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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 六.廃墟の街が語るもの ―
41/68

6‐1

 ―― また、ここへ篭らねばならない時期が来たか。


 暗鬱たる“避難所”は、確かに『魔王』の溢れる力を人間界に垂れ流しにしない為には必要な場所ではあるが、決して好ましい空間ではない。次々生まれ出でる魔物達の要求に押される形で、人間達の王の如き玉座まで用意されてしまっているのが、またやりきれない気にさせる……。


 しかも彼らときた日には、こちらの意思などお構いなしに地上で暴れ回り、人間達との確執をどんどん深めていってしまう。仲良くしろ、とまでは流石に言えないが、無用な流血沙汰くらい抑えてくれれば、少しは人間からの憎悪も減るであろうのに。


「あんた、平和を望んでるんだってなぁ。よく言えるもんだぜ。あんたが存在するから、俺らモンスターは生まれるのによぉ」

「あんた、魔王なんだろ? もっと世界を恐怖に陥れろよ。あんたがやらなくったって、俺らは俺らで、好き勝手やらせてもらうがな」

「あんたが望まなくても、俺らモンスターは生まれてくるんだ。あんたが望まなくても、俺らは世界を荒らしまわる。それが魔性の血ってもんだ。生まれてきたからには、俺らは血に従い自由に動く。それを止めれるものなら、止めてみろよ」


 何とか、この空間へと封じ込めた連中にしても、こうして延々と呪詛めいた抗議に終始するばかりで、こちらの話など聞く耳さえ持ちはしない。俺としても、如何に魔物といえ一度生じた命を無慈悲に奪いたくもないが……彼らは勘違いしている、魔王はあくまで『魔の頂点に立ち得る力の持ち主』と言うだけであって『魔を率い他の種族を滅する者』ではないというのに。


 溜息ばかりが伴う“避難所”暮らしに ―― また憂鬱な「連絡」が届く。


 この空間に籠る時期でも、外界の情報を得られる様にと設置した霊視鏡が反応したのを感じ、部屋を移動する。そこに映されていたのは、まあ予想するまでもなかった事だが……またしてもモンスター達の暴走の図であった。



「くそっ、なんでモンスターがこんなところまで……町の皆はやられちまったのかよ!?」


 どこの村かは解らないが、恐らくは王都や大都市から離れた小村だろう。従って大した武具も持っていない男が、それでも巨体の魔物に必死で抗っていた。


「だめだ……攻撃が全然効いてねえ……ぐああぁぁっ!!」


 だがその瞳が怯みかけた、その時。竜族らしい魔物の容赦ない火炎が男をあっという間に呑み込み、彼の姿をただ1個の骨と化させる。


 魔物はそのまま、彼が守っていたらしき人家へと潜り込み……中で一頻り女性や子供のものと思しき悲鳴が響いた後、炎と共にまた現れた。そのまま更に村内へと歩いていくが……この村はどうやらもう、その炎によって滅んでしまっている様だった。



 ―― そうした情報を得る事は出来るが、魔物達の暴挙を止める術はない。それが何より、やりきれない「制約」だった。一部の魔物の異空転送程度は出来ても、それ以上の「力」を送り込んだり俺自身が現地へと向かってしまうと、逆に事態を悪化させかねない。完全に目覚め切る前の俺では、魔王の力の制御はあまりにも困難だから、ただ耐えるしかないのが現状なのだ。


 ふと思い出して、霊視鏡へある村を映じる様にと命を出す。


 すぐに切り替わった映像の中には、人間界ではかなり有名な聖樹を抱く村。……そして、そこに暮らす『希望』が在った。


 百年ほど前の、あの失敗は繰り返すまいと魔除けの大樹の下に置いた『希望』は、しかしそれが災いしたか成長が遅れているようだ。早く俺を探し当ててもらわねば、そろそろ限界が来そうな頃合なのだが……果たして間に合ってくれるだろうか。


 繊細な体つきの、亜麻色の髪の少女。淡い水色の瞳には、数多の魔法を使いこなし得る知性が宿り、『精霊の加護篤き者』の特徴たる耳が、見かけによらぬ武勇をも彼女に約束してはいるけれど。果たしてあの子は、この俺を……魔王を倒す勇者に、なり得るだろうか?



「……なってもらわないと、困るんだ。君から感じる、特別なものは ―― 紛れもなく“勇者の資質”なんだから。いずれは俺に刃を向ける、その予感を感じるからこそ、俺は君の為に手がかりや仕掛けをばら撒いた。……早く、おいで。ここまで……エルフィン」

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