表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 四.魔法塔に迫る影 ―
28/68

4‐5

「……本当に強くなったな、エガオン」

「あ?」


 剣についた血糊を振り払いながらこちらを見る彼は、今更何言ってんだ? という顔だった。


「そりゃお前、来る日も来る日もモンスターと実戦してりゃ嫌でもそーなるだろ。つか、俺は言いたい。すっげー言いたいっ。……何なんだよ、その保護者目線は!」

「っ!? お、おい何でいきなり氷結魔法なんか放つんだっ」

「うるせー! 火炎魔法じゃないだけ感謝しろ!!」

「いや、どちらかと言えばその方が、俺も得意な分相殺しやす……何故殴るっ??」

「テメーはマジで一回、泣かせてやるっ。覚悟してろよコノヤロー」


 やたら不穏な台詞を吐くが、ひとまず謎の連続攻撃は止んでくれたので安堵する。普段は気の良い奴なのに、時々やけに攻撃的な所が困り物の親友だが……しかし、成長したものだと思う。



 ある夜、唐突に故郷の砂漠都市・ギメルが魔物達の急襲によって亡んだのは、もう半年以上も前になるか……幾つかの幸運が重なって奇跡的に生き残ったエガオンは、だが余程の精神的ダメージを受けたのだろう、暫くの間まるで別人の様に寡黙な、笑顔1つ浮かべない青年になっていた。


 魔物を生み出す、諸悪の根源たる魔王を倒す旅に出ると、だから一緒に来てくれと言われたのは、その一ヶ月ほど後の事だったか。そう言いに来るまで一体どんな修業を積んだものか、それまで得物は槍だった彼は、剣や斧、果ては苦手だった筈の魔法までも使いこなす武芸百般な勇士となっていた。


 旅を始めてからは、前より一層騒がしい……もとい、明るい饒舌な相棒であり続けている。ともすれば道化師とさえ取られかねない程だが、これで一度戦闘となれば、表情からして一転、怒涛の勢いで数多の敵を倒していくのだから凄まじい。魔物達からすれば『恐怖が人の姿を取って』やってきた様な物に映る事だろう。


 しみじみ、その成長ぶりを嬉しく思う ―― ああ成る程。「保護者目線」とはこの事か。


 2つばかり年下のせいか、つい彼のことを弟の様に見てしまう事があるが……エガオンからすれば、それが気に入らないと言う事なのだろう。一応、今後は気をつけておくとしよう。


 もっとも『本当の俺』からすれば彼は、2つどころか軽く千歳は年下の、いわば赤子なのだが。



「そういえばエガオン、その剣もそろそろ、刃毀れが目立ってきてるぞ。使い物にならなくなる前に、この前得た情報の場所に行ってみないか?」


「んー、ピラミッド……“英雄の墓”だっけか。精霊の助力が得られる場所って言ってたが、どーゆー意味かな。都合よく伝説の武器とかくれちゃったり、するのかね?」

「武器かも知れんし、防具や魔法具かも知れんが何かしら得るものはある筈だ。もし武器でなかったなら、それは何処かの町で買えばいいさ」


「町か~何だか久しぶりだな。ちょいと酒場でひと騒ぎとかしたいところだなっ♪」

「……それはちょっと、止めておけ……」


 結構本気で、思わず言った。戦場で長い銀髪を靡かせつつ駆ける彼は、神々しくさえ映るのだが……酒場で髪を振り乱しつつ暴れている様は流石に少々、友人としては見たくない光景だ。前に一度、それでかなり手酷い店内乱闘が勃発して、その町の酒場には出入り禁止になってしまった事をもう忘れているのだろうか?


「なんでだよっ? ま、いっか。その内、魔王をぶっ殺してギメルを復興させたら、町の中央に俺専用のでっかい酒場作ってやる! 可愛い子も揃えてな♪ ……あ、その場合お前は立ち入り禁止な」

「何故だ? 俺はおまえと違って酒癖は悪くないぞ」

「そっちじゃねーよ。女の子がぜ~んぶ! テメーに盗られるからだっ」

「そんな訳があるか。おまえ、自分が立ち寄った町でどれ程注視されてるか気づいてないのか」


 存外、自己評価の低い奴だ。そもそも外見だけでなく、今語った前提に沿えばその状況での彼は『魔王を倒した英雄』である。そんな心配、するだけ無駄と言う程に女性が寄ってきそうなものだ……などと思っていたら。


「―― どの口が抜かすか、この鈍感ヤローっ!!」


「痛っ!? だ、だから何で殴るんだっ。しかも剣でとは酷いぞエガオン!」

「鞘に納めてあるだけありがたいと思いやがれっ!」

「……納まってなかったら大怪我じゃないか……」


「いっそそうしてやりてーよっ! 大体お前は昔っから、ギメル中の女の子の視線を絶賛独占しっ放し状態で、他の野郎共をどんだけ泣かせてたか解ってねぇのか! マーヤもニースも、ディアラとかも、人気あった子達み~んなお前しか眼中になくってよ……あぁ暗い過去思いだしちまったぜ」


「……そうだったのか?」


 そんな話は初耳だ。と言うより、当時のエガオンがここまで女性に興味があったと言うのも、初めて知った。


 結構長い付き合いになるが、それでも新発見できる部分と言うのはあるものなのだな……弟どころか最早、子を育む親の心境で、そんな感慨に耽っていると。


「――……ふ、ふふふ……テメーはやっぱり、一回本気で泣かせてやる」


 エガオン周辺に、何やら極寒の空気が発生している。―― かの有名な『精霊王』でさえ思わず、土下座して謝りたくなるんじゃないか? という程の、やたら凶悪な気配を纏ったエガオンは……勇者の肩書は間違いで、実は魔王なんじゃなかろうか。少なくとも、今の彼を見た初対面の人間ならまず、百人が百人そう判断するに違いない。


「まあアレだ……今はとにかく、町で物資仕入れよーぜっ。ピラミッドまではずっと砂漠が続くんだ、薬もだが水と食料もたっぷり持ってかねーとな」


 だが、これまた急に普段の気配に戻ったエガオンは、今し方の恨み節など全く覚えていないかの様に気さくに、そう言った。何とも激変しまくる相棒だ。―― だが、それも悪くない。

 何のかの言った所で、俺はこの、あまりに人間臭い勇者が気に入っているのだ。だからこそ、いつまでも離れられずに旅を続けてしまっている。共に過ごす日々が長引けば長引く程、彼を苦しめてしまうだろう事は解っているのに、だ。


 だが何れ……最早そう遠くはない未来、俺は否が応にも彼から離れなくてはいけない。今の、人としての俺の意識が残っている内に。


 その時、彼は一体どんな顔をするだろう? きちんと全ては説明するし、到底受け入れては貰えないだろうが心から詫びるつもりもあるけれど。



 彼はその時、何を思うだろう ―――― 俺こそが『ぶっ殺すべき仇敵』の魔王だと知ったら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