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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 五.砂漠に眠る伝説 ―
36/68

5‐4

 レディアさんの家からほど近い、オアシスの恵みそのものたる湖の畔。ナツメヤシの葉陰に、休息する様に座り込む彼女を見つけるには、そう時間はかからなかった。


 けれど、その姿に近づいてみると……休んでいる、と言うより何やら「黄昏ている」といった気配が背中に漂っている。どこか声のかけづらい、その空気に気圧され気味になっていると……。


「―― やっぱり一人じゃ怖いよ~」


 そんな呟きが、葉擦れの音と共に聞こえてきた。


「んーどうしよっかな~。やっぱり行かないかな~」


 更に呟きつつ、座り込んだ砂地に指先で「のの字」など書いちゃったりしている様子は……腕利きの冒険家と言うよりは、迷子の幼児のようだった……。


「あ、あの~……レディアさん?」

「わっ!?」


 スバノンが、おそるおそる声をかけてみると。どうやら本気で我々の接近に気づいていなかったらしく、軽く飛び上がって驚いた。―― 暫しの沈黙の後。


「……ふっ。ピラミッドなんて一人でも余裕さっ」


 余裕気な表情で、うそぶいて見せるものの……こちらを「チラッ」と横目で見たりする辺り、動揺は隠しきれていない。


 なるほど、リンさん曰くの「面白い人」とは、こういう部分を指しているのかも知れない。面白い、と言うより正直、第一印象とのギャップがあまりに……可愛かった。


「えーと……レディアさん、ピラミッドは危険なんだろ? 俺たちもついていくよ」

「え、ほんとにっ!? ―― そっか、それは心強いね。よろしく頼むよ」


 再度のスバノンの言葉に、一瞬心底の歓喜を示した顔は、けどすぐに元通りのクールさを取り戻す。とは言え一度垣間見た素顔は、町の噂になる程の「冷たさ」を払拭して余りある物だった。


 元気よく立ち上がった彼女は、そのまま手を伸ばし……私に握手を求めてきた。


「えと、エルフィンちゃんだっけ? 頼りにしてるからね」

「て、なんでエルフィンだけ?」

「ああ、勿論みんなもだけど……この子の場合、特にね」


 言いつつ、その指が今度は私の耳を引っ張る。繊細な指だと言うのに、やたら力強い。思わずふらつきそうになって、慌てて足に力を入れる羽目になった。


「この子、リンちゃんほどじゃないけど『精霊の加護篤き者』でしょ。て事は、基本的に能力値は一般人よりか高いからね。だから期待度も一番ってことで」

「まあ、確かに弱かないけどさ……ま、いっか。とにかく決まったなら早いとこ行こうぜ」


「あはは、スバノンだっけ? 気を悪くしないでね、悪気はないから。じゃあ早速出発、と言いたい所だけど。ピラミッドは、このアリシアからすぐ東の方に見えてはいるんだけど、険しい山に囲まれてて、そこからじゃ入れないんだ」


「入れないって……じゃ一体、どうやって行くんだ?」


「ピラミッドの更に奥地に、セスナと呼ばれる洞窟があって、それがピラミッドへの抜け道になってるの。ただ、あそこも通るにはちょっと難関があってね。でも、その通り方は、魔法都市ステラにいるヴィープちゃんが知ってたはず。だから、まずはステラに行きましょう」


「え、レディアさん、ヴィープさんを知ってるの?」


 スバノンへの説明の中で出てきた名前に、ブルーさんが反応する。レディアさんは頷いて、気さくな魔道士さんとの関係も語ってくれた。


「昔、今とは違う調べ物の最中に知り合ってね。結構お世話になったんだ。あの頃はよくステラにも遊びに行ってたんだけど ―― そういや最近は行ってないなぁ」

「遊びに、って……もしかして。リンさんに転移の術式を教えたのは……」

「ん? そうだよ、前にヴィープちゃんに聞いてたからね。あ、でも安心して。私も、そう簡単に街の秘密なんてバラさないよ。リンちゃんは安全だから大丈夫」


「まあ、なんていうか……そう祈っておきます」


 ブルーさんも、ラーンさん以外の人にはそう強く出られる性質でもないらしい。数瞬、色々思う様な顔にはなったものの ―― そのまま静かに、一言言ったのみだった。

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