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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 四.魔法塔に迫る影 ―
29/68

4‐6

 スコティッシュは、火山を中心とした「魔の山脈」と呼ばれる山々の麓に位置する港町。だが、近年では何故か、そうした地理条件を無視するかの冷たい雨が降りしきる町となっているそうだ。


 そんな町の、小さな宿屋に泊ったのがつい昨日の事。そこで久々に見た『特異な夢』は……確かに以前とは違い、目覚めてからもかなり詳細まで覚えてはいられたものの、内容は以前にもまして訳が解らないものだった。


 テラスで静かな雨を眺めつつ、小さく溜息をついてしまう。一体あの夢を、どう解釈すれば良いものか? コーストの占い師さんなら何か読み解く事もできるのだろうか。



 ―― あの後、結局“炎の石”の予備はなく、スコティッシュ行への知恵を借りるべく、かの占い師さんを訪ねたのが十日ほど前。最初に、コーストの占いの館を訪ねる様薦めたのはラーンさんだったが、ブルーさんは「占いって……あんたね」と、やや呆れた風だった。だがアスティ達が、


「そう言えば、あの占い師さんは本気で良く当たる人だったよね」

「一発でリンさんの手がかりに辿り着いたよなー」


 と、立て続けに高評価を述べた為に、最後にはブルーさんも占いの館行きに賛同したのだ。


 果たして彼女の占いは見事に当たり、マナプールのファランさんを驚愕させた。「スコティッシュ行の船が休止中なのは、マナプールの圧力が原因」との言が、正に図星だったのである。


「あの島にあるファイヤーケーブは危険だ。そこのモンスターがスコティッシュを襲ったら、あそこはすぐに沈むだろう。あの町は各地の貿易港の中継地となる町。あそこが沈めば、他の土地にも強力な魔物が来る危険性がある。マナプールはその事態を考え……スコティッシュを見捨てたんだ」


 ファランさんは、そう裏事情を明かしてくれた。民はその政策に大反対だったらしいが、命令を下したのはあの国王である。そんな声に動じる筈もなく、結果としてシュトラ、そしてコーストに至るまでがスコティッシュへの船を全て運航休止にする事となり、今に至っているらしい。


 しかしファランさんは、我々がどうしてもスコティッシュに向かわねばならないと告げると、コーストの知人へ連絡を取ってあげると約束してくれた。有難い事に、その知人は船を動かせる立場の人だったのだ。アスティがお礼を言いつつも「お世話になりっ放しだ」と恐縮すると、


「ははは、世の中そんなもんさ」


 ただ、そう言って明るく笑っただけだった。本当に、あの王様の下に置くには勿体ない人だ。



 斯くして、スコティッシュへと来る事は叶ったのだが……。



「最近、スコティッシュは雨が多い。ファイヤーケーブの炎が弱まっているから、雨が良く降るんだって。もしかしたら、炎の石もあまり残ってないのかもね」


 町の人にファイヤーケーブについて聞き込みをしていた際、そんな気になる話が耳に入ってきた。これは、もう少し情報を集めるべきか ―― そう判断し、すぐの出立は見送る事にして、ひとまず町への滞在を決めたのだ。



 今日は、スバノンが町へ出向いて情報収集に勤しんでいる筈だ。アスティは疲れが溜まっているのか、朝食後もまだ眠そうにしていたので、そっとさせるべく部屋においている。ブルーさんは良く解らないが、或いはスバノンを追って外へ行ったかもしれない。……自分もそろそろ、探検の支度など始めねばならないのは解っているのだが。


 どうしても夢に囚われてしまい、何度目かの溜息が零れかけた時……背後に誰かの気配がした。


「一体、何に悩んでるんだ? よかったら相談に乗るよ」


 振り返ると、てっきり出かけたものと思っていたブルーさんの姿があった。はて、けれど宿屋に残っていたのなら何故、アスティの傍に行かないのだろう?


