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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 六.廃墟の街が語るもの ―
42/68

6‐2

「……ちゃん、……エルフィンちゃん? 大丈夫? なんか、凄くうなされてたよ」


 気が付くと、焚火の灯りに照らされたレディアさんの顔が、心配そうに覗きこんでいた。


 起き上がってはみたものの、今ひとつ状況が飲みこめず困ってしまう。それを素早く見てとったか、彼女が説明と共に水を差し出してくれた。


「本当は、まだ見張り交代の時間じゃないけどね。あんまり酷くうなされてたからさ……何か悪い夢でも見た?」


 お礼を言い、受け取った水を喉に流し込むと漸く、少しは頭も落ち着いたようだ。同時に、今の自分達がギメル地下の広大な遺跡の中で探検中だった事も思い出す。



 アリシア南部のデスヒルズ砂漠は、アリシアとセレン王都を隔てる、砂漠地帯でも“最大の難所”とされる特殊な砂漠だった。ある法則に従った歩き方をしない限り、土地神の悪戯か永遠にこの地帯を抜け出す事が叶わず、下手をすれば渇き死にしてしまう。

 事前に下調べをしていたリンさんのお陰で、その突破は叶ったものの、いざ到着したギメルは「かつてはアリシアと並ぶ程の発展を遂げていた」と言う話が信じられない様な、あまりに荒れ果てた廃墟だった。未だ湧水は枯れていないにも関わらず町が再建されないのも、或いは町の滅んだ理由、及びこの町出身の勇者エガオンの壮絶な人生が原因かもしれない……とは歴史家の一面を持つレディアさんの推測である。


「僕の得た情報が正しければ、どこかの家にストラウス遺跡へ繋がる隠し階段がある筈。簡単には見つからないと思うけど、動かせる棚とかあるかもしれない。根気よく探そうか」


 リンさんの言葉に、まずは点在する廃屋の調査から始め……やがて見つけた地下への階段から、地上の町と変わらぬ規模ではないか? と思わせる広大な遺跡に潜り込んだのが半日以上は前だと思う。

 内部は単純に全ての空間が繋がっている訳ではなく、未だ生きている“転移魔法陣”で幾つかの分断されたエリアが結ばれている、という造りになっていて、何度か移動を繰り返す内に、「これは二手に分かれた方が探検の効率としては良いのでは」と言う話になった。

 

 班分けをどうするかは当初、リンさんが決める筈だったが……。


「私はエルフィンと一緒が良いっ。あ、あとレディアさんもかな~」


 さっさと、そう主張して私達の手をつかみ、にっこり笑ったアスティの提案が一発で通る形となったのだった。


「ん~、両手に花……て感じ。シアワセ……♪」


「―― リンちゃん。この子、だいじょうぶ?」

「あー、まぁアスティは単に“綺麗なもの好き”なだけだから。害はないよ、多分」


 あまりに《ほわわ~ん》とした表情のアスティに、結構本気で心配したらしいレディアさんが聞いたものの、リンさんはあっさりそう言って笑っただけだった。


「えー、でもこれだと回復役がそっちに固まってない? ……アスティちゃんと変なの交代でもいいんじゃないかな」


 表面上は、そんなまともな意見を述べるのはブルーさんだったが。その肩に、ぽんっと手が置かれ、彼が振り向いた先にはリンさんの、それはにこやかな顔があった。


「回復なら僕にもできるよ。アスティが出来る事はほぼ全部、僕もできる。なんたってアスティの『お兄様』だからね ―― お兄様のありがたぁ~いヒーリング、受けたくないかい?」

「あ、いや別にそれは……まあ、じゃとりあえずこのまま、行ってみますか……」


 ―― 果たして本当にヒーリングを受けられるのかは、やや疑問だったが……ともあれ、そんな調子で二方向に別れたのが6,7時間は前だったか。



 ピラミッドで置いて行かれた分も頑張る気だったのか、張り切りすぎの感があったアスティが、魔物達との戦闘で神聖魔法を多用し過ぎでバテてしまい、一時休息を……と言う事で、この小部屋めいた空間で交代で仮眠を取る事にしたのだと、やっとそこまでを思いだした時。ふと気が付くと、レディアさんが何かを探る様な目でこちらをじっと見据えていた。


「……確か、精霊が言ってたね。《勇者の条件は、魔王の魂と呼応するか否か》だって」


 何事かと聞いてみると、彼女はそんな言葉の後、ずばりと切り出す。


「エルフィンちゃん、もしかして……夢で、魔王と会ってたりする?」


 ―― すぐには返事が出来なかった。別に誤魔化そうとか、そういう意図はないが、ただ私の見る『特異な夢』が果たして、本当に「魔王と呼応するもの」なのか判別がつけられなかったからだ。


 だが、確かにこの所、連続でそうした単語が出て来る事に間違いはない。もしかすると本当に、関係はあるのかも……ひとまずここは相談と言う形で伝えておくのも良いかと、レディアさんに今までの夢の内容を大まかに教えてみた。ついでに、自分の半端な“能力”についても。


「成る程、『夢の遣い手』ね……エルフィンちゃん、あなた確かこの地域関連の歴史書は読んだ事なかったわよね? そして私もリンちゃんも、ギメルの歴史の詳細はまだ語ってなかった筈よね?」


 彼女は一度、そう確認を取り、私が頷くと再び口を開いた。


「少し前に見たっていう、その夢の“ギメルの事件”は本物よ。ギメルはある日突然、魔物の急襲にあって滅んでいる ―― そして、勇者エガオンと旅をした者が『魔王そのもの』だった事は、先日、精霊が証言したばかり……細かな点はともかく、おおよその部分でその夢は『実際の過去』とみて間違いなさそうね」


 レディアさんは少しの間、言葉を切って黙り込む。ややあって再び語り始めた口調は、いつになく深刻そうなものだった。


「やっぱり、精霊の言う通りかも。魔王が本当に悪者だったなら、よかったんだ。そうすれば、エガオンも、そのもっと前の英雄達だって、何も苦しまずに済んだのに」


 半ば自分の考えに没頭しているらしき彼女のその言葉は、今ひとつ捉えどころのないものだった。いや、正確にはある程度は解る気がするのだが……解りかけたものを明確な言葉として認識するには、私の何かがまだ足りないと言うべきか。


 早くこの遺跡の調査を終えて、彼女達が全ての情報を説明してくれれば、或いはきちんとした答えが見えるかも知れない。今はそれに期待するしかなさそうか、とひとまずは気持ちを切り替え、レディアさんと見張り役を交代する事にした。


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