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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 五.砂漠に眠る伝説 ―
33/68

5‐1

 砂漠都市・アリシアは複数の湧水が形成する大きな湖に恵まれた、砂漠の直中にあるとは思えぬ広大な沃地に築かれた一大都市だ。その発展ぶり、そして美しい湖自体を指して「セレンの蒼き宝石」と称される事さえある。噂にこそ聞いてはいたが、いざ当地へと降り立ってみると、予想以上の賑わいと圧倒的な開放感に純粋に驚かされる町だった。


 まともな建造物としての商店のみならず、空き地を見つけては蚤の市が開かれ、道を歩けばどこからともなく民謡らしき歌や愉しげな楽曲が流れて来、往来する人々の身に着ける服も、正に世界中から集まってきたと証明する様に様々だ。そしてそれらが、ただ雑多と終わらず混然と融和し、この都市独自の空気を形成している。町の外周は、砂漠独特の日乾し煉瓦で防壁が築かれてはいるが、それは防衛の為というより単に、町と砂漠の境界線を示しているだけと言った感があった。


「すごいね~……なんて言うか、人に酔いそう……」


 転送所から出ての、アスティの第一声も頷ける。単に酔うだけでなく、自分も自然にこの町の住人と化してしまいそうな、そんな不思議な感覚さえ覚える「世界」だった。


 無事に炎の石を入手し、エーテルタワーに戻ったのが昨夜の事。神像にパワーを再注入しろと言うブルーさんに、ラーンさんはと言えば「眠い」とか「めんどくさい」を連発し彼を怒り、と言うよりは呆れさせていたものだが……確かに深夜も近い刻限だった事もあり、ひとまずは夜が明けてから、と言う話に落ち着いてやっと先程、全ての作業が完遂されてアリシアへのワープが可能となったのだ。


 後は、今度こそはリンさんを見つけ出せれば良いのだが……果たして?


「お、何だあのバカでっかい卵! あれでなに作るってんだろ」

「ほう、あちらは古書市か……何か掘り出し物の文献でもあるかな」

「ねぇエルフィン、あっちのフリマのアクセサリー、エルフィンに似合いそうじゃない? 他にも色々ならんでるよぉ♪ ちょっと見ていこっ」


 ……まぁ、ある程度は予想できた事だけど。ただでさえ食べ歩きに没頭しがちなスバノンに加え、これだけ蚤の市が多ければ扱う品も多いと言う事、他の顔ぶれにとっても興味のある品々が並びすぎている。


 これは暫くは、リンさん探しに入れなそうだ……アスティに手を引かれつつ、苦笑を浮かべるしか手のない自分も結構、彼らと同罪かも知れなかった。


─…‥・‥…─…‥・‥…─…‥・‥…─


「う……う~ん、どうしよ……お兄ちゃん、変な事になってなければいいけど」

「た、たぶん大丈夫だろ? リンさん、あんな調子だし……みょーな事をしても、されてもいなそうにしか思えないって」


「まあ、どちらかってその方が、こちらの話も持ちかけやすいかも知れないけど」

「お前はよけいな事言うなっての。今は特に……」


 何か悩ましげなアスティや、どこか思案気なブルーさんに次々声をかけるスバノンも大変そうだ。……この状況が作り上げられたのは、偏にリンさんの「とある情報」が手に入ってからである。



 めくるめく“蚤の市ワンダーランド”に翻弄されつつも、一応聞き込みは続けていた甲斐があったか、様々な町の噂の中にリンさんの影を見出せたのが半時ほど前の事。 ―― しかしそこには、少々気になる別の人物の存在も見えていた。


「そりゃあんた、“紫玉のレディア”といったらアリシアでも、ちょいと知られた冒険家さ」


 手始めは確か、そんな証言だった気がする。


「腕っぷしも大したもんだが、頭もかなり冴えててな。世界に転がってる多くの謎を次々解き明かしていく研究者でもある。それに見た目がな ―― かなりぐっとくる美女でなぁ」


「ところが、放ってる気配がやたら冷たくってな……まあそこもまた、いいっちゃいいんだが、とにかく下手な男じゃ近寄れもしねぇ。いわゆる“高嶺の花”ってやつさ……ところが、だ」


「おお、そんな花の所によ、最近どっかからぶらりと来た若いのが転がり込んだって、あの界隈じゃちょっとした噂になってるのさ。なんでも、かなり血の濃そうな『精霊の加護篤き者』らしいんだけどな。ああいう女にゃ、そんな変わり種の方がウケるのかも知れねぇなぁ。ん? その若いの? ……ああ、何でも派手な金髪の、笑えるほど見事なネコ耳生やした奴らしいぜ」



 ――「つい最近」と「ネコ耳」のキーワードから、ほぼ間違いはないだろう、という訳で、ともかく件の女性冒険者の家を聞き出し、向かってみる事にはしたのだが。


「え、えーと……ここでいいんだよね確か……」


 そう確認しつつ、何やら躊躇した様に扉を叩く手の止まっているアスティの心境は如何ばかりか……だが、それでは埒があかないとばかりに、スバノンが代わって戸を叩く。


「もしもし~、誰かいませんかー」

「ちょ、ちょっとスバノンっ」


 慌てた様なアスティの声に、重なるかの返事がすぐに中から届けられる。


「いませんよー。とか言ったら、怒るかな?」



 ―― そんな言葉と共に開いた扉から覗いたのは……。



「お……お兄ちゃんっ!! ―― お兄ちゃんのバカぁ~っ! 足速すぎるよぉ!!」

「アスティ? ……って、いったい何の話さ?」


 その姿を確認するや、首っ玉にしがみついて半泣き状態のアスティに、リンさんが吃驚した様に聞き返した。元々が猫めいた大きな瞳がさらに見開かれたまま、こちらの方へ向けられる。


「お~、エルフィンちゃんとスバノンまで。なになに? 皆どうしたの?」

「えっとね。えっと、んーと。お兄ちゃんを探してたの!」

「―― アスティ、とりあえず落ち着け」


 思わず頭を押さえかけたスバノンが、気を取り直した様に彼女の代理で説明し始めた。

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