「いや、それは勿論、行ったけど。アスティちゃんは、君がおかしな夢を見て困ってそうだと心配してて、ちっとも人の話を聞いてくれなくってね ―― だからまずは、こっちを解決しないとどうにもならないと思った訳さ」


 なるほど。納得はしたが ―― 何ともまた、利己的な“相談員”さんだ。


 抑えようとはしたものの、呆れの感情が多少面に出てしまったらしい。ブルーさんは、ちょっと困った様に笑うと、そのまま近づいてきて……その手が軽く、私の手を取った。驚いたが、どうやらアスティに対するのとはまるで違った意味らしい、とすぐ気付いて、とりあえずされるがままにしておいた。


「別に、自己中心な理由だけじゃないさ。君は以前、あの監獄で兄貴の亡霊に会った時……俺の事をかなり気遣ってくれてたからね。そのお礼にでもなれば、って気持ちもちゃんとある」


 今度は、その言葉に驚かされる。よもや、あの暗闇の中でこちらの視線に気づいたと言うのか。


「これでも、周囲の視線には割と敏感なんだ。ついでに、分析力にもちょっとは自信がある。……君が『夢の遣い手』だってのはアスティちゃんから聞いた。だから、その夢が普通の人間が見る夢とどこか違うって事も解る。内容に関しては、どこまで解析できるかは解らないけど、ひとまず話してみてくれれば、多少は力になれ ―――― 」


「アスティの次はエルフィンかっ!? この変態魔道士がぁーっ!!!!」


 ―― 語る背中に、何か新たな気配が湧いた、と思った時には遅かった。


「お……お前は……っ! やっぱり俺を殺す気だろっ。どう考えても力加減がおかしいぞ!」

「その前に、お前の行動がおかしいと自覚しろっ!」


 いや……どちらといって、スバノンの力と跳躍力、その他諸々の要素が凝縮された上で放たれる脳天唐竹割りの方が、確実におかしいと思う。何がと言ってその威力が。


 思いはしたが ―― うっかり口にすると、こちらにその脅威が飛び火しそうで思わず口を噤んでしまった。せめてものお詫びに、ブルーさんへはこっそりヒーリングをかけてあげる。しかし、何度も打たれたお陰か、何気にブルーさんの耐久力が上がっている気がするのは……気のせいか?


「何がおかしいか! 俺はただ、悩みごとの相談に乗ろうとしてただけだぞっ」

「相談に乗るだけで何で、手を握る必要があるんだよ!―― 言っとくが、エルフィンはとっくに売約済みだからな、へたに手出すんじゃないぞっ」

「……え? そうなのか? あ、いや別に手を出す気はないが。まさかお前が買ってるとか言うんじゃないだろうな?」


 ブルーさん以上に、こちらが驚愕してしまう。一体いつ、そんな話があっただろう?


 疑問顔なのを見て取ったか、スバノンの顔が、心底呆れたものになった。


「おい、エルフィン……お前本気でボケてきたんじゃないの? 昔言ってただろ、自分を助けてくれた、めったやたらと強い騎士様に認めてもらえるような大人になるって。あれってつまり、そういう事なんじゃね?」


 ―― 言われた瞬間、全身が一気に熱くなってしまった。


 確かに、うっかり忘れていたが……忘却していた内容よりも、幼時の熱意を他人が丸ごと覚えていたという、そちらの方が余程恥ずかしい。言うなれば、子供の頃の失敗談を友人知人の前で親に暴露された時の様な心境、だろうか。


「ま、忘れてよーが構わないけどな。とりあえず、コイツには用心しとけよエルフィン。いつ矛先がそっちに向くか分かったもんじゃないからなっ」

「だから向かんと言うのにっ。お前、その短絡思考なんとかならんのか?」

「アスティに対する前科がある以上、信用ならんわ!」


 だが、こちらの気恥ずかしさなど、どこ吹く風 ―― あっという間にいつものじゃれ合いに移行する2人に、ふと既視感を覚え……そして思い至った。


 この2人、何だか似ているのだ。昨夜の夢に出てきた、あのふたりに ―― あちらの方が更に過激だった気がしなくもないが。それに、あの夢は何処か哀愁が篭っていた気もするけれど。



 この2人は、ずっと仲良しのままならいいのだけど……何故かふと、そんな願いが心をよぎった。

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