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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 四.魔法塔に迫る影 ―
27/68

4‐4

「えっ!? それって、どういうこと?」


 いきなりの宣告に驚くアスティの横から、ラーンさんの傍へと歩み寄ったブルーさんが、どこか不自然なにこやかさで彼女に問うた。


「何? ワープできないってどういうこと?」

「え~とね~……神像にパワー入ってないと思う~」


「はぁ?」


「思い出した~……私が寝てた理由。何か変な人が来てね~、神像からパワー抜き取っていった~……止めようとしたら、眠らされちゃったの~……」


「……」


「え、えへへ~……やっぱり、まずい?」

「どこをどう油断したら、そんな事態になる訳? あんた、仮にもステラ一の魔道士じゃなかったの?? 管理人が神像守れなくってどうするのさ」

「ん~……ごめんね~」



「えっと……神像とかパワーってなに? つまり、今どうなってるの?」


 最後には、怒るのも疲れた様な口調になったブルーさんの後ろから、アスティが問いかける。スバノンにしても、事態がよく呑み込めないのは同じなので視線でずっと問いかけ中だ。


「早い話このワープはね、そこにある神像のパワーで動いてるのさ。管理人は、作動印を結んでそのパワーを引出し、それを魔法陣に与えて転送のエネルギーにするだけなんだ。だから神像のパワーが抜かれてるってことは……アリシアには行けない」


 言われてみれば、魔法陣の少し先には、何の神を表したものか大きな像が立っている。その像には微かな魔法力の残滓が感じられるが、これだけでは本来神像が持っていた力なのか、それともラーンさんを襲った賊のものなのかは判別つけがたい状態だった。


「おい、そしたら手詰まりじゃねえか? また足止め食らうのかよ」

「そうだね。管理人がしっかりしてないから……ラーンさん。その、パワー泥棒の追跡とかできないの? 特徴とか憶えてれば或いは魔力探査も可能じゃないのか、あんたの底無し魔法力なら」


「う~ん……人のような~人じゃないような~。赤い眼だけは印象に残ってるんだけどぉ~」


「―― ようするに、憶えてないんだね……」


「ま、まぁでもアリシアに行きたいって言うなら、神像にパワーを入れ直せばいいよぉ~」

「そんな簡単に言う事? これって天上の結晶と炎の石を媒体にしないと再注入できなかったんじゃない? 天上の結晶は、この塔の中に原料は落ちてるけど、炎の石はファイヤーケーブにしかないんだよ。そういやラーンさん、炎の石の予備はない訳?」

「あるかなぁ~。なかったような気がするけど……」


「……探してこい!!」


「っひど! そんな言い方しなくてもぉ~……行けばいいんでしょ? 行ってくるよぉ~」


 ブルーさんに一喝され、さしもマイペースなラーンさんでも動かざるを得ないかの様に、広間から何処かへと出て行った。それを眼だけで追うと、やっとブルーさんがこちらに戻ってくる。


「おい……結局、何がどーなってるんだ? 難しそうな話ばっかりで解らねぇぞ」

「ああ、つまりこういう事だ……」


 スバノンの問いに、ブルーさんが掻い摘んだ答えをくれた。神像はパワーを盗まれたとしても、その再注入は可能。ただ、それには2種類の魔石が必要で、その内“炎の石”は現在とても入手困難なものらしい。ファイヤーケーブは港町スコティッシュのある島に存在する洞窟だが、そのスコティッシュへの交通手段が、現在は理由不明ながら断たれているが故だ。


「そういや、確かシュトラで運航休止とか書かれてたっけ。じゃ本気で手詰まりか?」

「ラーンさんが炎の石の予備を見つけてくればいいけど、あんまり期待しない方がいいだろう。スコティッシュ行の船は、コーストかシュトラの人に何とか頼み込んで出してもらうしかないな」


「もういいよ……お兄ちゃんに会うの諦めるよ。全然会えないんだもん」


 ふいに、気弱な声で言ったかと思うと、アスティがその場にしゃがみ込んでしまう。……確かに、これだけ長い事追いかけ続け、しかも道中で様々な事件まで解決しつつの旅だったのに、未だ本来の目的が遂げられないとあっては、心も弱ると言うものだ。


 しかし、リンさんを追う理由はそもそも、彼がマナプールに狙われている事を告げる為だ。単にアスティの寂しがりの気質が追わせている訳ではない以上、そう簡単に諦めてもまずいのではなかろうか……だが、それを伝えようとした時、先にブルーさんがアスティの前で屈み込んだ。


