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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 六.廃墟の街が語るもの ―
43/68

6‐3

「なんか、不思議な短剣……淡く霧が出てる感じ」

「ミラージュタッチっていう、ちょっとした秘宝ね。この遺跡、結構失われた武具が多く封じられてるみたい。探検しがいがあるね」


 アスティが、軽く振りかざしてはその輝き具合を不思議がっている剣についても、レディアさんは前知識があるらしかった。つい先程見つけた“ラクリスの杖”に関しても詳しかったし、彼女はよほど探究の日々を積み重ね、知識を蓄えまくってきたものらしい。


「アスティちゃんは基本が魔法使いだから、さっきのラクリスでも良いんだけど。少しは物理もいけるみたいだし、何ならその短剣を装備する? ミラージュタッチは確か、回避率も上がる効果があったし……その場合、ちょっとした技もサービスで教えてあげちゃうよ」

「え、ほんとっ? ならこれを使うかなぁ♪ 杖はブルーさんの方が向いてそうだしね」


 以前、フォルスとの戦いの際に杖を失ったブルーさんは、その後ラーンさんから“ヒート・スタッフ”と言う魔法力が篭った杖を、ちゃっかりせしめてはいた。けれど、レディアさん曰く、ラクリスの杖はその昔“泉の魔導師”との二つ名で呼ばれた大魔道士が己の魔力の大半を封じた上で、遺産としてこの世に残した伝説の杖らしい。それ故、もしもこの先魔王と戦うつもりがあるのなら、操る杖は断然こちらの方が良いだろうとの事だった。


「んー、それにしても移動の魔法陣がやたらと増えてきたねぇ……道が解らなくなってきちゃった」


 剣を腰辺りへ収めたアスティの言う通り、地下階層へ移動する毎に、転移魔法陣はその数を増やしている。複雑な構造故か、魔物の数自体は逆に減ってきているので、安全さと言う意味では上の階より良いのかも知れないが。


「あ、そこにもあるね魔法陣。これって使ったっけ?」

「それは……確か、まだだったかな。試しに入ってみようか」


 流石のレディアさんでも、そろそろ道に迷い始めた気配がある中、新たなものと思われる魔法陣へ皆で足を踏み入れてみる。転送先に即モンスター、と言う例は今の所はないといえ、一応は警戒しながら移動が終わるのを待っていると。


「あれ?」


 周囲の光景が切り替わると同時、聞き覚えのある声がした。


「あれ、お兄ちゃん。なんでいるの?」

「……どうやら、この部屋に繋がる魔法陣は1つじゃないみたいだね。ま、座りなよ」

「あら、その書棚……リンちゃん。何か情報つかめたの?」

「うん、中々核心に迫れてるかもね」


 そこは、転移のものとは別の、大きな魔法陣が床の一部に描かれた、部屋と言うよりまるで城の舞踏会用のホールとさえ言える大きな空間だった。たった今私達の転送されてきた魔法陣と丁度、正反対の壁近くには幾つもの書棚が並んでいる。リンさんが手にしている書物も、恐らくそこから持ち出したものだろう。


「……ん。あれ、アスティ達も着いたのか。ならそろそろ、説明聞けるころなんかな?」


 そんな声が右手からする。見ればそこには、古びてはいるが未だしっかりしていそうな寝台が幾つもあって、その1つからスバノンが起きてくる所だった。同様にブルーさんも這い出てきた辺り、こちらの班は、どうやらそこで仮眠を取っていたものらしい。


「あー、もうちょっとだけ待ってくれるかな? レディア、ちょっと手伝って。後そっちの本だけ書き写せば終わるんだ」

「はいはい。じゃ、写し終ったらピラミッドでの情報と、まとめも必要ね」


 呼ばれたレディアさんが、リンさんの傍にあった大きなテーブルにつくと即座に古文書の解読に取りかかる。リンさんもまた、レディアさんに負けないスピードで何事かをメモしているのを見るに、少なくとも古代文字に関しての知識は2人とも同等らしかった。


「……よし、これで調べたい事は調べられた。町に帰ったら、僕はしばらく休むとするかなぁ」

「そうだね。私も、これだけ情報つかめれば満足だよ」


「おいおい……2人だけで分かり合ってないで、説明頼むぜ?」


 さほど時間が経たぬ内、必要な解読は終えたらしいリンさん達が、お互い仕事をやり切った感で頷き合うのへスバノンがすかさず言った。レディアさんはまだしも、リンさんの方は下手をすると本当に、説明など忘れたまま町に帰りかねない気配がある。


「あ、そっか。んー、じゃ少しまとめ上げて……」


 そうは言っても、改めて書類を作り上げるといった作業はしないらしい。ほんの僅かな間、目を閉じて黙考していたリンさんは、どこか楽しそうにネコ耳を震わせ微笑んだ。


「さて、じゃあ始めますか。題して“勇者と魔王・砂漠のロマンス”編~♪」


「―― リンちゃん? 真面目にやらないと、サークルブレイズだからね?」

「あ、あははは~……まぁ冗談はさておき、と」


 至極真面目な顔で、感情の抜けた様な声音のレディアさんに、リンさんの笑顔がやや強張った。


 火炎魔法の、ほぼ最上級呪文など放たれては、さしもの彼でも逃げる暇なく“猫の丸焼き”になってしまうだろう。ついでに我々まで巻き添えになりかねないが、その辺まではレディアさんも考慮してくれてはいないらしい……やはり、うっかり逆鱗に触れる訳には行かない女性の様だ。


 仕切り直したリンさんは、彼としては真剣そうな表情になると、ゆっくりと語り出した。


「まずは魔王の方から、始めようか。……今から、史料に残る限り千年近く昔の事。人々は今と同じ様に、数多くのモンスターの脅威に晒されながら生きていた。魔物達の頂点に立つのが魔王、その存在は生きているだけで次々モンスターを生み出し続けるという厄介なものだった……」

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