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その髪だけでなく、容姿もまた申し分のない麗しさ。紫玉、との呼び名は髪色のみならず、その全身の輝きぶりを指して称えるものなのだろう。それにしても、はて ―― この女性、どこかで一度会った様な?
「あははは、残念でした。彼女は僕の友人だ」
「レディアと言います。よろしくね」
どこか硬い表情ながら、声音自体は普通に名乗りを上げるその女性の、暗紫色の瞳を見た時はたと気づく。―― あの夢だ。
彼女もまた、ユグドを発った日のあの悪夢に、ブルーさんと共に出てきた女性そのものだった。これで夢の顔ぶれが全て、自分の周囲に揃った事になるけれど……これは一体……?
「ど、どうも……よろしく」
「な、なんだか気難しそうな人だな」
「そんなことないよ。とっても面白くて良い人さ」
少し考え込んでしまった脇では、アスティやスバノンの言葉にリンさんがそんな紹介を添えていた。遅れてしまったが、私も急いで簡単な挨拶を述べておく。
一頻りお互いの自己紹介が済むと、レディアさんはリンさんへ視線を向けた。
「じゃ、リンちゃん。私はそろそろ、ピラミッドに行くね」
「んー……ほんとに一人で大丈夫? 僕も一緒に行くよ」
「昨日、ほぼ徹夜で資料漁ってた疲れ残ってるでしょ。せっかく妹さんも来てくれたんだし、ゆっくり休んでていいよ」
「あははは、大丈夫。疲れなんてほら、ヒーリングで治っちゃった」
「ヒーリングで何でも治れば苦労しないよ。休みを取るのも作業の内だよ? じゃ、行ってくるね」
「あ、あははー……気をつけてね」
そんなやり取りの後、レディアさんは皆に軽く頭を下げて出て行った。見た目通り大分きびきびした女性の様だ。さしものリンさんでも、彼女には敵わない所があるらしい。
「資料……そう言えばお兄ちゃん。なんでお兄ちゃんは、あちこち旅を続けてるの? 他にも色々、聞いてみたい事はあるんだけど」
「んー? 旅を続ける理由は、調べ物さ。その他は……めんどくさいから教えなーい♪」
「……うぅ……いぢわるぅ~」
「ねね、リンさん。ピラミッドってなに? 何があるわけ?」
アスティに対しては、あっという間にリンさんらしさを取り戻して彼女を不貞させているが。その脇からはスバノンが、先の会話に出てきた単語に反応して問いかける。
「ピラミッドは昔から、英雄たちの墓って言われててさ。まあ遺跡みたいなものだけど、何があるかはっきりは分からないんだ。でも、何かしらは必ずある。レディアは色々な謎を解き明かすのが趣味みたいな探究者でね、そこらが僕と気が合って、僕の調べ物に協力してくれてるんだ」
―― ピラミッド。どこかで聞いた気もするけれど……どこだったろう?
考える私の傍らでは、ブルーさんもどこか思案気な声で。
「俺も話には聞いた事ありますよ。モンスターが幽閉されてるとかって……あの人、町でも評判の冒険者らしいですけど、女性には違いないし、ひとりじゃ危険なんじゃないかな?」
「モンスター? そりゃまずい。危険な場所なら、俺たちもレディアさんに協力しよう」
「そうだね……やっぱり心配だ。みんなで後を追おうか」
「いや、リンさんとアスティはここに残ってていいよ。せっかく会えたんだし、ゆっくりしてて」
テーブル下の、彼のものらしい荷物へ手を伸ばしかけるリンさんを、スバノンが抑える。ブルーさんも珍しく彼に賛同する様に、後へ続けた。
「そうだね。レディアさんが一人で行くって言った、その気遣いを無駄にしたくないし」
「そそ。俺たちに任せて、2人で休んでなって」
「そっか ―― そうだね。じゃお言葉に甘えて君たち3人に任せるよ」
「おうっ。さて、じゃさっそくレディアさんを探さないとな」
「あー、きっと彼女の事だからまだアリシアにいると思うよ。あれで意外とのんびり屋だし」
「分かった。じゃアスティ、ゆっくり甘えてな」
「そ、それはないよぉ……」
言いつつも、既に結構リンさんに貼りつき状態なアスティを残し、町へと向かう。……未だに何か記憶に引っかかるものを、明確に出来ないもどかしさに悩みつつ。




