代魔法の術式全てに精通している訳ではないらしい。専門家のブルーさんへと確認を取ると、それでも割と気楽な感じで魔法陣の中へと立った。
皆で彼に続くと、淡い輝きと共に魔法陣が作動し……着いたのは、今までより更に一回りは狭い、部屋と言うよりは納戸ほどの小さな空間だった。
「あれ? ここって……」
今度はアスティが、真っ先にその部屋の正体に気づく。
「ここって、確か……テレット洞窟? 探検の、最後に来た部屋だったと思うけど」
「なるほどね。そう来たか♪」
「え? お兄ちゃん、何か知ってるの?」
アスティに釣られる様に、皆の視線がネコ耳青年へと向けられる。すると何やら愉しげな、さながら本物の猫が新しいおもちゃでも見つけた時の様な表情で、彼はこっくり頷いてみせた。
「前にアスティへ渡した鍵はね、レディアが調べ物の最中に見つけてきたものなんだ。彼女が僕と再会するまでの道中では、それがどこの、何の鍵か知る事が出来なかったらしい。だから、次は僕がその鍵についてあちこち調べ回って……そしたら、何とテレット洞窟の鍵だった。でも、最初はちょっと納得がいかなくってね」
そこで一旦、彼は事の順序を思い出すかの目つきで言葉を切る。
「その時点である程度は解っていた勇者エガオンの足取りは、少なくてもユグド付近には向かっていなかった筈なんだ。なのに何故、彼に関する調べ物の中で見つけた鍵が、テレットのそれなのか……僕はマナプールの大図書館で、ちょっと失礼して“特別閲覧室”に潜り込んで調べたのさ。そしたら、今までになかった史実を1つ発見した。エガオンは『精霊達の憩い場』であるユグドラシルの下に一度だけ、立ち寄った事があるらしいんだ。……だったら、彼が後世の為にテレットへ、何らかの秘密なり彼ゆかりの装備なりを封じていったとしても不思議はないな、と僕は思った」
―― 確かマナプール図書館の「特別閲覧室」と言えば、国王及びその直系か、大司教クラスの重臣しか立ち入りを許されない、王家が直接管理する貴重な古文書が収蔵されている部屋だった様な。そんな所に入り込んだなどと、外でうっかり口にしようものならそれこそ首が飛びそうなものだが、リンさんは実にあっさりしたものだ。皆の、感心なのか呆れなのか判断しにくい視線の中、彼の説明はもう少し続いた。
「本当は、直接テレットの奥まで行ってみたかったんだけどね。何だか僕の勘が、僕自身が探るべき謎じゃないって告げたんだよねー。僕ってば今まで、自分の勘に逆らうとろくな事なかったからさ、その時も好奇心の方は抑えつけて次の調べ物に向かおうとしたんだ。すると丁度、アスティが友達と一緒にテレット探検に行くって言うじゃないか。だからアスティに鍵を渡していったんだ。もしここで、エガオンに関する何かが見つけられたら、そして彼に関する知識を少しでも得られたら、それはアスティ達にとっていい経験になりそうだと思ってね」
成る程、確かに彼の“勘”とは大したものだと思った。もし、そのまま彼自身がテレットに入り調査などしていたら、ユグドを発つのが遅れ、果てはマナプールの兵士達に捕まっていたかもしれないのだ。図書館の件がばれずとも、鍵の件だけでもあの国王はリンさんを牢へ繋いだ事だろう。
「じゃ……あの時宝箱に入ってた、あの金のティアラは?」
「金のティアラ? ここに、そんなものがあったの?」
「ああ。結局、アレが何なのか解らなかったけど」
スバノンの言葉に、レディアさんが聞き返す。兵士達が探しに来ると言われていた、噂のお宝……僅かながら不思議な力を漂わせた、美しいティアラの事を話すと、彼女は何かに気づいた様に。
「それって……もしかして精霊達が言っていた『精霊王の冠』なんじゃないのかな。きっとエガオンが、ここに隠したんだと思うよ」




