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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 六.廃墟の街が語るもの ―
45/68

6‐5

「たとえば、もしアスティちゃんに魔王が乗り移っていたとして、彼女がその姿のまま『魔王』に切り替わったとしたら……中身はまるで別人だと解っていても、果たしてその身体を切り刻めるかしら? ―― ピラミッドで会った精霊が、やたらと勇者の“精神”を試したがっていたのは、魔王討伐にはそういう裏があるからだと思う。今の所、魔王を倒した後に自害したという記述があるのはエガオンのみだけど……他に例があるかどうかはともかく、代々勇者の手助けをしてきたっていう精霊達としても、きっと下手にそういう犠牲者を出したくはないんでしょうね」


「例え、身近な人間が変貌するわけじゃなくても、魔王というのは、つまりは“元・人間”な訳だ。それを知って尚、魔王を倒す『強さ』があるのか……精霊はそう問いたかったんだな」


 ブルーさんがそう捕捉し、場が再び、暫しの沈黙に支配される。


「……けっ、あのムカつく精霊ども、端から全部説明していきゃいいじゃねーか。魔王がそんな厄介なヤツと知ってて、人にばっかり始末押し付けてるのも腹立つぜ」

「そこは、精霊の事情もあるさ。精霊は下手に、他の命を奪えない。それが、魔法力に於いては他種族を圧倒する彼らに課せられた“禁忌”ってやつだ ―― もし破れば、その身は魔性に分類される『闇精霊』と化してしまう。だから勇者の手助けしかできないんだろう」


 胸の中の、表現し難いもやもや感をぶつける様なスバノンの発言に、ブルーさんがそう返している間。私は以前、レディアさんが深刻そうに言っていた言葉を思い出していた。



(魔王が本当に悪者だったなら、よかったんだ)



 リンさんの説明だと、魔王と化する前の「人間」は、確かに悪者とは言えない性格だった様だ。でも、果たして魔王と成り果てた後はどうなのだろう? そこに、乗っ取った人間の性格は反映されるのだろうか、それとも……。


 魔王が直接、自らの力を振るった事はないともリンさんは言ったけど。それが即、魔王本体も平和主義の穏やかな性質だと証明できるものではないだろうに ―― だが、そこで別の事を思い出す。あの、ここ最近に見た『特異な夢』だ。もしも、あれが私の、占い師的な能力により視る事の出来た“真実”なら……魔王は悪しき存在、とは言い難くなってくる気もするのだが。


「お兄ちゃんは、この事を調べてずっと旅してたの? どうして?」


 ふと思考の迷路から浮かび上がると、アスティがそんな質問をしている所だった。


「んー、きっかけは……とある歴史書を見てたらさ、モンスターってのは時期によって、多かったり逆にまるでいなかったり、ひとつの種族としてはあまりにも不自然な生態をしてるってのを発見したからかな。ただ、ずっとではないよ。僕もレディアも、この件を調べ始めたのは割と最近なんだ」


「私も、ギメルが土地条件は悪くないのにまるで再興しないのが、ちょっと不思議だったから、その歴史を調べてみたくなっただけ。まあ、これだけ不幸が重なってれば、人情的には避けたい土地でしょうね……後は、私もリンちゃんと同じく、暫くは静かに暮らすかな。皆が魔王を探すって言うなら、協力はしても良いけど……どうするの?」


 最後は問いかけの形でレディアさんが言うと、真っ先に答えたのはスバノンだった。


「―― 俺は魔王をぶっ倒すぜ。どんな事情があろうが、そいつはモンスターを生み続けるんだから。きっと魔王も願ってるぜ。誰か倒しに来てくれって」

「俺は……正直言って、魔王をどうすべきか分からない」


 ブルーさんは、ピラミッドでの時より迷いが生じている風だった。


「人の命を奪うモンスターはとても憎い。だが、そのモンスターを生み出すからと言って……話を聞いてると、魔王までが憎いと思える訳じゃないんだ。だから ―― 皆に合わせるよ」

「お兄ちゃんは、休むとか言ってたけど……魔王探しはしないの?」


 アスティは、自分よりまずリンさんの意思確認をとっている。彼の意思によっては、また暫く離れ離れになるのが寂しいのかも知れなかった。


「僕は、皆が魔王を倒しに行くなら応援するけど、自分は休むよ。僕は戦う事が好きじゃないんだ。また違う何かを調べに世界を回る。……それでいい」

「む~……戦う力はあるくせにぃ……。じゃ、私は ―― エルフィンについていく。スバノンは張り切ってるけど、お兄ちゃんはこんな風だし……」

「そっか……エルフィンちゃん。アスティを頼んだよ」

「な、何それ?」


「実際、精霊たちが『当代の勇者』と認めたのは、エルフィンちゃんなのよね。と言う事は、少なくても彼らはエルフィンちゃんが旅に出る事を望んでるでしょう。―― 本人はどうなのかな?」


 兄妹の、微笑ましい会話を聞いている場合ではない様だった。不意に向けられたレディアさんの問いに、だが私は……即答できる程の「何か」は未だ持っていなかった。


 スバノンの主張も、ブルーさんの迷いも、リンさん達の平穏な生活を望む姿勢も。そのどれもが理解できるし、でもそれだけに、どれか1つだけが“正解”な訳ではない。ただ……まずは、『現在の魔王』に会ってみたい。果たして今の魔王は、あの夢の中の様に、人々の艱難を嘆き悲しむ心の持ち主なのか否か。それをまずは、会って確かめてみたいとは思った。


「て事は、魔王『探索』はするってことね。それが『討伐』になるかは置いておくとして……まあ、それなら私は一応、協力して旅に出るわ」

「そっか。ただ、旅に出るとしても、まずは支度しないとだろうしアリシアに帰ろうか」


「それもいいけど、リンちゃん。そっちの班で『精霊王の冠』は見つけられたの?」

「あー、そういやなかったね。レディアの方も? ……ん~。じゃ、お互いが通ってこなかった、あっちの魔法陣へ行ってみようか。帰り道のついでに見つけられればラッキーだしね」


 ひとまずの方針は決まったと見て取ったか、リンさんが手早く帰り支度を始めていると、レディアさんが彼の“忘れ物”を指摘した。確かに精霊達の言葉を信じれば、この遺跡に彼らの助力としてのアイテム『精霊王の冠』が眠っている筈だ。……それを役立てる日が来るのかどうかは、今の所は解らないけれど。

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