「いや、諦めちゃ駄目だ。お兄さんはアリシアで調べごとをしてるんだろ? きっと長く滞在してるはずさ。それに監獄で協力してくれた恩もあるし……君達がもう少しだけ頑張れるなら、俺は喜んで力になるよ」

「ブルーさん……ありがとう。でも……」

「そうだな。ここで諦めちゃ今までの苦労が実らないぜ。あと一歩なんだし、頑張ろうや」

「スバノン……」


 少しの間、視線を彷徨わせたアスティがこちらを見る。それへ、軽く頷いて応えてみせ、そっと蜜色の髪を撫でてあげた。―― 気持ちは皆同じだと、伝える為に。


「……そうだね。もうちょっと頑張って、アリシアに行こっか」


「よし! じゃあ、まずは……ラーンさんが炎の石の予備を確かめてる間、俺たちは天上の結晶を作る為の材料・光の元素を集めようか」

「光の元素? それって、私達でも見えるんですか?」


「アスティちゃんやエルフィンちゃんは、かなり魔法も操れるから問題なく探せるし拾えるよ。余所と違ってここは魔法力に満ちた塔……だから元素も結晶化し易いんだ。そうした元素を利用した実験がやり易いから、ステラの錬金術師達もこの魔法塔が建って大喜びって訳でね」


「へぇ……元素拾いなんて初めて。なんか楽しそうですね」

「まぁ、拾う時は指先に少し魔法力をこめてね。でないと、すぐ崩壊しちゃうから……この塔の至る所に光の元素は落ちている。そうだな……20個くらいあれば、天上の結晶は作れるよ。作成はラーンさんにやらせれば良い事だし」

「よし、やるか!」


 目下の行動が決まれば、気力もそれなりに復活する。元気の戻った足で魔石の原料を探す為に階下へと向かう途中、そう言えば……とスバノンがブルーさんに。


「お前、あのラーンさんって人にやたら厳しいよな? あっちのが2~3年上に見えるし、もうちょい丁寧語とかでもいいんじゃね?」

「―― お前は、あの人を知らんからそういう事が言えるんだ」

「そりゃ会ったばかりだから知らないけど。ただ、ちょっとトロくさそーなだけじゃ?」


 その答えに、何を思い出したものか……ブルーさんの目つきが、遥か遠いものとなる。


「ラーンさんはな……その実力は確かに、ステラでも50年に一度の逸材と言われるくらいの天才ぶりなんだが。とにかく行動がぶっ飛びすぎなんだ……あの人はすぐ近所に住んでた幼馴染で、だから俺はよく彼女の魔法実験の巻き添えを食わされててさ。グランドファイアで火事騒ぎ起こしたり、ダブルサイクロンで家々を薙ぎ払ったりなんて日常茶飯事。いつだったかメテオの契約時に魔力制御を誤って、うちの屋根に集中砲火食らわせた時なんか酷かった ―― その、ほんの二日前に俺がアースヒールを修得してなかったら、今頃俺はここにいなかったぞ……」


「そ、そりゃ……なんつーか、ご愁傷様? で」


「しかも、下手に才能があるもんだから錬金術まで手を出しててな……一度、自分でエリクサーを作ろうとして、何を間違ったか猛毒ガスを生み出して。あの時も、兄貴が毒治療の呪文・キュアを覚えてなかったら、兄弟仲良く三途の川を泳いでたさ……」


 エリクサーとは、魔力を瞬時に大回復させてくれる魔法薬だ。その調合で何故に、毒ガスなどが発生するのだろう? 専門家でなくとも首を傾げる話である。


「―― それ……本当に天才っていうのか? どっちかって“天災”じゃね?」

「まぁ、あれだ。何とかと紙一重、て奴だ……限りな~く薄い紙だと思うがな、間を隔ててるのは」


 それを最後に、後はすっかり黙り込んでしまったブルーさんに、流石にスバノンもかける言葉が見つからなかったようだ。アスティと私も、顔を見合わせたまま二の句が継げずに歩いていく。


 こう見えて、実はかなり苦労人だったのか。何とはなしに、ブルーさんに同情の念が湧いてくる……次からは、もう少しスバノンの“保護活動”から守ってあげようかと思う程度には。

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