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ステラを出て、ほんの数時間程で到着したエーテルタワーは、8階建てと言う割にかなりの高さを誇って見える塔だった。外見以上に内部は広く、そして用途が解らぬ程細分化された部屋を持っているが……基本的には、中心部に敷かれたカーペットを通るだけで良いらしい。
「周辺の小部屋や、そこへの通路にはモンスターが潜んでる。でもカーペットの上を歩けば、そいつらに襲われる心配はない。このカーペットは、聖水に浸した糸で織られているから魔除け効果が高いんだ。だから、ここの管理人も何ら身の心配なく一人で塔を管理できる。8階までの階段付近はずっとカーペットが敷かれてるし、8階はその床全てにカーペットがあるからね」
「へぇ……でも、一人でこれだけ大きな塔の管理だなんて大変そう」
「まあ、実際は塔っていうかワープゾーンの管理、だしね。下の階のモンスター達は、ステラの連中が腕試しの為しょっちゅう倒しに来てるから、放っておいても平気だし。それに現在の管理人・ラーンさんは性格はかなりアレ……いや、マイペースだけど、魔法の腕はステラでも1,2を争う程だから万が一モンスターと戦闘する羽目になっても問題ないよ」
「お前に、アレだとか言われる性格の魔法使いって、どんだけだよ。何か会いたくないよーな」
そんな説明や、アスティ達の感想が交わされる中、足はどんどん階段を上っていく。敵と会わずに済むとなれば、8階と言えどそう時間はかからず到達する事が出来た。
「おーい、ラーンさん……って。ラ、ラーンさん!? しっかりして!!」
だが、いざワープゾーンの設けられているらしい広間に入った途端、ブルーさんの声が慌てたものとなる。見れば、その視線の先 ―― 銀光色の大きな魔法陣が描かれた絨毯の上、髪の長い女性のものと思われる人影が、不自然な姿で打ち倒れていた。雪の様な白さの中に僅かな青みを含む変わった色合いの髪だが、床に乱れ広がった状態ではその美しさを褒め称えるどころではない。
「だ、大丈夫ですか!?」
「おい、まさかモンスターに襲われたとかっ?」
アスティ、スバノンも急いでその傍により、ブルーさんに抱えられた女性の顔を覗き込む。どうやら息はしている様だが……いや、息?
「……すぴ~~~」
――――……何とも安らかな寝息が、全員の耳に聞こえてきた。
「いたっ? ん……んん……??」
ブルーさんが、やおら両腕を広げた為に無造作に床に投げ出された女性が、流石に小さな叫びと共に目を開ける。若草色の双眸が、未だ多量の眠気を含んだ視線を周囲に向け……。
「あ、あれ~? あなた達、誰??」
「いや……ラーンさん。何してたの?」
「ほぇ? あ、ブルーさん……私、寝ちゃってた~……かも……」
「あんた、ここの管理人でしょ? 何、寝てたってどういう事?」
「えへへ~……ウトウトしてたら……寝ちゃった~」
「……はぁ。言葉もないよ、もう……」
「ま、まぁ無事で何よりです」
マイペース、と言う評価は相当的を射たものであるらしい。仮にも年頃の女性が、何故に床の上で無防備に寝てるんだ? とか言う指摘は、この際綺麗に諦めたらしいブルーさんの脇から、取りなす様にアスティが口を挿んだ。
「言いたい事は山ほどあるけど、今は用事が先だ。とりあえず、この人たちをアリシアへ飛ばしたいんだけど、転送準備してくれる?」
「うん? いいよ~。外出るから、勝手に飛んで~」
「いや……一応、あんたの作動印が必要でしょ」
「そんなの、ブルーさんも知ってるでしょぉ~? 私、まだちょっと眠くって~」
「何のための管理人なんだ? あんたは」
本当に眠そうな、欠伸交じりの返事にブルーさんが肩を落とす。―― 何だか、ステラでこの女性の名を聞いた途端に疲れた様な表情になっていた理由が少し解った気がした。
「まあいいや、飛んじゃおう。さ、その魔法陣の中心に入って」
「え、ワープってセルフ的な? ちょちょいと飛べるもんなの?」
「作動印さえ結べば、簡単に飛べる。まあ任せとけって」
スバノンの疑問に、さらりと答えて。全員で魔法陣の中に立ち、ブルーさんがステラ入口での様に、何らかの術式を描こうとした、その時。
「……あっ!!」
「えっ? ど、どうかしました?」
魔法陣の外で、再び居眠りしそうになっていたラーンさんが突然、ひと声叫んだまま凝固してしまう。アスティが問いかけても、暫くじっと無言で固まっていた。
「ラーンさん、どうしたの? もしかして何かやらかした?」
「 ―― やらかした……かも~……」
「……何?」
「今は……ワープできないよ~」




